第158話 ゾレンの興味
「ゾレンウォーリアーは大して強くねえ」
涼しい顔でゴンザが言うが、奴らキーキーという音を繰り返しながらじわじわとこっちに寄ってきているってば。
穴を掘ることだけにご執心じゃなかったのかよ。
ゴンザの言う通り、ゾレンウォーリアー自体はそう強くない。
パワーは人間より少し強いくらいで、まともに体当たりされれば骨折するくらいのダメージを受ける。
しかし、彼らの全力のスピードは人間の走る速度より遅い。
特段武器使わないので、遠距離攻撃を心配する必要もなく長い前脚? 両腕? が多少長いものの両手剣を持った人間の方が間合いは長い。
長い武器を使わない俺みたいな冒険者でも寄って足を攻撃すれば難なく倒せる。
ゾレンウォーリアーの戦闘能力はモンスターの中でも弱い部類だ。だが、注意すべき点がある。
土を溶かしていた能力というか液体があっただろ。あれはアリ酸を強化し量を増やしたような能力で、触れると体が焼ける。
硫酸を皮膚に垂らしたような感じで。
そのため、ゾレンウォーリアーを傷つけた時にアリ酸という名の体液が吹き出してくる。なので複数体に囲まれた時は注意しなきゃ、アリ酸で大怪我を負う。
ギルドのランク付けによるとゾレンウォーリアーのランクはD+からC-くらいと初級冒険者でも相手にできるクラスである。
ただし、群れでいることが殆どなので注意されたしという説明がなされていた……と思う。
「放置しようと思ったのに……」
「素材も取れねえ、酸を被ると武器が腐食する、といいことがなんもねえな」
「あ、ああ。確かに言われてみれば……だな。俺は酸を被ってしまったら大怪我するとか注意してた」
「余程の大群に囲まれねえ限り、被ることはまずないな。俺の場合だがな。あいつらを多数相手にするには刃物じゃダメだ」
「突き刺したり斬るとどうしても武器に酸が付着するものな」
「んだんだ。ハンマーでぶん殴るのがいい。両手持ちのでかいだぜ」
確かに、確かに。
さすが本職の戦士である髭だ。
ウォーハンマーとか長柄のハンマーで叩くとゾレンウォーリアーの甲殻くらいならぺしゃんこになる。
酸も被らないし、鈍器バンザイだな。
といっても鈍器をメインウェポンにしている冒険者の数は多くない。刃物だと戦闘以外でも応用が利くシーンがあるんだよね。
ハンマーでも石を破壊したりする場面があれば……う、うーん。
別に鈍器が武器として弱いわけじゃないし、愛用している人もいる。特に硬い敵には有効なんだ。
寄って来るゾレンウォーリアーたちに目を向けたライザがふんと鼻を鳴らす。
彼女の手は剣の柄に添えられていた。
「エリック、潰すのか?」
「言い方が怖いってば……」
「多少増えてきたが、全部で6体。問題ない」
「どんだけ血気盛んなんだよ! こっちに向かい始めた時には驚いたけど、あいつら敵意が無さそうじゃない?」
「なるほど。敵意を隠すとは思った以上に手強いモンスターなのだな。心配するな一層気を引き締めて事に当たる」
「だから待てってば!」
動き出そうとするライザの肩をむんずと掴む。
考えてもみろ、こちらに襲い掛かるつもりだったらゆっくりと近づいてこようとはしないだろ。
こちらに興味を示しているのは確かだが、こちらを敵と見ての動きではない。
よくよく観察してみると単に寄ってきているわけじゃないみたいだ。キーキーと鳴きながら寄って、キーキーと鳴きながら寄ってを繰り返している。
「声が聞こえる距離まで近寄ろうとしているのかも」
「既に聞こえているが。耳障りな音だ」
ごもっともだよ、ライザ。ガラスを引っ掻いたようなキーキー音が平気な人間は少ない。
聞こえる距離まで近寄ろうとしているとしたら、あのキーキー音は何かしらのメッセージだと推測できる。
腕を組む考えるも何故コンタクトを取ろうとしているのか検討がつかん。
「うーん、となると突然俺たちにコンタクトを取ろうとしてきたのは一体」
「あの音が喋りかけてるってんのか? たまらんな、あの音」
「何に気が付いたのか、何が見えたのかは分からない。俺たち人間には興味がないんだよな」
「ギルドの報告にある限りはそうだな」
ゴンザはこう見えて報告書やらを隅から隅まで読む方だ。
ゾレンウォーリアーの詳細も読んでいたらしい。
人間には興味を示さないとなると、原因は他にある。
心当たりは……あるな。俺は蜘蛛の加護とやらを受けている。アリって蜘蛛の眷属だっけ?
もし俺の加護が原因だったら即座に気が付くと思うのだ。離れていても蜘蛛の加護の気配を感じとることができるとか聞いたから。
ただし、蜘蛛の眷属だけね。例外は蛇の眷属で、ある程度の力を持つ者であれば分かるらしい。
先日のドラゴンとかな……もう会いたくありません、はい。
ん、てことは俺が原因じゃないってことよな。だったら何だ?
振出しに戻ってしまったが、前を向いたままのテレーズが思わぬ答えを口にした。
「エリックくーん、ゾレンはアレに興味があるみたいー」
「アレって、ジャイアントビートルか」
「うんー。目視はできないけど、アレと同じ気配がゾレンの方にもあるよ」
「なるほどな」
あれか、犬の散歩をしている時に同じく犬の散歩をしている人とすれ違ったら挨拶をするようなものか。
言葉も通じないし、ジャイアントビートル仲間との出会いは何すりゃいいんだ。
知らぬフリしてこのまま立ち去ることもできる。
しっかしなあ、彼らにとっても人間に近寄ることは大きなリスクだ。彼らの覚悟と親愛の気持ちを無碍にするには気が引ける。
「挨拶してみるよ」
「私も付き添おう」
カブトムシに乗り、ライザが隣を歩く。
すると、ゾレンたちがキーキーと鳴くのをやめて立ち止まり、何やら触覚を伸ばして目くばせし合っている。
奥からゾレンたちを割ってジャイアントビートルが出てきた。
「キーキーキー」
「よろしく」
謎の挨拶を交わすと、ゾレンは元の作業へ戻って行ったので俺たちもここから立ち去ることにする。
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