第4話
04話
世の中には、一目惚れってのがある。
たったの一目だ。
たったの一目で、心から惚れ込む。
それが一目惚れだ。
『悪路の先へ』『世界を見に行く冒険者のために』というキャッチコピーを持つエア○トリーム・ベー○キャンプ16X。
コイツをネットで一目見て、俺は心から惚れた。
圧倒的な存在感を放つ銀色に輝くメタリック・ボディ。
小型ながらも機能性抜群の内装。
そして何よりもオフロード走行を想定した設計思想。
いい。凄くいい。
コイツを愛車のハーレー○ビッドソンで牽引したら、どんなに楽しい旅になるのだろうか?
ネット動画だが、外国で大型バイクでキャンピングトレーラーを牽引していた。
何かカッコいい。憧れる。
でも、日本では道交法か何かでハーレーダビッド○ンで牽引するのは、さすがに無理かも知れない。
だが、アフリカの大地では?
調べてないし、問題があるかも知れない。
だが、あの国の警察が文句を言って来たら、ドル札かユーロ札か何かを握らせて黙らせてやる。
キャンピングトレーラーを扱う様々なディーラー店に連絡を入れ、県外の店舗だったが新品フルスペックのベースキャ○プ16Xまで辿り着いた。
アフリカ行きの準備の為との理由で有給休暇を取り、愛車のハーレーダ○ッドソンUltra Limitedで県外の店舗までドライブだ。
店舗に着いて店長に挨拶し、エアストリ○ム・ベースキャン○16Xを間近で見させて貰った。
美しい。
その一言しか出ない。
ネットではなく直接自分のこの目で見て、さらにコイツに惚れ込んだよ。
こんなの卑怯だ。
とことん男心を擽りやがる。
銀色に光り輝き、高潔で清楚に澄ました雰囲気なのに、まるで全ての男を虜にする魔性の女の様だ。
男なら、コイツの魅力に誰も逃れられない。
いい。めちゃくちゃカッコいい。
絶対欲しい。
こんなメタリックでカッコいいの、男なら絶対欲しがる。
唖然と口を開けてベー○キャンプ16Xに惚れ込んでいると、隣から何やら不穏な気配がして『ハッ!?』と気が付いた。
店長が俺を見てニヤニヤと笑っている。
『ええ、何も言わなくても分かってますよ。男なら皆そうなりますよ。清楚なフリして、コイツはとんだ淫乱ですから』と、そんな感じの顔付きで店長がニヤついてやがる。
クソっ!
悔しいが、店長がニヤつくのも分かる。
エ○ストリームは別格だ。
ネットで様々なキャンピングトレーラーを見たが、エアスト○ームだけは別格だ。
存在そのものが、王者の風格だ。
「あー、買います。買わせてください。ベー○キャンプ16Xが欲しいです。購入手続きをしてください」
「えっ?まだ中の内装すら見てませんけど……」
「あ、すみません。外観だけで圧倒されてました。是非内装も見させてください」
「え、ええ。もちろんです。小林様、靴を脱いでからお入りください。色々説明させて頂きます」
それから30分ぐらいだろうか?内装や設備などを説明して貰った。いや、本当に凄いね、キャンピングトレーラーってのは。ここまで設備が整っているんだ。
あ、そうだ。あのことを一応聞いてみよう……。
「あのー、少し聞きたいことがあるのですが、公道の道交法とか無関係にですね、このベー○キャンプ16Xって1800ccぐらいの大型バイク……自分が乗って来たあのハーレーダビ○ドソンで牽引できますか?実は数ヶ月後にアフリカに行くんですけど……」
「え?えーと、いや、ちょっと分からないですね……そんな質問をされたことは初めてでして……ただ、エアストリ○ムの16フィート以上の推奨は3000cc前後の車にはなっておりますし、それにおそらくハ○レーでは車体重量が全く足らないと思うんですよね……」
「えっと……排気量の問題よりも、車体重量の方が問題が大きい感じですか?」
「もちろん排気量も大きな問題ですが、ちょっとここを見てください。車輪が真ん中より後方にありますよね?アメリカのキャンピングトレーラーは基本的に重心が車体の後方にあり、前のめりになる設計なんですよ」
「えーと、つまりリアカーみたいに前方が沈むと?」
「そうです!そうです!リアカーが分かりやすいですよね。リアカーを動かすには、持ち上げますよね?つまり持ち上げる力と言いますか、垂直方向の過重を支える力も牽引する車には必要になるんですよ」
「あー、つまり軽い車体に連結したら、トレーラーは重力に従い前方に沈んで、牽引する車体が連結部分でのテコの原理か分からないですけど、浮かぶ感じですか?それとも逆にトレーラーの過重に巻き込まれて沈む感じですかね?」
「ちょっと計算してみないと分かりませんけど、牽引するハ○レーのバランスがかなり悪くなるのは確かだと思います」
「じゃあ、垂直方向の過重問題を解決したら、あとは排気量の問題だけですかね?」
「えっ?えーと、そうですね……他にも色々と問題はあるとは思うのですが……あぁ!ブレーキの問題が出るハズです!」
「ブレーキの問題ですか?」
「ええ、そうです。えっと、トラックなどが下り坂で事故を起こす原因の一つが、積載量が重いとブレーキが利かずに道路を滑るからなんです」
「あぁ、なるほど。重い物体ほど止まりにくい、って話ですよね。で、牽引する物体が重すぎるとハー○ーのブレーキが利かずに後ろのキャンピングトレーラーから押される感じになる、ってことですよね?」
「ええ!確かなことは専門家に聞くべきかと思いますが、おそらくそうなるかと……」
「ということは、時速10kmぐらいのゆっくりのスピードで牽引すれば、ブレーキの問題は解決します?」
「えーと、確かなことは言えませんが、徐行で牽引すればたぶんブレーキが効かなくても、そこまで危なくはないとは思いますけど……」
「けど?」
「そんなゆっくりなスピードでハ○レーに乗って、楽しいのだろうかと……」
「あー、……確かに本末転倒ですよね」
うーむ……。
いきなり夢が破れて来たな。
そう簡単に愛車のハーレ○でベ○スキャンプ16Xを牽引出来そうにないよな……。
どうすっかな……。
たぶん金かけて、こうすれば問題は解決するとは思うんだが……。
時間の問題がな……。
うーむ。
「あの、小林様……ハ○レーでの牽引が厳しいとは思うのですが、ベー○キャンプ16Xのご購入の方はどう致しますか?」
「もちろん購入させて貰います。アフリカに持って行くことは確定してますし、何よりコイツに一目惚れしましたからね」
「かしこまりました!ご購入ありがとうございます!」
「いえいえ。えーと、話を蒸し返しますけど、ハ○レーで牽引するには、大きな問題が3つある感じですよね?排気量の問題と、垂直方向の過重の問題と、ブレーキの問題。この3つぐらいですかね?」
「えーと、専門家ではないので、確かなことは……」
「んー、それでしたら……キャンピングカーやキャンピングトレーラーを改造しているお店……板金屋ですかね?」
「えっと、カスタムショップですか?」
「改造だからカスタムで良いのかな?その、カスタムショップを紹介して頂けませんか?」
「キャンピングカーやキャンピングトレーラーを専門に改造している知り合いのカスタムショップで宜しければご紹介致しますが、そちらで宜しいでしょうか?」
「ぜひぜひお願い致します。えっと、購入手続きはどうすれば……?」
「どうぞ小林様、こちらへ!店内で案内させて頂きます!」
満面の笑顔で店内に案内する店長。売った後の改造の責任は、俺になるしな。
次はカスタムショップで色々提案してみるか。
ククク、ベ○スキャンプ16Xよ、色々と魔改造してやるぜ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます