青珠石の輝き
少女は右手を差し出す。
赤き炎を灯しながら。
「ダメだよ、ルミナ。日本人の手は、その温度には耐えられないんだ」
「えっ、そうなの?」
慌ててルミナは炎を消す。すると辺りは真っ暗になった。
代わりにリナリナの青白き光がぼおっと辺りを照らし始める。燐光に照らされたルミナの笑顔に、俺は思わず息を飲んだ。
(なんて素敵な笑顔なんだ……)
彼女の顔に見とれながら、俺も自己紹介した。
「僕はタクミ。こちらこそよろしく」
「ところでルミナ。ここはどこ?」
二人の挨拶が終わると、リナリナが辺りを見回した。
「ここは結晶の森(クリスタルフォレスト)の鍾乳洞の中よ」
「ええっ、結晶の森に来ちゃったの? リナに飛ぶはずだったのに」
「またやっちゃったの? 相変わらずね、リナリナは」
くすくすと笑うルミナ。
どうやらリナリナは天然らしい。
そんなルミナとリナリナの会話は、なんだか微笑ましい。
「それで何やってたの? ルミナはここで」
「えへへ、何だと思う?」
「まさか秘密の特訓!? 今年のジオの代表ってルミナ――とか?」
「そんなことあるわけないでしょ? こんな出来損ないにジオの命運が託されるはずないもの。今年も代表はサファイア様よ」
「やっぱり、そうだよね……」
するとルミナは右手を高く上げて人差し指に赤い炎を灯し、洞窟の壁を照らす。
「この鍾乳洞の石にはね、青珠石が含まれてるの。今はちょうど午後三時前だしね」
「えっ? それって……」
「そうよ、こっちに大きな池があるの」
「それは楽しみだね。見に行こうよ!」
「もちろんよ。それを見に来てたんだから」
ルミナはリナリナを左手に乗せたまま踵を返し、鍾乳洞の奥へ歩いて行ってしまった。
俺は慌てて二人を追いかける。
「ちょっと俺にも教えてくれよ。何が何だかさっぱり分からないよ」
「説明は後でするから、とにかくボクたちについてきて。もう三時になっちゃう」とリナリナ。
何だよ、冷たいなぁ。
俺は渋々、二人の後をついて行く。
十メートルくらい歩くと広い場所に出た。
ルミナは歩みを止める。そして振り返って、俺に隣に来るようにと手招きした。
彼女の右隣に立つ。そして目の前に広がる景色に息を飲んだ。
幅が三十メートル、高さは五メートルはあるかと思われる空間。目の前には大きな池が広がっている。
その池全体が、青白く光っているのだ。
まるで無数の青いホタルが、池の中で泳ぎながら発光しているかのごとく。
「さっきも言ったけど、ここの鍾乳石には青珠石が含まれているの」
隣に立つルミナが俺に語りかける。
「青珠石はね、午後三時になると青珠の粒子を放出するんだよ」とリナリナ。
「それが水と反応すると青白く光るの。こんな風にね」
幻想的な風景だった。
全国を旅した俺の十八年の人生の中でも、こんな景色は見たことがない。
暗闇の中、足元に広がる無数の青白い点。それを見下ろす俺たちは、まるで宇宙に浮いているようだった。もし青い街灯の街があるならば、夜空の上からの景色はこんな風に見えるに違いない。
「ねっ、癒されるでしょ?」
ルミナがこちらを向く。
隣に並んで初めて分かったが、身長は二人ともほぼ同じ一六〇センチくらい。
青白い光に照らされた彼女に、ドキリとした。
(なんて可愛いんだろう……)
この景色も素晴らしいけど、今はルミナの顔をずっと眺めていたい。
俺の心がそう叫んでいた。が、こんな時、女性に何て言ったらいいのか分からない。幼少の頃から師匠と修行に励んでいた俺には、こんなにドキドキすることは今まであり得ない体験だった。
「う、うん……」
しどろもどろに、そう言うのがやっとの状態。
だから再び前を向いて、景色を目に焼き付ける。
(素晴らしき青き光の世界、そして隣のルミナ……)
そんな幸せな時間は、すぐに終わりを迎える。池はその中の光を次第に失っていく。
辺りが完全に暗闇に包まれる前に、ルミナは人差し指に炎を灯した。
「今日も素敵だったなぁ……。じゃあ、戻ろっか」
左手にリナリナを乗せたままルミナは俺を向く。
赤い光に照らされた彼女もまた魅力的だった。
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