第181話 お使いクエスト
なんだかこう、ゲームのお使いクエストをやっているような気持ちになってきた。
赤いゾレンの報告を受け、見に行く。様子を見に行ったらカブトムシが気に入らないらしく興奮させてしまった。
このままじゃ埒が明かないと黒のゾレンに会いに行って、事情を聞く。
言葉が通じないのでアリアドネを訪ね、すみよんなら会話できると分かり今度はまたしても赤いゾレンの元に戻って来た。
まさしくお使いクエストまんまじゃないかなこれ……。
最初から分かっていたら回り道せず即答えに辿り着けたってのもお使いクエストぽいのが悔しい。
サツマイモを生のままシャリシャリしているすみよんを連れて、赤いゾレンのところまで来たわけだがどうしたものか。
ジャイアントビートルを連れていないので赤いゾレンたちは俺とすみよんに興味を示していない。
「すみよん、俺の言葉をゾレンに伝えてもらえるかな?」
「しゃりしゃりでえす」
「そ、そうね」
「いいですよお。喋った言葉をそのまま伝えればいいんですね」
さて、どう声をかけたらいいものか。
「俺はエリック。君たちとは平和的に接したいと思っている」
「きー、きー」
「
「違う。俺の連れていたジャイアントビートルはゾレンとは関係ない」
「きー、きー」
「クモもジャイアントビートルを使役するものなのか?」
「そうだ」
黒のゾレンの手の者だと思われていたらしい。
しかし、やっぱり俺本人はクモなのね。
「君たちゾレンは何かに困ってここに来ているの?」
「きー、きー」
「我らの巣が水没し、ちりじりになった。マトリアークも恐らく犠牲になった」
「え、えっと。巣が無くなったから巣を探しに来ているの?」
「きー、きー」
「そうだ。我らはもはや残された者たちで巣を作ることは叶わない。マトリアーク無きゾレンは巣を作ることができない」
ふむふむ。ゾレンの話はまだまだ続く。
ちぐはぐな答えが返ってきたと懸念していたが、途切れるまで聞いた彼らの話をまとめるとこんな感じだ。
彼らの住処だった巣が水没した。原因は不明。その際にマトリアークも犠牲になって、生き残ったゾレンたちは小グループに別れ放浪する。
マトリアークがいないゾレンらは巣を作る能力もなく、大規模にまとまって行動することもできない。
マトリアークがゾレンらの指揮官みたいなもので、指揮官がいないと組織だった行動ができないとかそんなところかな。
そこで彼らは他のゾレンの巣に身を寄せようとしていたのだが、やっと発見したのは黒色のゾレンの巣だった。
黒と赤は不俱戴天で相容れない。見つけ次第巣を叩きに行くのが常らしいのだけど、多勢に無勢で突撃しても玉砕することは確実な情勢だった。
マトリアークの命なら考えることもなく突撃するのだが、指示する者がおらずこうしてウロウロして何日も経過していたのだと。
「何も玉砕するだけが選択じゃないんじゃないか?」
「きー、きー」
「
「今はそのマトリアークもいないわけだし、残ったゾレンで自給自足の生活を送ればいいんじゃないのかな?」
「きー、きー」
「巣無き我らはいずれ朽ち果てる。それならいっそ……」
「いやいや、どうしてそうヤケになるんだよ。食べ物があれば生きていけるじゃないか」
「きー、きー」
「クモのお前が巣を提供してくれるとでもいうのか?」
「あ、いいかもそれ」
巣があって食糧が安定的に手に入れば問題ないんだよな。
土地ならある。食糧計画……は失敗するかもしれないけど、その時は森の豊富な食糧資源もあるから何とかなるだろ。
「きー、きー」
「一体どういうことだ?」
「俺たちの住む村に来ないか? 巣も作ることができるし外敵も来ない」
「きー、きー」
「クモの巣は知っている。あの場に我らが入ることはできない」
「あ、そのクモの巣じゃないよ。ここからすぐのところにあるんだ」
廃村でゾレンを見かけたら恐れられるかもしれないけど、きちんと説明しておけば何とかなる。
立札と宿で宿泊客に説明、加えて現在廃村に住んでいる人たちにも伝えておけば大丈夫なはず。
準備をするからと彼らに伝え、二日後に迎えに来ることで合意した。
◇◇◇
「この辺り一帯をゾレンたちに使ってもらうか」
廃村の外れにある平らな土地をゾレン居住区(仮)に見繕う。
巣はどうするかな。
マトリアークが指示を出せないなら俺が出せば何とかなるのか難しいところだ。
「ビーバーたちに頼みますかー」
呑気な声ですみよんがそう提案する。
「ビーバーたちって穴掘りはできないよな。丸太で家をつくってもらおうか」
「通路と部屋を作ればいいんじゃないですかー?」
「そうしよう。頼んでもいいかな? もちろん、果物はわんさか付ける」
「甘いでえす。いいですよお」
よっし、んじゃここはすみよんとビーバーに任せて、関係各所に説明に行こう。
突然のゾレンを招き入れるという話にも彼らは驚きはしたが、絶対拒否ってことはなかった。
襲い掛かってくるようなことがなければ問題ないと全員が回答してくれてホッとしたよ。
廃村の外れの場所を選んだし、会いに行かなければ彼らとゾレンが接触することもないように配慮もした。
残すはマリーのところか。
マリーはジャイアントビートルが苦手だったので、彼女を最後にしたんだよね。
「……というわけなんだ」
「エリックさん……」
マリーは大きな目に涙をためてフルフルと肩を震わせる。
あちゃあ、やっぱり虫系はまずかったか。
ところが彼女の反応は俺の予想と異なった。
「災害で家を無くしたゾレンに生きる場所を提供するなんて、わたし、感動しました!」
「そ、そうか。いいかな?」
「もちろんです! わたしにお手伝いできることがあれば何でも言ってください!」
「そ、その、見た目がアリっぽいのだけど……」
「だ、大丈夫です……!」
妙な間があったけど、見て見ぬふりをしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます