第29話 犯罪者たちの末路
◇◇◇
ま、まあいい。とりあえず二人のことはいったんおいておこう。
「子どもたちは?」
私達よりずっと劣悪な環境に置かれていた子ども達。あの子の意識は戻っただろうか。
「子ども達も全員保護してますよ。意識を失っていた子も無事気がついたそうです。空腹と精神的な疲労が大きかったようですね。かなり衰弱していて、危ないところでした」
「そっか、良かった……あの子たちの身元は分かりそう?」
「子ども達から直接話を聞きましたが、全員孤児のようです。ソフィア様とキャロル嬢を攫ったあの男達は、孤児を奴隷として他国に売る犯罪組織の一味でした」
「力のない弱者を食い物にするとは……なんて卑劣な!許せませんわっ!」
怒りを露わにするキャロルちゃん。本当に最悪の連中だ。部屋に閉じ込めたり眠らせたりする程度じゃ甘かったな。結局お尻を触ってきた男にもまだ仕返ししていないことだし。うん、後で一発殴らせて貰おう。
「あいつら、この国の人間じゃないね。独特の訛りがあった。仲間同士でアリラン語を使って話してたし。多分、アリラン王国の人間だと思う」
「そっか。ラファが言うなら間違いなさそうね」
実家の宿屋は他国からの宿泊客も多い。小さな頃から数カ国語を使い分けて接客してきたラファの言葉なら信頼できる。
アリラン王国は今なお奴隷制度の残る国だ。好戦的で残虐と評判の王は周辺各国から蛇蝎のように嫌われており、我が国とも争いが絶えない。
「私たちも奴隷としてアリラン王国に売り飛ばされるところでしたのね、恐ろしいわ……」
キャロルちゃんがぎゅっと体を抱きしめると、今度はロイスが労るようにそっと肩を抱いている。いいの?大丈夫なの!?それ!?ハラハラしながらジークを見ると、悪そうな笑顔を浮かべている。
「いや、それはないね~」
「お父様?」
「キャロル嬢は国への交渉材料として利用するつもりだったんだろう。ソフィアも含めて。ロイス殿の母君であるバーバラ様のように毒を盛られる可能性もあった。早く見つけ出せて良かったよ」
「あの男なら躊躇なくやるだろうな」
父の言葉に溜め息をつくジーク。
「今回の件、キャロル嬢とソフィア様を巻き込んでしまったこと、心から謝罪致します」
ジークがキャロルちゃんと私に向かって深々と頭を下げる。
「そ、そんな、顔をお上げください!元はといえば私が無理を言って王宮にいこうとしたのが悪かったのです。近衛騎士の皆さんがあれほど家にいるようにと仰ってたのに……お姉様まで巻き込んでしまったわ。本当に申し訳ありません」
うなだれながら真摯に謝罪の言葉を口にするキャロルちゃん。キャロルちゃんは本当にいい子なのだ。幸せになって欲しいなあ。うーむ。
「今回の一連の事件は、王位簒奪を企てた王弟ガライアスが引き起こしたことです。捕縛の手をかいくぐり伝手を使って隣国へ亡命する気だったんでしょう。キャロル嬢とソフィア様を人質にしてこちら側に圧力をかけつつ、金を脅し取ろうと企んだ」
「そんな……王弟殿下が……」
思いがけない人物の名前に息を呑む。
ガライアス王弟殿下は先の王太子であり、国王陛下の信任も厚い人物として有名だった。何よりジークの身内だ。
「あいつをおめおめと逃がしてしまったせいでお二人を危険な目に合わせてしまった。私の責任です。あの男は裁判によって相応しい罰が与えられるでしょう」
「そっか……ロイスの母君は……」
「……精神に作用する毒物に侵されていると分かった以上、バーバラ個人の自白では証言の信憑性は低いでしょう。また、当時の侍医は高齢で死亡しており、証拠は残っていません。公的にも病死と発表されているため、王妃殺害の犯行を立証することは難しいでしょうね」
「そっか……」
「ただし、シリウス伯爵夫妻が手を染めた犯罪はそれだけじゃないよ。横領、違法賭博、誘拐の斡旋、数え上げればきりがない。特にハルク・シリウス伯爵には前伯爵一家の殺害容疑もある。しかるべき刑を受けることになるだろうね。少なくとも、伯爵の称号剥奪と領地の返上は免れないな」
父が肩をすくめる。王妃殺害の罪には問われないとしても、伯爵家の存続は絶望的のようだ。
「ロイス様……」
キャロルちゃんが心配そうに眉根を寄せている。
「仕方がない。もう覚悟はできている」
まっすぐジークを見つめるロイスの視線に迷いはなかった。
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