第178話 ゾレン
「エリックさん」
「エリックさん」
「……」
おお。見知ったメンバーが外で警戒活動に当たっていた。
結局彼らはこの四人でパーティを組んでいるのかな?
四人とは犬頭のリーダー「ディッシュ」、犬耳のアリサ、長髪を後ろで縛ったイケメン戦士「グレイ」、そして回復術師のレイシャだ。
俺の名前を呼んだのは女性陣の二人で、無言だったのはグレイ。
全員が無事な姿って実は始めて見る。深夜に現れるのは変わってないんだな。
いや、野営をしようとしていてアリの姿を察知し警戒にあたっていてくれたのかもしれない。
「それで、アリは?」
「ダンジョンの入口あたりでアリサさんが発見いたしまして、月見草が近かったのでリーダーが念のためにと」
「なるほど。アリを一体みたら百体いると思えってやつだからな」
「そ、そうなのですか……群れるとはリーダーから聞いてますが……」
さっそくレイシャに尋ね、日本時代のゴキブリのノリで返してみたら、微妙な反応が返ってきた。
こういう時に冗談を言うのは良くないか。緊張をほぐそうと思ったのだけど、逆効果だった模様……。
正直すまなかった。
彼女と入れ替わるようにリーダーが口を挟む。
「アリと言ってしまったが、正確にはゾレン族だ」
「アリの頭に体があって腕のあるゾレン?」
「そうだ。頭の形はアリそのものだが体色が血のような赤色だ」
「え? 濃い青色じゃなかった?」
ん、どうもリーダーの言うゾレンと俺が以前交流を持ったゾレンの像が合わない。
犬や猫もいろんな毛色があるし、ゾレンの体表の色が異なっていてもおかしくはない……か。
しかし、あのシルエットで赤色になるとおぞましさが増すよな。
「ゾレンを見たのはダンジョンの入口あたりだっけ?」
「そうだ。一体ではないと思う」
「廃村でも居住している人もいるから、見に行ってもいいかな?」
「分かった。俺たちも付き添おう」
「ありがたい。でも、アリサかグレイのどっちかに残ってもらいたいんだけど」
「もちろんだ。マリーの護衛は任せてくれ。アリサ頼んだ」
リーダーの声にアリサが大きく首を縦に動かして応じる。
彼女の犬耳って余り動かないのかな? 同じ犬耳を持つジョエルのメイドであるメリダは体の動きに合わせて大きく犬耳が動いていた……と思う。
耳違いだがマリーの猫耳もピコピコとよく動く。他に獣耳の持ち主……いたな。酔っ払い狸が。
酔っ払い狸ことスフィアも余り耳が動かない。彼女の場合、尻尾も無かったような気がする。いや、あったかも。
う、うーん。湖で泳いだ時に彼女だけ水着を着ていなかったから尻尾を確認する機会が無かった。
獣耳でも個人差があるんだなあ。今一番近くにいる犬頭のリーダーも余り耳が動かないタイプらしい。
「行こう」
リーダーとグレイと共に炭鉱に向かう。
おっと、パーティの残り一人のレイシャはお留守番になった。
彼女は俺と同じ回復術師だからね。マリーの護衛はアリサが務める。
それでも、レイシャには宿に残ってもらった方が良いと判断した。目的はマリーの護衛ではなく、もし怪我人が運ばれて来た時の為の備えにとね。
騒ぎになれば宿泊している冒険者が出て来て対応してくれるかもしれないけど、回復術師がいるかどうかは分からないからさ。
一応、非常事態に備え俺がヒールの魔法をかけた数々の品が置いてある。
それでもレイシャがいてくれた方が安心だからね。
◇◇◇
ふむ。確かに色が違う。ダンジョンの奥に巣を作っていたゾレンたちの体表は黒色だった。
ところがこちらはリーダーの言う通り血のような赤色をしている。
ダンジョンの入口でウロウロしているのは黒色のゾレンウォーリアーと色以外は瓜二つだ。
色違いだから別種なのか、同種の個体差なのか判断が難しいところである。
「一体何をしているんだろうな?」
「刺激しなければ襲ってくることもなさそうだ」
首をかしげる俺の質問にリーダーが応じた。
いや、応じてはいないな。俺の発言を質問ではなく感想と受け取った彼が自分の感想を述べた。
そうだな、確かに刺激しなければ襲ってくることはなさそう。
というのはグレイがゾレンから見える位置で彼らの様子を窺っていたから。
黒色のゾレンと同じく、人間には興味を示さないんだな。一口にモンスターと言っても様々である。
人間を見るや積極的に襲ってくるものもいれば、逃げ出すものもいたり、ゾレンのように自分に害がなければ無視するものもいたりした。
前世の俺の知識だと、主に肉食性の動物は空腹だったり、子を守るためだったり、人間を見てびっくりしたりすると襲ってくる。
モンスターの場合は特に理由もなく襲い掛かってくるのがいるところが動物と異なるんだよな。
それともう一つ。色違いについて。
ゲームだと形が同じで色が異なるモンスターは全くの別種でステータスも異なるというのを一度は見たことがあるだろう。
この世界のモンスターも同じような特徴を持つものがいる。そうじゃなく、個体差で色が異なるものもいるのでややこしい。
身近なところだと色違いのカブトムシだな。形は全く同じだけど、青色は俺がいつも騎乗しているコンテナがついたカブトムシ。
オレンジは煮炊きができるカブトムシ、緑色は姿を消す能力を持つカブトムシだ。
ゾレンはどうだろうか?
今回は近場でありリーダーたちもいたので、カブトムシを連れてきていないんだよな。
「どうする? 店主?」
「様子見かなあ……ただ廃村まで距離が近いので要注意としておこうか」
「ずっと警戒し続けるのは難しいのではないか? ならば一網打尽にするのも手だ」
「襲ってこないモンスターを仕留めるのは気が引けるんだよ」
「店主らしい、ならば戻るとしよう」
そんなわけで赤色のゾレンウォーリアーを観察するだけで、宿に戻ったのだった。
明日もまだこの辺りにいるようだったら、カブトムシに乗ってコンタクトをとってみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます