本領発揮

 ソーダガラスの感触を皆が一通り確認したのを見届けると、俺はバッグからバーナーを取り出した。

 そしてユーメリナにお願いして、昨日と同じようにガラスパイプの先に付けてもらう。今、出来たばかりのソーダガラスを。


 パイプを口に咥え、バーナーに火をつける。

 初めて見るバーナーの炎と空気音に、ユーメリナをはじめとする工房の人たちが「おおっ」と声を上げる。いつの間に来ていたのか、村長の姿もあった。

 俺は公園での子供たちの反応を思い出しながら、バーナーの炎をガラスに近づける。

 ――今まで、もっと大勢の人たちの前で何度もパフォーマンスをやってきた。

 だから気負うことはない。

 ――素早いバーナーワーク、的確な温度把握。

 培った技のすべてを披露する時は今だ。

 俺の手の動きに合わせて、公園でのパフォーマンスの時と同様、ぐにゃりとガラスが変形し始めた。

(これならいける!)

 このガラスの反応は日本と同じ。それなら普段通りにやればいい。


 ここから先は俺の腕の見せ所。

 バーナーの炎を自在に操り、パイプに息を吹き込みながらガラスを細工する。

 まずはウサギの体を形成し、バーナーで炙って細い耳を作る。目と鼻を刻み尻尾を膨らませて、ガラスのウサギの完成だ。

 ――薄くて軽く、球面が美しく輝くガラスのウサギ。

 手こねでは決して作ることのできない、俺ならではの工芸品だった。


「すごい!」

 工房のあちこちから称賛の声が上がる。

「でしょ、でしょ!?」

 いつの間にか俺の肩に乗ったリナリナが、のけぞりながらその声に応えていた。

 最前列までやってきた村長は、完成したばかりのウサギを手にとって、じっくり観察し始める。すると村長に向かって工房の職人たちが声を掛け始めた。

「これなら勝てますよ、村長!」

「そうだ、そうだ。これなら勝てる!」

「やっぱりボクの目は正しかった!」

 瞳を輝かせる工房の人たち。ユーメリアも例外ではなかった。

「パパ……」

 娘であるユーメリナが村長の言葉を促す。彼の判断に皆が注目した。


「そうだな、今年の魔王カップは彼に賭けてみるか……」


 工房中に「おーっ!」と歓声が響き渡る。

 挙句の果てにはユーメリナが俺の手を取って小躍りした。

「タクミ。あなたは選ばれたのよ、魔王カップの出場者に。リナの代表として!」

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