第3話

03話


 おいおいおい。


 既に会社にお願いした貨物船でいくらでも荷物をアフリカに持って行けるとしても……何事にも限度ってモノがあるだろ?


 美咲先輩から電話があった日から1週間ほど経ったが、メールに書かれている品数が予想を余りにも超えていて慄いている。


 これ、全部ダンボールに入れて、港まで運ぶのか?


 どうやって?


 うーむ……。トラックを借りて港まで運ぶか?


 トラックに荷物を積み込み、港に着いたらトラックから積み下ろして貨物船かコンテナに再度積み込むのか?


 いや、コンテナなら前以て荷物を入れれるのか?


 というか、メールの品数から予想したら、いくら何でも荷物が多くなる。ちょっと美咲先輩に荷物を減らせれるのかを相談してみるか?


 あー、でも美咲先輩なら『頑張れー♪』の一言で終わりそうだよなー。


 うーむ……。こんな時は米山部長に相談してみるか?


 米山部長にメールで『今、お時間は大丈夫でしょうか?アフリカ行きのことで少し相談したいことがありまして……』と送ったら、直ぐに米山部長から電話が来た。


 さすが出来る男、米山部長だ。


 「もしもし、小林君?どうしたんだい?」


 「もしもし。米山部長、夜分遅くに申し訳ありません。実はですね……アフリカに持って行こうとしている荷物が多すぎて、途方に暮れております……」


 「あー、確か佐藤君の荷物も一緒に運ぶ予定だったよね?」


 「ええ、そうです。佐藤先輩の荷物を含めたら、恐ろしい量になりそうで……港までどうやって運ぼうかと悩んでまして……」


 「あぁ、なるほど。会社でトラックを借りて、荷物を港まで運ぼうか?」


 「ありがとうございます。自分もトラックのことを考えたのですが、トラックで運ぶ場合はまた一からダンボールを何回も下ろして、またコンテナか何かに何回も積み直すのが、ちょっと体力的に厳しいかと思ってまして……」


 「……そんなに荷物があるのかい?」


 「ええ、余りの品数の多さに、慄いております……」


 「……まぁ、佐藤君は女性だからね。何かと荷物が多くなるんだろうけど……問題の本質は荷物の多さではなく、ダンボールを一つ一つ手作業でトラックに積んで下ろして、またコンテナに積み、アフリカに着いても同様の行為をする事を問題としているんだよね?」


 「ええ、米山部長、その通りです」


 「うーん……お金が結構かかる方法で良いなら、一度荷物を積めば纏めて船に乗せれるけど……お金持ってる小林君なら、この方法が取れるね。それで良いのなら話でも聞いてみる?」


 米山部長は、俺が仮想通貨で数十億も儲けたことを知っている。


 何処から漏れたのか知らないが、ある宗教団体の信者からのお布施のお願いが、限度を越えて毎日繰り返された時期があった。


 熱心な信者の勧誘に余りにも困ったので警察に相談したが……案の定警察は話を聞くだけで何もしてくれず、俺は途方に暮れて仕方がなく米山部長に相談した。


 すると米山部長は直ぐさま知り合いの弁護士に連絡を入れ、あれよあれよと手続きが進み、宗教団体からの勧誘がある日を境にピタリと止まった。


 弁護士やべぇ、って思ったな。

 

 手付金以外の残りの弁護士費用を払い、弁護士に支払った同額を包んで米山部長に渡そうとしたら『電話しただけだから、一銭も貰えないよ。それよりもあんなにお金を持ってるのに真面目に働いているなんて、凄いよね。普通は大金を持てば働かないと思うし、働いても何かあれば直ぐに不貞腐れて仕事を辞めるでしょ。小林君は仕事に対して誠実に向き合っていて、本当に偉いよね』って、言ってくれた。


 美咲先輩が俺に何を伝えたかったのかが、この時やっと理解した。


 「……はい。米山部長、是非教えてください」


 「了解。小林君はキャンピングトレーラーって知ってる?旅好きの小林君なら知ってるとは思うけど」


 「はい、少しは存じてはおりますが……キャンピングカーではなく、キャンピングトレーラーですか?」


 「うん。トレーラー。自走出来ず、車で牽引する家の方ね。キャンピングカーでも良いとは思うけど、キャンピングカーだと車を奪われたらそのまま乗り逃げされて一発アウトだよね。日本でも盗難車は中々発見されないし。それにトレーラーだと人力で運ぶのは不可能だし、牽引する車が一手間必要だからキャンピングカーよりは比較的安全かと思うよ。もちろんコンテナ型のトレーラーでも良いとは思うけど、旅好きの小林君ならキャンピングトレーラーだと旅で再利用できるでしょ」


 「あー、なるほど。話が読めて来ました。キャンピングトレーラーの中に荷物を詰め込んでから車で牽引して貨物船に乗せて、向こうに着いたらまた車で牽引する感じですよね?」


 「そうそう。イメージとしてそんな感じ。それで良いのなら貨物船をキャンピングトレーラーも運べる種類に変更しとくよ。ただ、昨日決めた出発の日付がズレると思うけど、どうかな?」


 うーん……。聞いてる話だと、キャンピングトレーラーで移動する方が、凄い楽そうなんだよな。


 ただ何か問題点が無いのかな?


 「……あの、米山部長の提案を前向きに検討したいと思っておりますが、問題点が無いのかが分からなくて……米山部長、何か問題点が浮かびませんか?」


 「うーん、キャンピングトレーラーに荷物を詰め込むなら、まず牽引の積載量とかの問題があるよね。あと公道を走るから牽引免許とか色々細々と法的手続きが必要になると思うんだよね。あと、小林君が牽引するなら車をアッチに持って行くのか?それとも業者に頼んで牽引してもらうか?とかの問題も出てくるよね」


 「あー、なるほど。色々と調べて確認を取らないと駄目そうですよね。つまりトラックで運ぶよりも、色々と手間と時間を取られると?」


 「うん、その通り。それが一番の問題点だと思うんだよね。アフリカ行きの期限が決まっているから、その期限内に全てを解決しなくちゃならない。ただ問題点ばかりじゃなく、キャンピングトレーラーで一纏めで運ぶ以外にも良い点もあるよ?」


 「え?本当ですか?米山部長、何ですか?是非教えてください!」


 「キャンピングトレーラーを運ぶ貨物船に変更するってことはさ、たぶん君の愛車のハ○レーダ○ッドソンもアフリカに運べると思うんだよね」


 「マジですかっ!?……あ、すみません、興奮して言葉が汚くなりました……」


 「いいよいいよ、それぐらい。どうかな?キャンピングトレーラーの話は納得出来たかな?」


 「ええ、もちろんです!○ーレーダビッ○ソンを持って行けるなら、いくらでも手間と時間を取れます!」


 「了解。それじゃあ、明日には貨物船の種類の変更を進めておくけど、それで良いかな?」


 「はい!米山部長の手間を取らせてしまいますが、是非ともお願い致します!」


 「僕の代わりにアフリカに行ってくれるんだから、それぐらい手間でも何でも無いよ。それじゃ、そろそろ電話を切るね」


 「米山部長、夜分遅くにお時間を取って頂き、ありがとうごさいました。おやすみなさい」


 「うん、おやすみ。また明日、会社でね」


 うおー!愛車のハー○ー○ビッドソンがアフリカの大地に降り立つとか、胸が熱くなるぜ!!


 おっと、こうしちゃおられない。まずはキャンピングトレーラーをネットで調べて、ディーラー店に在庫があるのかを聞かないとな。


 遠足の前日の様に、ワクワクしてきたぜ!!



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