第30話 キャロルちゃんの決断
◇◇◇
ジークを見つめるロイスを見て、変わったなと思う。ロイスはいつもどこか諦めたような顔をして、掴みどころのない男だった。でも今は、守るべきもののために必死に戦おうとしている。ロイスをじっと見つめていたキャロルちゃんは意を決したように立ち上がった。
「ジークハルト王太子殿下にお願いがございます。今この場で!私との婚約を破棄していただきたいのです!」
「キャロル!?」
「キャロルちゃん!?」
思わずラファが口笛を鳴らすのを軽く睨んで黙らせる。王族に高位貴族という並々ならぬ身分を持つ人たちの前でお行儀が悪いにもほどがある。まあ私も人のことは言えないけど。
「ジークハルト王太子殿下は一度も私に面会をお許しになりませんでした。すなわち、私にはお心がないということ。この婚約はもともと宰相である父がごり押ししたものでしょう。断っていただいて結構です!」
一気に言い終えるとキッとジークを睨みつける。おおー、なんだかかっこいい。でも待って。ジークがキャロルちゃんと会えなかったのって単にその間うちにいたせいじゃ……慌ててジークを見るとジークは軽く左手を上げて私を制し、キャロルちゃんに向き合った。
「キャロル穣、そうなると貴方の経歴に傷がつきはしませんか?」
肯定とも否定ともとれない言葉にキャロルちゃんはふんっと胸をそらす。
「今更ですわ」
「確かに。今までの無礼も重ねてお詫びいたします。王太子の責任において、必ずキャロル・ソード侯爵令嬢との婚約を無効とすることをお約束します」
破棄ではなく、婚約の無効。元々婚約自体が成立していなかったということ。婚約破棄に比べればいくらかダメージは少ないかもしれない。
「キャロル、そんな大事なことお前の父上に相談なく決めてしまっていいのか?」
「お父様からの許可ならすでに取ってますわ。王太子殿下への面談が叶ったとき直接婚約の破棄をお願いしようと思ってましたの」
キャロルちゃんがすがすがしい笑顔を見せる。
「私の心はとっくにロイス様だけのものですわっ!必ず追いかけて捕まえるって決めてますの!」
キャロルちゃんの言葉にあっけにとられるロイス。
「そんなの、許されるわけ……」
「うちには優秀な兄がいますから侯爵家のことは心配ございません。どこへなりとご一緒しますわ!だから……お姉様。ロイス様を私に下さい!」
思わずジークを見るとしっかり頷いてくる。そっか、そうだよね。ロイスにはこれから、支えてくれる人が必要だ。そしてそれは、ほかの誰でもない。ロイスの事を心から愛しているキャロルちゃんにしかできないことなんだろう。
「キャロルちゃん……ロイスのこと、頼んだわよ」
「お姉さま!ありがとうごさいます!」
しっかりと抱き締め合う私達をラファは面白そうに、ジークは満面の笑みで見つめている。
「は?いやちょっと、何勝手に……」
ロイスのことは取り敢えず無視する。そこに愛があれば!きっと乗り越えられるよね!
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