午後三時の光の中で

 その時、池の中から青白い光が湧き起こる。午後三時の青珠の放出が始まったのだ。

 慌てて指の炎を消すルミナ。ぼおっと淡い光が、池を見つめる彼女の笑顔を照らし出す。


 ――美しい。


 もちろん池の話だ。

 池の話なんだけど、何故だろう俺はこんなにもドキドキしている。

 きっとそれほどまでに美しい光なのだ。異世界にしか存在しない青珠石が放つ光というものは。


 と同時に、一つの願望が俺の中で生まれていた。

 魔王カップに出場するなら、ルミナの炎でガラス細工を行いたい――と。

 いや、彼女の炎じゃなきゃダメなんだ。

 だって、だって、日本から持ってきたバーナーはガスが切れそうなんだから。リナリナもユーメリナも分かってくれるはず。

 俺は思い切って彼女に切り出した。


「俺、魔王カップに出ることになったんだ。リナの代表として。その時、ルミナの炎でガラス細工をしたいんだけどいいかな? この炎があれば、絶対勝てるような気がする」


 思わず勝利宣言までしてしまったが、決して言い過ぎではない。

 それほどまでにルミナの炎は細工がしやすかったのだ。先ほどもウサギも最高の出来だった。この調子が維持できれば、必ずいい勝負ができるはず。

 しかしルミナは表情を曇らせた。


「ダメよ、タクミ。私はジオ族なのよ」

 そして俺の目を見て、切実な想いを訴えた。

「たとえ出来損ないだとしても、たとえ両親いなくても、ここまで育ててもらった恩がある。さっきはあんなこと言っちゃったけど、叔父さん夫婦やお世話になった人たちを裏切ることはできない」

 するとリナリナが追い打ちをかける。

「そうだよ、タクミ。魔王カップには来年の村の豊作がかかってるんだ。タクミの手伝いなんてしたら、ルミナはジオから追い出されちゃうよ」

 魔王カップって、そんなに真剣な勝負なのか?

 まあ豊作がかかっているなら村人の生活にも関わる話だから、そういう意見も出るのもわかるような気がする。

「逆にもしタクミが負けたら、ルミナと組んだせいだって言われるよ。ジオではぼっち、リナからは恨まれる。そんなの、ルミナが可哀そうだよ」

「うっ……」


 俺は思わず言葉を詰まらせた。

 リナリナが言うことも分かる。しかし俺にだって事情がある。ルミナの炎がどうしても必要なのだ。


「そんなこと言うなよ、リナリナ。日本から持ってきたバーナーのガスが切れそうなんだ。バーナーの炎がなくちゃ、俺はガラス細工ができないんだよ。その炎はリナでは手に入らない……」


 皆が黙ってしまう。

 青白き光がまたたく洞窟の池のほとりで。

 こんなに素晴らしい景気に囲まれているのに、俺たちは何をやってるんだろう。

 どんよりとした気持ちで臨みたい風景ではなかったはずなのに……。


「そうだ!」


 その時だった。

 ぼんやりと光を見つめていたルミナが、突然明るい声を発したのは。


「ねえ、こんな作戦はどう?」


 彼女が披露したのは、驚きのアイディアだったのだ。

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