5 楽しい歓迎会
アジトの中に戻ると、歓迎会と同時に星那への事情聴取が始まった。葵が近くにいるため、逃避によって逃げられないようになっている。
「さあ皆! 遠慮なく食べてね!」
歓迎会と言うだけあって、広間はわいわいと賑わっている。そして、凛花への質問攻めが止まらなかった。
「凛花ちゃんの得意な事は何ですか?」
「えーっと……絵を描くこと、かな」
ろろの質問に対し、凛花は普段から趣味で描いていた絵の事を話した。趣味程度なので、技術はそうでもないが。
「好きな食べ物は? 今度作ってあげたいから教えて!」
「甘いものだったら何でも好きだよ」
葵はふむふむ、と丁寧にメモを取っている。もう少し、ちゃんとした料理名で言った方が良かったかもしれない。
「植物の雄蕊と雌蕊だったらどっちが好き?」
「え、何その質問……」
未莉澄の質問は意味わからなさすぎてまず引いた。すかさずるるが突っかかり、未莉澄をキッと睨みつける。
「おい、凛花を困らせるんじゃない」
「う〜ん……難しいなぁ……」
「お前も本気で答えようとするな」
未莉澄の質問に答えようとする凛花に、るるは呆れていた。
なるべく質問に答えようとはしているが、時々変な質問が紛れるので(ほぼ未莉澄の質問)凛花は戸惑いながらも答えられるだけ答えた。
歓迎会が盛り上がってきた所で、ガチャリと扉が開いた音がした。凛花が梯子の方に目をやると、紫の髪をした高身長の人がゆっくり梯子を降りていた。「ただいま」という心地良い低音の声を聞いた有奏達が、おかえりなさいと次々に声を上げた。
「見回りお疲れ様! 今凛花ちゃんの歓迎会してる所で、沢山料理作ったの!」
「ふふ、流石はホープスの料理係だね。有奏からも、テレパスで大まかな話は聞いたよ」
この人が、有奏が言っていた見回り中だったメンバーの一人か。不審者はこちらで捕まえたから、見回りを終えて帰って来たのだろう。その人は凛花の姿を確認すると、黄色の瞳を輝かせながらニコリと笑った。
「初めまして。君が新しいメンバーの凛花……かな? 僕は
そう言うと、菫は華麗にお辞儀をした。丈の長いコートを羽織っていて、足先まで隙のないクールな印象を受けた。
(さすが異世界……やっぱりこういうイケメンな男性もいるものなんだなぁ……)
……と思っていたのだが、未莉澄によって衝撃的な事実が伝えられる。
「ちなみに菫、こう見えて女だから」
「……!?」
未莉澄の一言で菫を二度見した。よくよく見たら、顔や体つきはれっきとした女性だ。
「ほら、やっぱ菫は顔が良いから間違われるんだよ」
「あはは……狙ったつもりはないんだけどなぁ」
菫は苦笑しながら、「ごめんね?」と凛花に謝罪の言葉を述べる。凛花も慌てて、勘違いしたのはこっちだからと弁明した。
菫も揃った事で、一層歓迎会も盛り上がってきた。その一方で、有奏は星那にここへ来た動機を伺っていた。
「つまり、貴方が持つステルススキルで、私達の偵察を命じられたって事ね」
「そ、そんな事言ってないじゃん!」
「口で言ってなくても、顔に出てるよ」
「ちがっ……」
そう言っている星那は、完全に目が泳いでいて有奏から視線を逸らしている。その行動そのものが、答えを言っているような状態だ。
「ほらね? 終わったらすぐに帰るつもりだったけど、バレちゃって動揺して、今どうしたらいいか分からない。そういう顔してるよ」
「う……」
「やっぱり。正解みたいだね」
どうやら、星那にとってあの場での戦闘(追いかけっこ)は想定外の事態だったようだ。するはずのない行動をしてしまい、かつ捕まってしまったためこの後どうなるのか心配な様子だった。
「はいはーい、そこまで! 聞きたい事は聞けたと思うし、ご飯でも食べない?」
シリアスな空気になりそうな二人の間を割って入り、葵が提案する。
「待って、星那は敵だよ? 油断して、そんな事をするのは違うでしょ?」
「うちは星那ちゃんがそんな悪い人には見えないけどな〜。じゃあ、うちが誘いたいから誘っただけ! それならいいよね?」
「でっ、でも……」
「よーし決定! 星那ちゃんも一緒に歓迎会しよ!」
有奏は引き止めようとしたが、葵は星那の手を引いて皆の方へ行ってしまった。この行動に、「……敵だけど、いいの?」と、菫も少し動揺した様子だった。しばらく星那を睨んでいた有奏だったが、監視しながら歓迎会に参加する事にした。
こうして、葵の誘いにより星那も一緒に料理を食べる事になった。曰く、「大勢で食べた方がもっと美味しくなるよ!」との事。歓迎会というよりは一種のパーティーみたいになったが、中々に盛り上がった。が、やはり星那が参加している事に疑問を持った有奏が、大声を上げる。
「……いや、やっぱおかしいって! 星那は敵だよね!?」
「細かい事は気にしな〜い! 盛り上がってるし、星那ちゃんも楽しんでるからいいじゃん!」
「そういう問題じゃなーい!」
敵であるにも関わらず、歓迎会を楽しんでいる星那に凛花は疑問を持っていたが、やはりそれは正解だったらしい。まだ会ったばかりの手前、あまり色々口に出すのは失礼だと思って言わなかった。
凛花もメンバー達と仲良くなろうと、一人一人じっくり話してみる事にした。まず最初は、異世界に来て早々アネスに遭遇し、戸惑っていた所を助けてくれた有奏だ。最初に出会った事もあって、何となく話しかけやすい印象がある。
「有奏って、普段は何して過ごしてるの?」
「普段か〜……うーん、何もない日は散歩する事が多いよ。後は、私の趣味でやってるおはじきくらいかな」
「……え、おはじき?」
「うん。おはじき」
おはじきが趣味って、有奏はおじいちゃんおばあちゃんなの? いや、今の世代のおじいちゃんおばあちゃんでもやらないと思う。
「机の上におはじきを並べて、一つずつ床に落としていくの。それが楽しいんだよね」
「そ……そうなんだ……」
分からない。私にはその楽しさが、何も分からない。
有奏の(変な)趣味が明らかになった所で、次は隣にいた葵に話しかけてみた。
「葵は料理得意って言ってたけど、一番得意な料理は何?」
「得意料理か〜。改めて言われてみると、答えるの難しいかも。ちょっと待ってね」
葵は真剣に考えた末、「アップルパイ!」と答えた。
「どうしてか分からないけど、アップルパイは昔からずっと作ってたな〜。今度凛花ちゃんにも作ってあげるね!」
「ありがとう。私も楽しみにしてるね」
今度は、真正面にいた未莉澄に声をかける。未莉澄はフライドポテトをもぐもぐしながら、「何?」と凛花に視線を合わせる。
「未莉澄は……」
「ひゅみりすでいいよ」
「……み、みり」
「ひゅみりす」
「……」
頑固か。名前の呼び方指定してくる人、初めて見た。最初からちょっと変な人だとは思っていたけど、ちょっと所では済まない気がしてならない。
「ひ、ひゅみりすは、何かこう……趣味とか、好きな事とかってあるの?」
「日光浴」
「……そ、そうなんだ」
頼むから単語で答えないで欲しい。会話が全く弾まない。そう思っていると、未莉澄の隣に座っていたろろが、にこりと笑いながらこちらに声をかけてくれた。
「ふふっ、未莉澄ちゃんはこう見えて、少しだけ人見知りな所があるんですよ。るるちゃんと一緒です♪」
急に話を振られたるるが、驚いた顔でろろの方を振り向いた。「余計な事言うな!」と、るるはろろを物凄い形相で睨んでいる。ろろは全く気にしていない様子で、凛花に話を続けた。
「未莉澄ちゃん、凛花ちゃんは怖い人ではないのですから、そんなに警戒しなくてもいいんですよ」
「いや、警戒してるつもりはなかったんだけど。……まいいか」
未莉澄はろろを横目で見た後、何事も無かったようにまたフライドポテトを摘んでいた。というか、私には指摘しておいて、ろろには呼び方指摘しないんかい。
るるにも話しかけようとしたが、話しかけるなオーラが強すぎたのでやめた。もしかして、既に嫌われてたりします?
最後は菫だ。何となく話しかけづらい雰囲気があったのだが、それを察してか、菫の方から話しかけてきた。
「どう? 皆と話してみて」
「えっ、えっと……」
凛花が戸惑っていると、菫は考える仕草をする。何かを思いついたのか、少し口角を上げると突然立ち上がった。何が始まるのだろう、と周りのメンバー達も菫に視線を向ける。
「『ホープスの皆は、個性的な人ばっかりでしょ?』」
菫の口から飛び出してきた口調は、有奏にそっくりだった。口調だけではない。声もほぼ同じだ。
「『ふふん、料理の腕なら誰にも負けないんだから!』」
今度は葵のモノマネだ。この調子で、全員分するつもりなのだろうか。凛花が驚いている暇もなく、菫は次々にホープスメンバーの真似をする。
「『植物って意外と面白いんだよね』『ふふっ、皆さんはしゃぎすぎですよ〜?』『うるさい。話しかけんな』」
目を瞑って聞いたら、本物と見分けがつかないくらいだ。放心状態でいると、菫は「驚いた?」とにっこり笑った。
「僕はモノマネが得意なんだ。ホープスメンバーなら、全員出来るくらいにはね」
「す、凄く似てた! 後ろから声掛けられたら、絶対気づかないくらい完璧だったよ!」
「ふふっ、褒めすぎだよ。ありがとう」
菫は謙遜しているが、周りからは大きな拍手を貰っている。興味無さそうなるるや、居心地悪そうにしていた星那でさえ、菫に心を奪われていた。
一通り話し終え、料理も少なくなってきたタイミングで、凛花はスキルの事を思い出した。
「そういえば、誰か私にスキルの制御を教えて欲しいんだけど……」
「ああ、忘れてた! 結局凛花のスキルって何だったの?」
凛花は『ハンゲン』と『スキルケシ』について話した。有奏曰く、ハンゲンは常時発動するものなのでそのままにして問題はないとの事。スキルケシについては制御が必要だが、慣れるまでどうしたらいいか、どうやったら発動するのかを皆が丁寧に教えてくれた。
「どう? 分かった?」
「ありがとう、皆。おかげで何とかなりそうだよ」
「もしまた困った事があったら、いつでも言ってね!」
そうして料理を食べ終えると、食器類の片付けが始まった。と言っても、未莉澄は遊んでいたが(後でるるにシバかれた)。皿洗いからゴミ処理までの全てを終えると、一同は星那を送り出すためにアジトの外へ出た。有奏は最初、星那を野放しにする事に反対した。しかし、結局何事も無かったからという理由で、解放しても大丈夫だという判断になったのだ。
アジトの周りは森のように自然豊かで、ホープスのメンバー達のように毎日通っていないとすぐに迷ってしまう。そのため、メンバー全員で森の外まで連れて行く事にした。
本当なら一人くらいアジトに残しておきたかったが、何かあってはいけないと有奏が警戒していたため、結局総出で見送る事になってしまった。
「……ところで、葵は何で片手にフライ返し持ってるの?」
「うちの愛用の武器! 特注品だよ! 何かあってからじゃ遅いから、護身用にいつも持ち歩いてるんだ!」
そう言って、「じゃじゃーん!」と凛花に右手を突き出す。武器というだけあって、普通のものより頑丈に出来てそうだ。
「ホントは包丁が良かったんだけど、有奏ちゃんと菫ちゃんにめちゃくちゃ怒られたからやめたんだ」
「いや危なっ。そりゃ怒られるでしょ……」
森を抜けると、少し開けた所に出た。地面は途中から石畳で出来ていて、アジト周りの森と違ってきちんと舗装されている。ここまで来たら、後は迷う事もないだろう。
「……っていうか、わざわざ送ってもらわなくても良かったんだけど」
「もう、変な所で意地張っちゃって。ここの森は分かりづらいから、私達みたいな慣れてる人じゃないとすぐ迷うよ」
「ま、まあ? そういう事なら仕方ないかも? ……あ、ありがとう」
星那はそっぽを向いているが、一応感謝の気持ちはあるようだ。星那が帰ろうと振り返った、その時。
突如、星那の背後に人影が現れた。何かを振りかぶって星那を狙おうとしたが、間一髪の所で『逃避』した。
「い、いきなり何? というか、誰?」
星那を含め凛花達も驚いていると、黄緑色の髪をした小柄な人物は、目を光らせてこちらをじっと見つめた。動きやすい露出の多い服装で、右太腿にはポシェットのようなものが取り付けられている。辺りを見回しながら体勢を整えると、右手に持った白く光ったレーザーソードを身体の前で構えた。
「ワタシは
莉子は星那をじっと睨みながら、敵意を剥き出しにしていた。場の空気が、一瞬にして凍りついた。
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