第155話 エリックくん、完全に理解した

 ダンジョン部分が思った以上に広い。

 米を背中から生やした亀の生息地とは反対側になるのだが、あちらはあちらで結構な距離だったものな。

 徒歩で行くとなると、一日がかりの作業となる。今はカブトムシに乗って行くので移動に大した時間はかからない。

 しかしながら、作業は一日がかりなんだよね。米の収穫もその日のうちにやっているからさ。

 以前は移動時間が長かったので一人では二日かけても難しかった。ライザたちにも協力してもらったっけ。

 さて、分かれ道を左に進んだ俺たちであったが、これまでに比べて道が狭く天井も高くない。

 カブトムシに騎乗して背筋を伸ばすと頭の先が天井にするくらいかな。

 武器を振るう分には問題なし、横幅もカブトムシ+人一人分以上はあるので十分な広さだ。

 むしろ、これくらいの広さの方が安全な気もする。

 大型のモンスターが入ってこれなくなるからね。


「それにしても広いなあ、どこまで続いているんだろうな、このダンジョン」

「広ければ広いほど探索のし甲斐があるじゃねえか」

「広いってのは、俺にとっても歓迎することだよな」

「ん? あ、ああ。探索しきれてないと今後も冒険者が来るかもってやつか?」

「そそ」

「んー。多少は変わるだろうが、お前さんも元冒険者だから、まあ、な」


 言葉を濁すゴンザに彼の言わんとしていることは分かった。

 分かる、分かるよ。元冒険者の俺だって、ダンジョンが広くてもそう依頼は増えないってさ。

 未踏の地の調査って依頼は依頼全体のうちほんの少ししかないんだよね。

 それらはほぼ学者連中や貴族からの依頼になる。

 更に未踏の地の調査はダンジョンではなく、遺跡や領地の中で誰も住んでいないエリアを指定してくる場合が殆どだ。

 遺跡の場合は学者が何か学術的なものはないかと依頼するし、貴族は自分の領土内で金になるようなところはないかと調査をするんだよな。

 炭鉱跡と繫がったダンジョンは遺跡じゃないので、遺物なんてものはない。

 ダンジョンへの依頼の多くは採集かモンスターの討伐なのである。

 街で需要のある素材の何かがダンジョンにあるなら、常に需要があるってわけさ。

 そこでしか取れない薬草とかがあればベストだな。

 ……ま、まあ、現状でもポツポツと炭鉱ダンジョンへ向かう冒険者がいるわけだし、それで良しとしようじゃないか。

 

「ねえ、ザルマン。この辺って」

「お、おお。言われてみれば、良く気が付いたな」


 俺とゴンザがたわいない話をしているのに比べ、テレーズとザルマンは何やら真剣に目くばせし合っている。

 先頭を行くテレーズがその場で立ち止まり、ザルマンが彼女の隣でしゃがみ込む。

 もう一方のテレーズは踵をあげて背伸びし壁に触れる。

 一体どうしたんだろう。遺跡ダンジョンでもないから、人為的な罠はないはず。

 先行した人が設置している線もあるにはあるが、何もないところに罠を置いてもなあ。この奥にお宝でも隠しているのならともかく。

 あるとすれば自然にできた落とし穴くらいなもの。

 俺が見た範囲であるが、特に変わったところはない。

 

「やっぱり」

「んだなあ」


 二人は手のひらを見せ合って納得し合っている。

 テレーズとザルマンの中で答えが出たようだし、何に気が付いたのか聞いてみるか。

 

「一体どうしたんだ? 突然止まって」


 俺より聞くより先にライザが二人へ尋ねた。

 彼女はパーティの一番後ろを歩いているが、今は前が止まったので全員が密集した形になっている。


「何だと思うー?」

「特に変わったところは見当たらないが。罠でもあるのか?」

「ぶっぶー。じゃあ次、エリックくん」

「え? 俺?」


 ライザの答えが外れなのはまあいいとして、突然ビシッと指をさされましても。テレーズに謎の指名を受け、全員の視線が俺に向いているじゃないかよ。

 う、うーん。

 予想通り罠ではなかった。

 罠ではないとしたら、他に何がある。こうなりゃ意地だ。俺の探偵パワーで答えを導き出してやろう。

 テレーズとザルマンの行動を振り返ってみようか。答えは容疑者の行動にある。

 彼らはまず何かに気が付き、次に壁と床を調べた。手の平を見せ合って分かりあっていたよな。

 壁と床に触れて手の平を見せて、って手の平に何か付着していた……?

 付着していたとしても砂粒くらいしかない。

 二人は付着した砂粒を見て「やっぱり」とか言っていたのである。

 そこから導き出される答えは……ポクポク……チーン!

 閃いた!

 

「壁が何か希少な物質だったんだろ! 水晶の粒とか」

「それならもう先に進むのをやめて掘ってるだろ……?」


 ぐ、ぐう。閃いたと思ったのだが、速攻ゴンザから突っ込みを受けてしまったぜ。

 確かに水晶だったら目の色を変えて掘るよね。

 

「ぶっぶー。時間切れー」

「それで正解は?」

「あれえ。もうちょっと頑張ると思ったのになあ」

「俺の中の探偵魂は既にお亡くなりになったんだよ」

 

 からかわれたりなんぞしないのだ。テレーズに対し俺は極めて冷静に対処した。

 ふ、ふはは。どうだ。

 とかやろうとしたところで、ザルマンが答えを喋り出す。

 

「奥に行けば行くほど洞窟が新しいんだよ」

「この道が最近掘られたってこと?」

「んだなあ」

「てことは今も広がってるのか」

「それは分からん」

「最近掘られたって……」

「一から話した方が早そうだ。回りくどいかもしれんが聞いてくれ」


 俺の反応を待ってからザルマンが静かに語り始めた。

 彼の語りを聞くのは初めてかもしれない。いつもお喋りなゴンザがだいたい喋っちゃって彼は頷くばかりだものな。

 彼の俺のイメージは無口な仕事人である。

 「一から話す」と言った割に短かったのは彼らしい。

 左右に別れたところまでは特にいつ頃出来た何てことは気にならなかったのだけど、奥へ進むと作られた年代が新しくなっていた。

 そして、ザルマンらが立ち止まった場所で急激に新しくなったんだと。

 と言っても、堀り進めてから壁が今のように固まり安全に進めるようになるまでの期間もあるのでいくら新しいといっても数十年は経過しているだろうとのこと。

 なので、「今も広がっているのか」という質問に対して「不明」だったわけだ。

 エリックくん、完全に理解した。

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