18 出会いと別れは突然に
凛花達は警戒しながら、迷路を進んでいた。今の所罠には引っかかっていないが、いつどのタイミングで仕掛けられているかは分からないので、全員慎重になっていた。
「なるほど。あっちだって」
「え、でもあっちはもう通ったよ?」
「マジで? やっぱダメなんかな〜」
「……何やってるの?」
未莉澄は先程から、立ち止まっては何かに向かって話しかけ、こうして道案内(?)のような事をしていた。有奏がすんなり受け入れているので、最初は気にとめてなかった。しかし、さすがにそろそろ疑問を投げかけておかないと、ずっとこのカオスな状況が続く気がした。未莉澄を不審な目で見ているのは、さっきからるるだけだし。
「ん? 植物に話しかけて道聞いてんの」
「はい?」
「未莉澄は植物と話せるんだよ。ほら、『植物』のアビリティを持ってるでしょ?」
有奏の説明でようやく理解出来た。未莉澄はアビリティを駆使して、植物と話をしていたのか。いや、そう簡単に理解しちゃダメでしょ。凛花も知らぬ間に、結構この世界に毒されてるのかもしれない。
「でも言ってる事がバラバラなんだよね。多分その真宵って奴に口止めされてんだと思う」
「それじゃあ、やっぱり自力で進むしかないね」
そう言って、菫が前へ進もうとしたその時。
ギィィっと音がして、木が倒れかかってくる。いち早く気づいた有奏は凛花を引き寄せ、未莉澄もるるの手を引いた。しかし、ちょうど真ん中にいた菫は一歩気づくのが遅く、気づいた時にはもう木がそこまで迫っていた。
菫が顔を両腕で覆い隠し、目を瞑る。すると、どこからか人影が現れて、菫を有奏達の元へ移動させた。一瞬何が起きたのか分からなかったが、菫を助けたと思われる人物が目の前に現れた。
「ありがとう……って、君は……!」
長い緑色の髪に、桃色の瞳、そして奇抜なオレンジ色のパーカー。確実に、凛花達が知っている人物だった。
「星那!?」
凛花達が驚いていると、星那は菫の方へ思い切り顔を近づけ、睨みつけた。
「ちょっと! 気をつけなさいよ! ああいう時に、油断した人から死ぬんだからね!」
「え、ご、ごめん……?」
「たまたまわたしがいたから良かったけど、いなかったら死んでたのよあなた!」
急に現れたと思えば、急に怒り出す星那。倒れた木の向こう側では、何が起こっているのか分からずるるが怒鳴り声を上げた。
「おい、そっちで一体何が起きてんだ!」
「大丈夫だよるる! 何故か星那がいるだけだから!」
「……は?」
何言ってんだアイツ。完全にそういう目で有奏を見ていた事が声のトーンですぐ分かった。
目の前に横たわる木はかなり大きく、ちょっとやそっとでは動かないだろう。かといって、乗り越えるのも現実的ではない。仕方ないが、二手に分かれて迷路を攻略するしかないだろう。
「おーい、俺ら先に別の道で進んでるわ」
「は? ボクが嫌なんだけど」
「今はそうも言ってらんないでしょ。愚痴は後で有奏達が聞くから、さっさと行くぞ〜」
聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするが、有奏が聞き返す間もなく二人は行ってしまった。
未莉澄達が別行動する間にも、星那からの説教(?)は続いていた。半分くらい聞き流していたが、勢いが収まった段階でどうして星那がここにいるのか聞いてみた。
「え? わたしがここにいる理由? べ、別にたまたまこの辺歩いてたら急に迷路になって、迷いまくってたワケじゃないからね! それでたまたまあなた達を見つけて、ステルススキルで追いかけてたら、スミレが危ない目に遭いかけたから助けたとか、そんなんじゃないから!」
否定はしているが、全部教えてくれた。つまり星那は迷子なのだろう。
「ちなみに聞くけど、貴方は蔵隠真宵って子は知ってるの?」
「え、マヨイ? 知ってるも何も、アンハピネスのメンバーだけど。……あっ、迷路はあの子のせいね!?」
星那の様子から察するに、どうやら星那は真宵が言っていた二人には入らないようだ。ついでに、この迷路を作った首謀者がアンハピネスのメンバーだという事も判明した。何が目的かは分からないが、これもアネスが仕掛けたものなのだろう。
「とにかく、私達も急いでゴールしちゃおう。葵達も、途中ではぐれた未莉澄達も心配だし」
「そうだね。せっかくだから、星那も一緒に迷路を攻略しようか」
「なっ……わ、わたしは別に一人でもいいけど、スミレがそこまで言うならしょうがないなぁ〜」
「素直じゃないんだから」
アクシデントはあったものの、気を取り直して迷路を進む凛花達。道中では、ほとんど星那の話を聞く事となった。
星那がどうしてこの辺りにいたのかは全く教えてくれなかったが、話によると一応アンハピネスは脱退したらしい。ただ、また前みたいに処分されそうなのが怖いので、毎日色んな所を出歩いているようだ。
「ってかそもそも、どうして星那はアンハピネスに入ったの?」
「そんなの、アネスにスカウトされたからに決まってるでしょ」
「スカウト?」
「わたしのスキルとアビリティが役に立つ〜みたいに言われて、頼まれた仕事がホープスの偵察。でも失敗したら即処分って、使い捨てにも程があるわよね」
アンハピネスのメンバーは、主要人物以外のほとんどの人が使い捨てのようで、役に立たないと判断されたら即処分されてしまうらしい。星那はギリギリ生き残れたが、大半は完全に殺されるとの事。
「出会った時から怖そうな人だなって思ってたけど、思ってたより何倍も怖いなぁ……」
「大丈夫だよ! アネスが何をしてこようと、凛花には絶対手を出させないから!」
「ありがとう。有奏がいると、やっぱり心強いね」
凛花は少しだけ安心して、有奏に向かって微笑んだ。有奏はえっへん、とどこか自慢げだ。
その後も、何事もなく……とは言えないものの、大きなトラブルは起きずに迷路を進む事が出来た。途中、何故か星那ばかりが罠にハマりまくり、石が飛んで来たり水をかけられそうになったりと散々だったが、アビリティの『逃避』を駆使して全て避けていた。
ふと、菫がその場で立ち止まり、辺りを見回す。何かあったのかと、凛花達も振り向いて菫を見る。
「菫? どうしたの?」
「……凛花達は、先に進んでてくれないかな?」
「えっ!?」
突然何を言い出すんだ、と有奏が驚きの声を上げる。凛花と星那も、菫の方を向いて目を見開いている。
「菫を一人には出来ないよ!」
「そうだよ、この迷路危ないし……」
「少し気になる事があるんだ。必ず戻るから、お願い」
そう言って、菫は深々と頭を下げる。どうしよう、と凛花と有奏が困り顔で見合わせていると、最初に口を開いたのは星那だった。
「仲間なら、スミレを信じて行かせてあげたらどうなの?」
「で、でも……」
「それとも、あなた達にとって、スミレはそんなに信用出来ない仲間なの? 違うんじゃない?」
星那の言葉に、有奏ははっとする。心配ではあるが、菫を信用してない訳では無い。それならば、菫を信じて行かせてあげるのがいいのではないか?
「……分かった。菫を信じるよ」
「私も。絶対無事に帰ってきてね」
「有奏、凛花……ありがとう」
菫は二人に向かって微笑むと、星那に視線を移す。
「星那もありがとう」
「んなっ……か、勘違いしないで! わたしはあなたがいなくなろうと、関係ないんだから!」
星那はふいとそっぽを向いてしまったが、心なしか頬が赤く染まっている。
そうして、菫はここから別行動となった。残りの三人でゴールを目指し、歩いていると、不自然に広い場所へと辿り着いた。
「……ここ、何だろ?」
「うーん……分からないけど、もう先の道もないし……ゴール、かな?」
「ゴールだったらマヨイもいるはずでしょ? どこにもいないじゃないの」
こういう場所には、何かがあるのが定番だ。しかし、誰もいなければ次へ進む道もない。もしかすると、どこかで道を間違えていて、ここはフェイクのような場所なのではないだろうか。
そう思っていると、凛花はふとある地点に違和感を覚える。明らかに、誰かが通った跡であろう場所があるのだ。二人にそれを伝えると、「よく見つけたね凛花!」と有奏から絶賛された。
何かあってはいけないから、と有奏が先陣を切り、獣道を辿る。途中どこかで途切れる事はなく、ただ真っ直ぐに続いている。明らかに何かが出そうな雰囲気はあるが、この世界に人以外の動物は存在しない。そのため、熊が出る事だってない。なので、三人は恐れることなく進んでいく。
ぴたり、と有奏の歩みが止まる。どうしたのかと前を見ると、そこには一人の人影があった。
「……あら?」
その人は振り向くと、紫色の瞳で三人をちらりと見据えていた。
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