第156話 入る、入らないやら

「最近といっても村が放棄される前の話ってことだよな」

「まあそうだな。どれくらい前なのかは分からん。更に奥に行くともっと新しくなるかもしれねえなあ」

「まだ時間はあるよな、新しくなっていってるけど、そろそろ終わりも見えてきたって考えてもいいのかな?」

「たぶんな。テレーズと会話したが、この道は一気に掘られたものじゃなくじわじわ広がったんじゃええかってよ」


 ふむふむ。

 となると、終わりも近いってことで合ってる……ってこと?

 ええい、分からん。


「行けば分かるさ。いざ進めー」

「エリックくん、何だかいつもの私みたいー」


 きゃははと腹を抱えて笑うテレーズを見ていると急に恥ずかしさがこみ上げてきた。


「そ、そこまで軽くないってば」

「そうかなあ。まあ、私もこの奥がどうなってるのか興味あるぞお」


 「まあ、進もうじゃないか」と得意気な顔をしたテレーズが俺の肩をポンポンと叩く。

 内容はともかくとして進み始めたので良しとしよう。ここで何か喋ると墓穴を掘りそうだものね。

 ふんふんと進んでいたら、またしてもテレーズが立ち止まる。

 まだ道は続いているけど、今度は何があったんだろう?


「どうした?」


 テレーズの元まで行くと俺にもすぐに分かった。

 彼女が立つところより先は壁がまだ「柔らかい」のだ。

 試しに地面を強く踏みしめてみたら沈み込むことはなかった。

 地面は普通に硬くなっているな。

 

「エリックに任せるぜ」


 そう言ったゴンザが「なあ」と三人に声をかけると、迷いなく全員が頷きを返す。

 うーん、どうするか。

 壁が柔らかいってことは天井も似たよううなものだろう。


「崩れてくるかもしれないよな……」

「まあ、滅多なことでは崩れてこねえと思うが」

「深い位置にあるし、雨で崩れたりはしないよな」

「テレーズ、ザルマン。どうだ? 兆しがあれば分かるもんなのか?」

 

 どうなんだ? テレーズ、ザルマン。

 ゴンザの問いかけを心の中で反芻してしまった。


「んー、崩れてきそうなところがあればってことなら、大丈夫かな」

「今のメンバーは誰も派手な魔法を使うこともねえし、急に崩れるってことはねえだろ」


 ふむふむ。大丈夫そうだ。

 しかし、念には念を入れたい。

 現在の人数は俺を入れて五人。テレーズは確定として、次に体が小さいのは……。


「ライザ、一応俺の横に立って背を向けてもらえる?」

「分かった」


 ライザと背中合わせになり、ゴンザに呼び掛ける前にテレーズが見てくれた。

 

「エリックくんの方が高いね」

「見れば分かると思うのだが? 私の目線よりエリックの方が高い」


 一応な、一応。


「次にテレーズ。ここに入ることができそう?」

「は、入ると思うけど……」

 

 指し示したのはカブトムシのコンテナである。

 対するテレーズは渋い顔で首を振った。

 そうだったぜ。彼女はカブトムシが苦手だったんだ。

 無言でカブトムシのコンテナを開き、笑顔で彼女へ手招きする。


「え……本気?」


 たらりと冷や汗をかき逃げようとするテレーズにライザをけしかけた。


「テレーズ、パーティで行動しているのだ。この場を放棄するのは頂けないな」

「だってえ。エリックくんがアレに私を押し込めようとするんだもん」

「テレーズなら何とか入るんじゃないのか?」

「いやあああ。突然こんなところでアレに入れとか意味分からないしー」


 ふ、ふふふ。

 そうかそうか。墓穴を掘ったな、テレーズよ。

 腕を組み上から目線で彼女を見下ろす。


「テレーズくん」

「な、なに? 突然気持ち悪い顔になって」

「意味が分かれば良いのだよね」

「喋り方も変……」


 ズズイと彼女に顔をよせ、自分の前髪を後ろに流した。


「意味ならあるぞ。もし天井が崩れて来た時に退避するためにジャイアントビートルを活用すれば安全に退避できるだろ」

「ライザと背比べしていたのも?」

「その通り。ここにいるのは五人。ジャイアントビートルは三人が限界」

「で、でも。五人の体重で動くことができないよねえー。だってえ、三人乗りだもん」

「問題ない。コンテナにどれだけ重たい物を積んできたと思ってんだよ」


 さあ、入るのだ。理由も分かっただろ。

 ところがどっこい彼女は見事な切り替えしをしてきた。

 

「私が入る前にライザが試さなきゃ」

「ほほお。その心は?」

「コンテナの中に入るのってライザと私なんだよね?」

「そうだな。俺の方がライザより体積がある」


 ゴンザとザルマンは言うまでもない。もう見た目からしてゴツイからね。

 彼女の言わんとしていることが分かったぞ。彼女よりライザの方が体が大きい。

 なので、彼女がコンテナの中に入れたとしてもライザが入れるとは限らないというわけか。

 逆にライザがコンテナの中に入ることができれば、彼女も問題なく中に入ることができる。


「おー。分かっちゃったー」

「分かったが、何事もまずスカウトが安全を確かめてからだろ」

「安全も何もないじゃない……え、ライザ、ちょ、ちょっと待ってえ」

「とっとと入れ。ここで無駄に時間を使いたくない」

 

 俺たちの会話にしびれを切らしたゴリラが口を挟む。

 そのまま背後から彼女に腰を掴まれそのまま持ち上げられるテレーズ。

 あ、あーあ。最初から素直にコンテナに入ってりゃよかったのに。


「うーん、テレーズでギリギリだな」

「こ、これ、一人じゃ出るの難しいかも」


 コンテナに無理やり押し込まれた彼女が体を揺するも見てはいけない何かになっていた。

 こ、これはあかん。

 一人で脱出できないとなると使えない。そもそもテレーズでこれじゃライザが入らない。

 

「没。没。じゃあ、再開しようか」

「だ、出してえー」


 ライザがテレーズを手伝いコンテナの外に彼女を出してやる。

 しゃあねえなあと彼女らを眺めていたら、呆れた顔でゴンザが顎をぼりぼりしながら尋ねてくる。

 

「何遊んでたんだ?」

「遊びになってしまったが、一応ちゃんとした考えがあったんだよ」

「全員でカブトンに乗るってやつか?」 

「そそ」

「あの中に入るくれえなら、担ぐなりなんなりした方が良くねえか?」

「背負っても一人までで、一人余るよな……?」

「あー、天井がそんなに高くねえからなあ」


 テレーズがぷんすか膨れているが、気にせず探索を再開する俺たちであった。

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