想定外

 その夜、俺はベッドで仰向けのままずっと考えていた。

 魔王カップとは『魔王杯』のことだとずっと思い込んでいたから。

 まさか、お酒を飲むカップの出来の良さを争う大会とは思わなかった。


「カップをガラスで作るなら、ソーダガラスじゃダメなんだよな……」


 そう、ソーダガラス製のカップには致命的な欠陥がある。水への耐久性が低く、使用しているうちに溶けてしまうのだ。

 ガラスのウサギを作るだけならソーダガラスで構わない。

 でも、お酒のような水ものを入れるカップでは耐水性を上げないとダメだ。それには石灰を混ぜたソーダ石灰ガラスを作る必要がある。

 しかしその石灰は、リナで手に入るとはとても思えない。周囲にはチャートしかなさそうだったから。


「だったらあそこに行くしかないか……」


 俺にはあてがあった。石灰を手に入れることのできる場所のあてが。

 しかし村長の前ではそのことを黙っていた。ユーメリナを巻き込みたくなかったからだ。

 開催は一週間後。カップを作るにはソーダ灰がまだまだ足りない。その作製にはユーメリナの助けが必要となる。

 だから俺は、石灰の採取を一人で遂行しようと考えていた。

 

「ねえ、リナリナ。明日は石灰を採りに行こうと思うんだけど、一緒に来てくれるよね?」

 するとリナリナがぴょんぴょんと枕元まで跳ねて来る。

「石灰を採りにって、どこに行くの?」

「あの鍾乳洞だよ」


 そう、鍾乳石は石灰そのものだ。

 必要量は拳くらいの塊で十分。だって、ソーダ石灰ガラス全体の一割ほどで十分なのだから。


「じゃあ、またルミナに会えるね」

「ああ、午後三時に行けばね」


 実は、もう一つ考えていたことがあった。

 それはバーナーについてだ。

 俺が日本から持ってきたバーナーは、カセットボンベの残量がだいぶ厳しくなっている。かと言って、この世界でボンベが手に入るとは思えない。

 ――それならば……。

 俺はアイディアを巡らせる。この世界にもバーナーの代わりになるものがあるかもしれないと。

 明日はそれも試してみたい。俺は天井を見上げながらいろいろと策を練っていた。

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