第169話 タンタンメン
さて、再びキュウイの木がある場所である。
あの後宿に戻りしっかりとスパイスの味を確かめてきた。その結果、現地で一から調理をすることは難しいと判断。
しかしながら、下準備をすると屋外でも苦労せず調理できるものだ。
「マッテタ」
「昨日ぶりだな」
俺より先に到着していたイッカハとモウグ・ガーが共に手を振る。
「お待たせ。今日も来てもらってありがとう」
「いや、楽しみにしていた」
「ウン」
ならばご期待に応えねばな。キルハイムの街で食べることができるメニューとは異なるが、俺個人としては前世の好きなメニューの一つだった。
いや俺だってイッカハやモウグ・ガーの村で食べられる料理と比較という意味でキルハイムの料理を出したかったんだよね。
まあ、キルハイムの街の料理を……って考えて五秒ですぐに結論が出た。
そもそもキルハイムの街にイッカハの村にあるようなスパイスはない。無いものを使った料理なんて考えるまでもなく存在しないよね。
そこで、前世日本の料理の出番である。
「日本の」とつけると語弊があるな。「日本風の」としよう。
「今から作るから少し待っててね」
カブトムシのコンテナから調理道具と折りたたみの机やらを出し、料理ができる環境を作る。
特製鳥ガラスープを暖めている間に下準備してきた材料を並べた。
「ほう。パスタか」
「パスタに似ているけど少し違う。俺なりにアレンジしたものだよ」
モウグ・ガーが注目したのは小麦粉から作った麺である。見た目生パスタとそう変わらないものな。
俺にとっては乾燥パスタの方が見慣れたもので真っ直ぐなものなのだけど、生パスタは折りたたまれているし麺にそっくりだ。
しかしこれはパスタではなく麺……俺の中のカテゴリー的には太麺である。
縮れ麺とどっちがいいのか悩んだが、辛みが強すぎることも懸念し太麺とした。
鶏がらスープに豆乳を入れ、続いてスパイスを投入。
火を弱めて、本当はネギとタマネギを入れたいところだが食べられない種族もいるため使わないことにした。
なので、ひき肉ともやしにほうれん草を軽く炒める。
フライパンと入れ替えでもう一つ鍋を追加して湯を沸かす。
こちらの鍋で麺を茹で、湯切りをして……っと。
お椀に麺を入れ、炒めた具を麺の上に乗せる。そこへ、スパイスたっぷりのスープをゆっくりと注ぐ。
「これで完成。熱々のうちに食べてみてくれ」
「変わったパスタだな」
「タンタンメンというものだよ」
「スープ、パスタ」
イッカハの発言にハッとする。確かにスープパスタと言われればそう見えんこともない。
ラーメンを知らなければそうなるか。
俺は箸を使うが二人はどうかな? 一応、木製フォークとスプーンを用意してきている。
食器を見せたところ、二人ともフォークとスプーンを取ったので、箸だけにしなくて良かった。
「ほう」
「オイシイ」
「お口にあってよかったよ」
二人の反応は上々。
んじゃ俺も頂くとするか。
「エリックさーん、すみよんのこと忘れてませんかー?」
「……正直、頭から抜けてた」
すみよんにはその場でキュウイをもいで渡す。
自分で採れるじゃないかと思うのだが、直接渡すことが大事だと俺は知っている。
目の前にあるキュウイを採って渡すだけでも、彼は俺からもらったと思い満足してくれるのだ。
今日も彼につきあってもらわなきゃならなかったからさ。理由は至極単純で、俺一人じゃこの場所へ来ることができなかったから。
そんじゃ、改めて――。両手を合わせて「いただきます」だ。
「ほう、うん、悪くない」
スパイスの味わいがちょうどタンタンメンで使うものに似た感じだったんだよね。
それでタンタンメンを作ってみようと、レストランにある材料をチェックしたら問題なく作れることが分かった。
ひき肉と麺が絡み、まろやかな辛みが舌を刺激する。
「リュウ、パスタ、タベテ?」
「竜族のパスタかあ。オブシディアンにもあるの?」
スープまで全て飲み干して喉を鳴らしたイッカハがコテンと首を傾げた。
それに対し俺はモウグ・ガーに話を振る。
「オレはイッカハと同じ村にいる。竜以外の種族も住んでいる」
「へえ、てことはモウグ・ガーもイッカハと同じパスタを食べているのかな?」
「そうだな。俺とイッカハが住む村はナーガの村という。お前なら歓迎だ」
「俺、蜘蛛のアレがアレで……」
イッカハやモウグ・ガーのように初見で穏やかに接してくれるのが、蛇の眷属における標準ならいいのだが、彼らが特別平和的だったとしたら村に入ることなんて無理だ。
子供のようにブンブン首を左右に振る俺に対し、イッカハが自分の胸をとんと叩く。
「マカセテ、イク」
「え、え、今から?」
「スグ。ココマデ、オクル」
「帰りは送ってくれるってこと?」
コクコクと頷くイッカハであったが、俺の方は頭の中が追いつかないぞ。
「イク?」
「ちょっと待って欲しい。頭の中を整理させて」
矢継ぎ早に言われても何も判断できねえ。
彼女の提案は蛇の眷属のうち竜やオフシディアンが住むナーガ村でリュウのパスタを振舞ってくれること。
ナーガの村がここから近いのか遠いのか不明。
イッカハがナーガの村まで案内してくれて、帰りもキュウイの木のところまで付き添ってくれる。
だがしかし、大前提がまだ解決していない。
誘ってくれるのは嬉しいが、蜘蛛の加護を受けている俺がナーガの村へ行っても大丈夫なのか分からないんだよな。
「考えがまとまった。俺がナーガの村へ行って本当に大丈夫なの?」
「歓迎だ。イッカハも同じ」
「ウン。キテ」
二人がそう言うならいいか。万が一の時は……カブトムシに目をやり心の中で「頼むぞ」と念じる。
「大丈夫ですよお。すみよんもいまあす」
「不安が高まった……」
すみよんが超実力者であることは疑いの余地がない。
しかし、彼の性格故、信頼し過ぎるのは危険である。
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