第163話 頼みますか?

 そんなわけでやって参りました柵だけがある牧場です。

 意味が分からないって? そうだな、そうだとも。


「うもー」

「ふもお」


 実はじわじわと家畜の数を増やしていたんだよね。

 ヤギと羊だけじゃなく、牛も。俺とマリーの二人だけではこれ以上増えると管理できなくなるところまできた。

 話は遡る……というほどでもない。

 ストラディと別れようとした時にちょうどマリーから声がかかって下に降りただろ。

 飲み過ぎて寝坊したため、廃村の外に出かけるには遅くなってしまっていた。寝ていた俺と異なりマリーは朝から畑仕事をやっていてくれて、お次は牧場と来たものだ。

 さすがにこのままではいかん、と彼女と共に牧場に来たわけである。


「う、うーん」

「みんな元気に見えますけど、何か気になるところがあるんですか?」

「ボーボー鳥も含めて家畜たちが喧嘩もせずに仲良くやっていて今更ながらよかったな、と思って」

「喧嘩しちゃうこともあったんですね……」

「家畜を育てるなんてことをしたことがなかったから、そもそも同種以外を混ぜるとどうなるかなんて考えもしかなったよ」

「わたし、家畜のお世話をお手伝いしたことがあったんですが、そこでは羊とヤギが一緒にいました!」


 なるほど。ボーボー鳥じゃなくて鶏だったらダメだったかもしれないよな。

 そもそも鶏だったら放し飼いが難しかったかも。

 

「あ……」

「や、やっぱり気になることが?」

「厩舎を作ったけど、家畜全てが入るわけじゃないし、ヤギならヤギ、と別々の厩舎にした方が落ち着くんじゃないかなって」

「確かにそうかもしれません!」


 厩舎はあるが「休むなら勝手に入って休んでね」というスタイルになってしまっている。

 夕方からレストランの仕込みタイムに入るから、それで放置になっていたんだよな。

 厩舎に入ることを覚えさせれば自分たちだけで移動してくれるようになるのかな?

 ううん、分からない。それに厩舎は……。


「厩舎はたまに俺が寝泊まりするところになっちゃってるし」

「そ、それは……わ、わたしのお部屋でお休み頂いても」

「いやいや、マリーはちゃんとベッドで寝た方がいい。俺は元々冒険者だったから、藁の上だと上位の寝床って感覚だし」

「そ、そのような意味では……」


 彼女は俺に気を遣ってベッドの方が疲れが取れるので自分が藁の上で寝ると主張しているのだろうけど、あまりいい選択じゃないんだよな。

 俺はベッドだろうが藁の上だろうが同じくらい疲れが取れる。でもマリーはそうじゃない……と思うから。

 困ったように耳をペタンとさせるマリーにどう返していいものか分からなかった俺の出した答えは、誤魔化すであった。

 

「そんなわけでマリー。厩舎を四つにしないか? 今ある厩舎より少し小さいサイズでもいいかなと思ってるけど、どうかな?」

「え、えええ!」

「ダメかな?」

「いえ、少し驚いただけです。余りお力になれないかもしれませんが、精一杯手伝います!」

「よっし、リンゴとビワとサツマイモを運ぶのを手伝ってもらえるかな?」

「あ、はい」


 と返事をしたところで、ようやくマリーも気が付いたようだ。

 建物と言えば……そう、ビーバーである。

 俺とマリーじゃビーバーにうまくお願いできないので、彼を呼ばなきゃな。

 

「呼ばれましたー、すみよんでえす」

「うおお」


 突然、頭の上に生暖かい感触が、と思ったらスルスルと肩の上に降りて来て。

 こんなことができるのは自分で名乗っていたけど、ワオキツネザルな見た目のすみよんだけである。

 彼は不思議そうに首を傾け、長い尻尾を上下に振った。


「呼んだんじゃなかったんですかー?」

「呼びに行こうかなと思ってたけど、まだ口に出してない」

「そうでしたかー」

「そうだったんだよ。さっそくだけど、ビーバーたちに頼みたいことがあって」


 すみよんに厩舎を作りたいことを説明する。

 すると、説明している間にビーバーたちが現れた。

 

「びば」

「びばば」

「……だそうです」

「だから、わからんてば!」

 

 「ね」と真ん丸の瞳を向けられても困る。

 俺には「びばば」とか鳴いているようにしか聞こえんのだよ。すみよんには彼らの言葉が分かるらしいので、頼んでいるじゃないか。

 報酬のリンゴやらをビーバーたちの前に置くとしゃもじのような尻尾をびたんびたんさせはしゃぎ始めた。


「先に食べてもいいよ。もちろん、すみよんも」

「甘いでえす」

「びば」

「びばば」


 そろってリンゴをガリガリやっている姿にほんわかしつつ、彼らの様子を眺める。

 動かぬ俺と違ってマリーは猫たちに餌をあげに行った。

 け、決してサボっているわけじゃないんだ。どこに厩舎を建てるか相談しなきゃならないだろ。

 動く前に腹ごなしをしている彼らを待っているだけなのだ……。


「エリックさーん、ぼーっとしてないで始めますよお」

「っは。ぼ、ぼーっとなんてしてないぞ!」

「意識がどっか飛んでましたよお」

「き、気のせいだ。この辺りにデデーンと頼む」


 頼んだらさっそくビーバーたちが木を切りに並んで進み始めた。

 いつも列になって進んでくるのだけど、並ぶ順番とかあるのだろうか?


「すみよんは一緒に行かないの?」

「丸太を持って帰って来てからが出番でーす」

 

 ビーバーたちと違ってこの場に残ったすみよんに聞いてみたら、自信満々な回答がもどってきた。


「そうだったんだな。急ぐものでもないので、無理のない範囲で頼むよ」

「明日にはできてますよー」

「今から木を切るのに、もう?」

「ですですよお。今回は丸太の乾燥サービスも付けときますねー。いっぱい持って来てくれたのでえ」

「丸太の乾燥って半年くらいかかるんだが……」

「すみよんにかかればちょいちょいですよー」

「ま、魔法ってすげえな」

「スフィアじゃダメですよお。アリアドネもできるんじゃないですかー? 頼みますか?」

「冗談でもやめてくれ!」


 何てことを言いだすんだ。このワオキツネザル……。

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