第152話 ナスだろここは
「今日もお疲れ様でした!」
「いつもありがとう。そろそろ食材を獲りに行っておこうかな」
「明日はお出かけされますか?」
「天気が良ければ行ってくるよ。たまにはマリーも行かない?」
「わ、わたしが行くと足手まといになりますよね」
「そんなことないって。牧場やら畑やらの世話をやってから出よう」
「はい!」
まだ食材に余裕はあるのだけど、早め早めに対応しておいた方が気分的に楽だ。
実は保冷庫を増設したんだよね。少し値が張ったのだけど、ジョエルの宿泊代名義の資金がまるまる残っていたし、思い切って買ってみた。
買いたいものは色々ある。
日本的なグッズも増やしたいし、あれもこれも……と考え始めたらキリがない。
といっても、当初考えていたより遥かに少ない経費しかかかってないんだよね。
本来なら一番大きな買い物にになる家や厩舎といった建物についてはリンゴなどの果物だけでビーバーたちが作ってくれる。
しれも僅か一日で。
トイレなどの魔道具も整備できたし、ジョエルが街に戻った後に使おうと思っている新たな宿舎候補にも既にトイレとキッチン、風呂を完備している。
まあ、ジョエルが住むところだからとクバートの関係者が家が建つなり設備を整えていった。
彼はキルハイム伯爵の嫡男なので、家を建てた後の整備に関してはお任せしている。今もたまに関係者がやって来て何か置いて行ったりしているみたい。
ジョエルたちが帰った後、豪奢な大理石の像とか置いてあったらどうしよう……装飾品は持って帰ってもらうように依頼しようかな。
そんなわけで、大きな資金が必要なことは差し当たり存在しない。
マリーがテーブルを拭き、俺は食器を片付けこれにて本日すべての作業が終了した。
「よっし、お楽しみの料理タイムと行きますか」
「カンナを使ったお料理ですよね。楽しみです!」
「少しかかるからマリーはお風呂にでも」
「お言葉に甘えて先に頂いちゃいますね!」
「おう」と手をあげ彼女を見送りつつ、意識はスピパとカンナに向かっている。
さっそくからっからに乾燥したスピパをまな板の上に固定して小型カンナを引いてみた。
ぐ、やり辛い。逆のがいいか。
カンナを固定しスピパをスルスルとカンナに擦り付けてみる。
お、いいじゃないか。削れる、削れる。
カンナで削りだしたスピパは向こう側が透けて見えるほど薄い。
これだよ、これ!
試しに摘まんで食べてみたら、かつお節そのものの味だった。
同じような作業を繰り返してある程度スピパを削り出し、手を止める。
定番の冷ややっこは確定として、以前からかつお節を使ってみたかった料理筆頭を作ることにしよう。
「ナスだろここは!」
ナスをたんまりと籠に入れ、まな板の隣に置く。
下手のまわりにある膨らんだ部分を切って、ナスに切れ目を入れる。
中までふっくらするようにナスのお尻に串を挿す。
網にナスを乗せジリジリと焼く。
焼いている間に自家製ベーコン、アスパラ、ネギが残っていたので使う事にした。
ネギ、アスパラをそれぞれ薄く切ったベーコンで巻き、網に乗せる。
うっし。
ナスが焼けてきたので、取り出して手袋をはめて皮を剥く。
「この薄緑が宝石のようだ」
皿にナスを並べて削ったばかりのスピパをわさーっと被せ、後は酢と醤油を混ぜたソースをかけて焼きナスの完成である。
おっと、忘れていた。柚子……なかったので、似たような柑橘であるザボンを使ってみるか。
いや、レモンにしておこう。
アスパラとネギも焼き上がったぞ。
これだけじゃ腹にたまらないので、余り物のボーボー鳥の肉をすり潰してつくねを作った。
「お邪魔します」
「お、ちょうどいいところに。もうすぐできるからそこで待っててもらえるか?」
仕事を終えたポラリスが宿に顔を出す。
そろそろマリーも風呂から戻ってくるので皿やらを出しておくかな。炊いた米も余りがあるので三人なら足りるだろう。
「いただきます」
手を合わせて出来立ての焼きナスに手をつけた。
レモンの香りと酢の酸っぱさに醤油とスピパ節が絡み、ナスを極上の味に仕上げている。
噛むとじゅわっと汁が溢れ、スピパ節からも良い出汁が出ているなあ。
「おいしいです! ご飯とも合いますね!」
「これは、酒が欲しくなりますね」
「幸せー」と微笑むマリーと感心したように何度も頷くポラリス。
確かに飲みたくなるな、このメニュー。
居酒屋でよく見るメニューばかりだし、酒のアテにも良い。
つくねもアスパラベーコン巻きも我ながら懐かしい味に仕上がった。
「あ、豆腐を忘れた」
器に豆腐を入れてスピパ節とネギを振って持ってくる。
こいつもまた酒が欲しくなるなあ。
「冷たくておいしいです!」
「ちょっとだけ飲もうかな、ポラリスも飲む?」
「是非に!」
清酒をついでポラリスと乾杯をする。
マリーは水だけで申し訳ない。
「ふいいいい」
いい感じにアルコールも入り、風呂につかると変な声が出る。
ドボン、ドボン。
その時突然、リンゴが空から降って来た。
以前も見たよなこの光景……。
「すみよん、リンゴを投げると危ないって」
「そうですかー」
呼びかけたからか最初からそこにいたのか分からないけど、岩の隙間からワオキツネザルがひょっこり出てきた。
「ん、リンゴがあるけど、今回はビーバーたちが来ないんだな」
「会いたいんですかー?」
「いや、どっちでも……呼ばなくていいからね」
「分かりましたー」
すみよんがリンゴをシャリシャリと食べる。
俺の頭の上で……。
せっかくの風呂なんだから、入ればいいのにさ。
「ドラゴンの時も助かったよ、ありがとう」
「花火楽しかったですねー」
「ドラゴンの素材は保管したままなんだ、そのうち何かに使うか売るかするよ」
「蛇に見せつけるんですねー。エリックさーんも分かってきたじゃないですか」
「そ、そういうことになるのか」
売ろう、売ってしまおう。ドラゴン素材。
滅多にお目にかかれる品物じゃないので残念だけど、持っていたらトラブルを招きそうだ。
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