第186話 串カツパーティ

「よっし、これで準備終わり」

「お疲れさまでしたー」

「マリーもね」

「えへへ」


 レストランのテーブルを中央に集め、所せましと大皿が並ぶ。

 大皿には山菜、野菜、肉に串を通して詰め込んでいる。いや、積み上げていた。

 一皿でも相当な量なのだが、大皿の数は10どころじゃないぞ。

 キッチン前には外に置いてあった簡易テーブルを持ち込み、その場で揚げることができるよう油の入った鍋が置いてある。

 そして、キッチンテーブルにはこれまた大皿を置ける限り置いていた。

 作りすぎたかな、と思ったけど、余ったらその時はその時で。明日のお弁当にでも食べてもらうことにしよう。

 

「お待たせ! じゃあ、自由に食べてくれ。ドリンクはセルフ方式で、飲む時にそこの箱にお金を入れて欲しい。お釣り……はなんかうまくやってもらうか、分からなかったら聞いて」

「やっとか!」

「もう飲んでる……のはゴンザだけじゃなかった。食べ方はマリーが今から実演してくれる。はい、注目ー」

 

 既に飲んだくれているゴンザをはじめとした面々は既に出来上がっている様子。

 パチパチと拍手が送られ、マリーがびくっとした後で説明を始める。

 耳と尻尾がピンとなり、緊張した様子が見てとれた。初対面の人はこの中におらず、全員と一度以上は彼女と会話したことのある面々だ。

 友人の中でも前に立って発表するとなると緊張する気持ちは分かる。

 俺? 俺は前で喋ることで緊張することはなさそう。前世日本の経験もあるが、モンスターを警戒し進んでいる時の方がよほど緊張する。

 

「み、みなさん。お好きな串を取って、まずはこちらに浸します」


 マリーがナスを刺した串を取り、クリーム色の天ぷら用の液体に浸す。


「続いて、こちらのパン粉につけてからお鍋に入れます」


 パン粉を付け、油の入った鍋へ串を入れるマリー。

 ジュアアアアといい音がして、みんなの注目が鍋に向かう。


「泡や音が変わってきたら引き上げて、お好みの調味料を使って食べてください。オススメはまず塩からです!」

「おおー。自分で好きな串を揚げるんだな」

「はい、そうです! お肉も三種類ありますのでお楽しみください」

「ほお。皿ごとに肉の種類が違うんだな」


 「そうです!」とマリーがゴンザに返事をする。

 肉だけじゃなく、野菜も山菜も種類ごとに皿を分けていた。

 肉はイノシシ、鹿、そして鳥肉だ。


「説明ありがとう、マリー。じゃあ、食べてくれ!」

「おおー!」


 全員から歓声があがり、串カツパーティが始まる。


「店主、その場で揚げる串カツ? は格別だ」

「遠慮せず肉ばかり食べてくれても大丈夫だぞ」


 自分も串カツを食べながら、犬頭のリーダーに笑顔で返す。

 肉と言いつつも俺が食べているのは、うずらの卵に似た小ぶりの卵である。

 味もうずらの卵にそっくりで衣をつけて揚げるとこれはこれで美味しいんだよね。

 前世でも串カツ屋に行った時、よく注文したものだ。黄身のほくほく感が絶品なのだよ。

 俺にもう少し腕があれば半生で出せるのだけど、断念した。練習すれば半生の串カツを出すことはできる。

 しかしだな、生というのは怖いもので、なるべくならちゃんと火を通した方がいい。

 日本と異なり、ちゃんと衛生管理しているわけじゃないからね。

 ……俺専用に食べるのならアリか。ヒールで腹痛も回復するのだもの。

 一方でリーダーが食しているのはアスパラだった。塩をパラリと振って食べている様子。


「俺は肉より野菜の方が好きなんだ」

「へえ。冒険者って肉好きな者の方が多い印象だった」

「肉は力が出る。冒険中は肉が多くなる。だからこそ、こういった場では野菜がいい」

「なるほどな」


 と言いつつリーダーになみなみとついだビールを手渡す。

 これはおごりだよ、と目で合図をするが、ビールを片手に律儀にも彼は箱にお金を入れた。


「いつもキッチンにいる店主とこうして食事をできることが一番嬉しいことだな」

「俺もいつももどかしい気持ちがあって。それもあって一度こういう形式で料理を提供してみたかったんだよね」


 完全にレストラン業務から手が離れるわけではない。

 それでもこうして喋ったり、一緒に食べたりはできる。

 アルコールは控えなきゃならないのだけが玉に瑕だ。ちょ、ちょこっとだけ飲んだけど。

 な、なあにビールをコップ半分くらいとほんの乾杯程度の量だから問題ない。

 欠片たりとも酒が回ってないからね。

 

「エリックさん」

「……」


 お次は犬耳のアリサと無口のイケメングレイの二人が挨拶をしてきた。

 グレイの方は無言なのだが、目が挨拶をしていると言っている。なので挨拶に違いない。

 二人とも手に持つ飲み物はビール。

 う、羨ましくなんかないぞ。さっきだって華麗にリーダーへビールを手渡したじゃないか。

 彼らと入れ替わるようにしてリンゴジュースとキノコの串を持ったレイシャだった。

 彼女は俺と同じ回復術師ヒーラーで種族はエルフである。

 エルフの回復術師ヒーラーは珍しい。エルフは魔力に長けた種族で殆どのエルフは何らかの魔法を使うことができる。

 彼女は回復術師ヒーラーの適正があったというわけだ。ひょっとしたら、他の魔法にも適正があるかもしれない。 


「誰も怪我をしていない時にお会いするのが良いですよね」

「だなあ。前来てくれた時も誰も怪我をしていなかったよ」

「そうでした。ですが、あの時はゾレン騒ぎでしたし」

「そうだった。切迫していない状況で来てくれるのは初めてかも」


 上品に笑うレイシャ。つられて俺もあははと笑う。


「オススメの串を教えていただけますか?」

「どれもオススメだけど……野菜や木の実が好みだったっけ?」

「はい。お肉は少し……苦手です」

「お、なら、トマトを試してみて。噛むと熱い汁が飛び出してくるからゆっくり食べてな」


 そう言ってトマトに衣をつけて揚げる。

 揚げたてを彼女に渡し、今度は自分の分を用意した。

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