解き放って再会を

秋月蓮華

解き放って再会を

【解き放って再会を】


私の家の近所には和風の大きな大きなお屋敷がある。

金持ちの家かとなっているが実際にそうであり、占いとかで儲けているとか聞いたことがあった。政治家とか金持ちとかが、

これからどうしたらいいのでしょうかみたいに聞きに行って、答えてくれるようだ。

当時、それを聞いた私は、

「テレビの星占いじゃ満足できないのかな」

とかなっていた。朝にやっている星占いだ。十二星座でランキング形式のである。

近所の御屋敷には近づいてはいけないと母親が言っていたのだ。五歳ぐらいの私は遠くから眺めていて、大きなお屋敷と想っていたものだ。

九歳の時である。私はそのお屋敷に入ってみることにした。入ると言っても庭だ。門があったが、当時から運動神経が凄まじくて、

小学校の先生の手を焼かしていた私は気合と運動神経で屋敷に飛び込んだ。

庭は綺麗だ。日本三大庭園の何とか園がテレビに出ていて、それを見たことがあったのだけれども、あれと同じかそれ以上に綺麗だった。

観光客がいないから静かである。


「ここは」


屋敷が大きいなとか想っていた私は脱出ルートを考えていなかった。当時、これは回想だから振り替えっているのだけれども。

脱出ルートよりも私が気になったのは離れだった。どことなく気になって私は離れに近づいて靴のまま縁側に上がりこっそりふすまを開けてみた。

そこには女の子が寝ていた。

黒髪のセミロングの女の子。着物でも着ていれば日本人形に見えるだろう。そんな感じ。

肌が真っ白い。ジーっと顔を見る。

なんだろう。生気がない。お父さんのお母さん、私からするとお祖母ちゃんが死んだときとよく似ているというか、

同じなような……。


「誰だ。お前」


眺め続けていると声がした。そこにいたのは私と同じぐらいの年の男の子。

誰と言われたが名乗ったら危険……とその時は判断して、


「人間!」


「見ればわかる。家にどうやって入ってきた?」


「運動神経と気合い」


正直に答えたら男の子はあきれていた。


「結界が貼ってあったんだが、ここもようやく入れたのに」


「かっこいい。結界。バリアー」


「父上がいない間だからいいが……待てよ」


男の子は何か考え事をしていた。


「待てよって言われても」


「お前、手伝え。コイツを開放する」


私が言う中、男の子は勝手に結論を出して、当時九歳の私に協力を促してきた。

こっちに来いとそのまま連れていかれた。




この家は由緒正しき陰陽師の家系らしい。陰陽師と言った方が分かりやすいと男の子……彼は言った。

彼はこの家の後継ぎだそうだ。


「コイツって誰なの」


「父親……この家の一番偉いやつの好きだったひと」


「……監禁……? でも、あの子……生きてる……?」


「死んでる」


「……変わったお父さんだね」


「それで解決しようとしなくていい」


連れてこられたのは彼の部屋だ。和室で適当に私は座る。コイツと呼ばれたあの人は彼のお父さんの好きだったひとで

死んでいるようだ。


「お母さんなの」


「違う。俺の母親じゃない」


「暗い話みたいならいわなくていいよ」


「言わないでおくがろくでもない」


ろくでもないで抑えているが、ろくでもないのだろう。この家で一番偉い人が好きだったひとを監禁している。

家族関係が複雑すぎるというか、彼は父親を父親と想ってなさそうだ。私だって思えない。


「死体だけ?」


「魂もいる。ずっと閉じ込められてるんだ」


魂なんてもの、私には見えない。けれども彼にはわかるらしい。纏めてみるとあそこにいたのはずっと閉じ込められている子だ。


「手伝えって何。どうするの」


「今すぐじゃない。父親は術師としては強いから、今すぐどうこうできない。時を待つ。待ちつつ鍛える。この家、俺の味方がろくにいねえんだよ」


「私にできるのって空手ぐらいだけど」


「十分だ。……空手、やっていたのか」


十分だ、といってから驚いた様子で彼が聞いてきた。


「お父さんがお前の運動神経はすさまじいし、今空手の道場無料キャンペーンしてるからって、三歳の時から」


三歳の時から私はとても元気いっぱいだったのだ。空手は面白い。体を鍛えるにはとても丁度いい。空手の他にもやれそうなものはやってる。

体を動かすのってすっごく面白い。空手について母さんが何度も話してくれたので覚えた。


「何年かかるかわからないが、やる」


「手伝うよ」


私は彼に名乗る彼も名乗った。目標は寝ている彼女を開放すること。

この日から私と彼は共犯関係で、友達みたいなものになったのだ。




八年が経過した。私が小学校を卒業して中学校に行って卒業して高校生になって、彼は大学生。その日は訪れた。


「ごめんね!」


その辺にあった花瓶を投げて、着物姿の偉そうな人に当てる。今日は無礼講だ。彼だって許可してる。


「八年ぶりだな」


彼がふすまを開けた。

そこにはあの時と変わらない彼女がいた。布団に寝かされていて黒髪のセミロングをした少女、彼のお父さんが閉じ込めた好きだった人。

そこにある箱を壊してくれと言ったので私は思いっきり叩きつけてから踏んづけて壊した。黒い重箱みたいな箱だ。彼が術を解いていく。


「箱を壊した意味は」


「それは術じゃ解けない。武力が力だ。よし……解放できた」


彼の家はぐちゃぐちゃだ。それでもどうにかやってきたところはあるし、私もそんな彼だから助けたいとはなった。

そして彼女。

彼が術を解いたら、布団に寝ていた彼女の体がボロボロになっていく。倍速で壊れていく。誰かの悲鳴が聞こえた。声は知っている。

彼のお父さんだ。


「好きなところに行ってもいいよ」


私は彼女のことを知らない。知らずにいた。

彼のお父さんが好きだったひとはとても可愛らしくて、でも閉じ込められて、ずっとここにいた。

術を壊された彼女の体が消えて、私は視線をあげた。

彼女がいた。

ありがとう、と言っていて、頭を下げて、消えた。


「終わったな」


「会いたい人に会いに行ったのかな」


「だろうな……だからアイツはああしたんだろうが」


「これからどうする?」


「ありがとう。お陰でやりたいことが出来た……彼女と好きな相手の再会を願いつつ乾杯するか」


「ただ何か飲みたいだけでしょう」


やりたいことをやった私たちは彼女と好きな相手の再会を願いつつ、肩の荷を下ろした。



【Fin】

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