揺れるバーナー

「ルミナ、しばらくこのままでお願い」

 バーナーの炎が安定しているのを確認しながら、俺は手探りでバッグの中を漁る。

 そしてガラスの塊が先端に付いたパイプを取り出した。


「やってみるよ、今ここでガラス細工を」


 職人モードに切り替えた真剣な眼差しで、バーナーの炎を見つめる。

 この炎が使えればすべてが上手くいく。日本から持ってきたバーナーのガスが切れても安心だ。まあ、それはルミナが了承してくれればの話だが。

 そのためには彼女に納得してもらわなくてはならない。俺のガラス細工には、この炎が必要だということを。ルミナの炎があれば、素晴らしいガラス細工が出来上がるということを。


 俺はパイプを口に咥え、先端のガラスの塊をバーナーの火の中に投じる。

 するとガラスはたちまち赤く――なるはずだった。が、色は変わらず透明のまま。

 というのも、バーナーの炎がしゅるしゅるとしぼんでしまったから。

 俺はパイプを口から外してルミナに問いかける。


「ゴメン、疲れちゃった? 申し訳ない、ずっと同じ格好をさせちゃって」

 するとルミナは俺から視線を外し、うつむき加減でしどろもどろに答える。

「い、いや、疲れてはないんだけどね……」

 それなら一体どうしたというんだろう?

 やはり指の形でバーナートーチを作るという方法には、無理があったのだろうか。

「タクミの真剣な顔を見ていたら緊張したというか、ドキドキしてきたというか……」

 

 その後は何をやってもダメだった。

 ルミナの右手の人差し指から炎は出せる。

 左手でバーナートーチの形を作り、息を吹き込むとバーナーの炎が誕生する。

 しかし、その後が続かないのだ。

 ガラス細工を始めようと俺がガラスパイプを口に咥えると、へなへなと炎がヘタってしまう。


 仕方がない。このまま続けても、バーナーの炎が持続するようになるとは思えない。

 とりあえず俺たちは、池の縁に腰かけてしばらく休憩することにした。

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