第187話 酒、タマネギ、酒、酒、酒、黄金の旋律

「おいしいです!」

「だろだろ。ジュワッとでてくる果汁と揚げた衣が案外合うんだよな」

「このような食べ方があったなんて。トマトは本当に色んなメニューに出てきますね」

「確かに。トマトソースにしても良し、そのまま食べても良し」


 レイシャの言葉にうんうんと頷く。

 トマトの応用力は無限大だ。トマトソースだけでも利用範囲が多岐に渡る。

 トマトにはこの世界でも色んな種類があり、トマトソースに使われるトマトと生で食べるトマトは使い分けられているのだ。

 生で食べておいしいからといってソースにしても美味しいとは限らない。

 たいていは水っぽくてコクが足りない結果になる。


「エリックくーん」

「ごめん、テレーズが呼んでる。また後でな」


 レイシャに向け小さく右手を振り、この場を離れた。ええと、テレーズは……いたぞ。

 次から次へと声をかけられて忙しいったら。でも、悪い気はしない。こうして自分のことを気にかけてくれているのだから。

 テレーズはいるが、ライザと一緒じゃないんだな。

 長身の彼女と平均より低めのテレーズが並んでいる姿が常だったので、何だか違和感を覚える。 

 そんなわけで、テレーズの姿を見ると自然とライザがどこにいるのかなと探してしまう。

 彼女はマリーと楽しく喋っている様子だった。

 

「お待たせ」

「ねね、エリックくん。サツマイモはないのかな?」

「残念ながら用意ができなかった。量が余りなくてさ。また次の機会にサツマイモの天ぷらでも食べてくれよ」

「うんー。ジャガイモを食べていたらふとサツマイモもいいなって思って」

「ジャガイモはジャガイモでいけるが、サツマイモの甘さもそれはそれでいけるよな」

「そうそう!」


 テレーズと喋っていたら俺もジャガイモの串が食べたくなってきたので、さっそく彼女の前でジャガイモを揚げる。

 フライドポテトとはまた違ったホクホク感でおいしいんだよな。

 ただし、ジャガイモは酒ととても合う。

 さ、酒を抑えているってのに。いや、そもそもだ。

 串カツは酒と共に楽しむものなのである。どれを食べても酒が欲しくなるのではないだろうか。


「あ、甘いと言えば。タマネギもないのかな?」

「タマネギは用意してあるけど、ここには並べてないんだ」

「分かった。そういうことだねえ」

「そういうことなんだよ。キッチンのところにあるからついて来て」

「きゃー。お誘いを受けちゃったー。今夜は寝かせないぞ、とか言われちゃう」

「……自分で探してタマネギを持ってきてくれ」

「もう、冗談だってばあ。行こう、行こう、エリックくん」


 悪びれない彼女に腕を引かれキッチンまで移動する。

 タマネギを使う時は少し注意が必要なんだ。犬猫がタマネギを食べると中毒を起こして嘔吐したりということがある。

 さて、唐突にここで問題だ。

 キルハイムには犬耳、猫耳に始まり、犬頭、猫頭の獣人がいる。

 彼らがタマネギを食べるとどうなるのか? と疑問に思った人もいるかもしれない。

 答えはタマネギだけじゃなく、ネギ、ニンニクなどネギ類全般を口にしても平気である。

 ただ、ネギ類のうちどれかを苦手としている人が多いのも事実で、ネギ類の中で最も嫌いな率が高いのはタマネギだ。

 人間の好き嫌いと同じレベルなので、調理方法によっては大丈夫なパターンもある。

 たとえば、生のままとか形が残ったままは苦手だけど、すり潰したり細かく刻んだりすると平気だったりってやつだな。

 誰が来店するのか分からない状況だったので、タマネギは別にしておいたんだよ。


「おいしー」

「うん、うまいうまい」

 

 さっそくタマネギを揚げてテレーズと一緒に食べる。

 俺はファーストフード店でタマネギとフライドポテトが選択できれば、タマネギを選ぶ。

 いや、かといってジャガイモが嫌いってわけじゃないんだが、タマネギの方があっさりしていて好みなんだよね。

 ジャガイモと違って腹に溜まらないのが玉に瑕ではあるのだけど。


「お、何だ何だ」

「とっておきを隠していたのか?」


 食べるより飲むに注力していたおっさん二人が目ざとくタマネギに惹かれキッチンに押し寄せてきた。

 おっさんのうち一人はスキンヘッドで所帯持ちのザルマン。もう一方は髭面のゴンザである。

 二人ともベテラン冒険者で無難な依頼を無難にこなす堅実派……と言えば聞こえがいいけど、いや、堅実派ってことでいいよもう。

 安全マージンを十分にとってほどほどに金を稼ぎ、日々の生活に困っておらず、酒を楽しむ。

 ある意味理想的な生活をしているよな、と思う。

 かつて冒険者だった時、俺も彼らのような冒険者になれたらな、なんて考えたこともあった。


「ほいよ」

「おー。こいつは酒に合う」

「確かに」


 酒、タマネギ、酒、酒、酒、タマネギといった順で食べやがって。

 も、もういいか。俺もおかわりを飲んでも。さっきのビールは完全に抜けたよな、うん。

 

「よ、よおし、飲んじゃうぞお」

「おー」

「テレーズは抑えておいた方がいいぞ」

「じゃあ、エリックくんも抑えなきゃ、だぞ」

「俺、まだ飲んでないし」

「仕方ないなー」


 テレーズに飲ませるとライザがお冠になってしまうので、彼女をライザに押し付けてっと。

 そして、ようやくキンキンに冷えたビールをゴクリといく。


「あああああ。うめええ。タマネギともジャガイモとも合う合う」

「熱々の揚げ物にビール。最高だよな」


 ちゃっかりもう一杯おかわりしたゴンザと笑い合い、グラスをコツンとした。

 一杯飲むともう止まらず、どんどんおかわりを繰り返し……。

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