結晶の森、ふたたび

再会

 翌朝。

 ソーダ灰の作成をユーメリナにお願いして、俺はリナリナと一緒にリナを出発する。

 魔王カップの原材料に必要なものを探しに行くと説明すると、村長もユーメリナも納得してくれた。


 二時間ほど歩くと、ようやく鍾乳洞の入り口にたどり着いた。俺がこの世界に来た時の最初の訪問地だ。時間はお昼を過ぎていたが、三時まではまだ余裕がある。

 小さな滝の前の岩に腰掛ける。そしてリナから持ってきた弁当を食べ始めた。

 目の前のせせらぎには鍾乳石がゴロゴロと転がっている。この中から適当な大きさのものを一つ拾えば、原料としては十分だろう。


 すると森の中から人が歩いて来るのが見えた。赤い髪の毛の女の子――ルミナだ。

 彼女は今日も、ラウンドネックにサロペットデニムというラフな格好だった。


「やあ、ルミナ!」

 リナリナが肩の上から声をかける。

「あら? タクミにリナリナ。どうしたの? またここに飛ばされちゃった、ってことはないよね?」

 彼女の言葉で、リナリナの召喚術が全く信用されていないことが分かる。俺は可笑しくなった。

「いや、今日は君に用事があったんだよ、ルミナ」

 俺は立ち上がると、姿勢を正してルミナを向く。

 その行動で事情を察したルミナは、鍾乳洞の入り口を見た。

「何か大切な用事みたいね。三時までまだ時間があるから、中で話さない?」

「ああ、分かった」

 こうして三人は、鍾乳洞の中で秘密の会談を開くことになった。


 鍾乳洞の奥の池に到着すると、俺は話を切り出した。

「今日、ここに来た目的は二つ。その一つは、石灰を手に入れるためなんだ」

「石灰?」

 ポカンとするルミナに、リナリナが補足してくれる。

「必要になったんだよ、ガラスの原料に。ここの鍾乳石が」

 するとルミナは振り返り、右人差し指の炎で鍾乳洞の壁を照らしながら俺に忠告した。

「鍾乳洞の中はダメよ。水が何百年もかけて作りだした芸術なんだから。入口の滝のところに落ちている石だったらいいと思うけど」

「わかった。それを帰りに拾っていくよ」

「それで、もう一つは?」

 俺はルミナの瞳を熱く見る。

「君にぜひ頼みたいことがある」

 ルミナはゴクリと唾を飲んだ。

「昨晩ずっと考えていたんだ。君のその炎をパワーアップできるんじゃないかと」

「えっ、この炎を?」

 ルミナは辺りを照らしていた右手の炎を顔の前にかざし、驚きの表情を浮かべた。

「僕がいた世界には、バーナーという装置がある。それと同じ構造を、手の形で作れないかと昨晩ずっと考えていた……」


 これが俺の秘策だった。

 日本から持ってきた小型バーナーは、カセットボンベの頭にバーナートーチを付けて火力をアップしている。

 つまり、バーナートーチが無ければ、ただのカセットコンロの火なのだ。

 ということは、手の形でバーナートーチのような構造を作ることができれば、右人差し指の炎だって強化できることになる。

 ちなみにバーナートーチは、周囲の空気を巻き込むような筒状の構造をしていた。


「最初に聞いておくけど、ルミナの手って、両手とも二〇〇〇度の熱に耐えられるんだよね?」

「ええ、そうよ。私だってジオ族の端くれだもん」

「じゃあ、まず左手をこんな風に丸めて、筒を作って欲しいんだ」

 ルミナの隣に立ち、彼女に見えるように左手を掌を上にして差し出して指を丸めた。

「こう?」

 俺の左手の形を真似て、同じように左手を丸めるルミナ。

「そう。そしたら、左手で作った筒の中に右人差し指を入れる」

 ルミナも俺の仕草に従い、左手で作った筒の中にゆっくりと右人差し指を入れる。

「いいよ、いいよ。じゃあ、せーので僕が息を吹き込むから、同時に炎を出して」

 俺はルミナの左手の前に顔を近づけて、「せーの」と号令をかけた。


 ルミナは赤い炎を点火する。

 と同時に、俺はその炎目掛けて勢いよく息を吹きかけた。

 すると、ゴーという空気音と共に、ルミナの赤い爪の先に青白い炎が形成する。

 左手の筒と右手の人差し指との間にできた隙間が空気を巻き込んで、バーナーの炎を作り出したのだ。


「すごいよ、ルミナ!」

「ええっ? これってホントに私の炎なの?」

「そうだよ、ルミナだってこんな力を持っていたんだよ!」


 ルミナは嬉しそうに、組み合わさった自分の手から放たれる青白き炎を見つめていた。

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