第151話 ホメロン、感激の極み

 出会いがあれば別れもある。


「本当にありがとうございました。感謝してもしきれません」

「ホメロン、感激の極み。さらばエリック、また会う日まで」


 濃過ぎる旅の楽師は放っておいて、すっかり顔色が良くなり深々と頭を下げるエリシアに向けにこりと微笑む。

 どうなることかと思ったが、まさかのスライムゼリーで回復するとはなあ。

 彼女の体調が悪くなっていた原因は青黒い斑点だ毛だったのだと思う。他にも要因があるのかとヒール治療は続けていたんだ。

 彼女はみるみるうちに元気になっていって、今ではもうすっかり元通りになった。

 

「エリシアさんの斑点を治療できたのはたまたまだったんだ」

「いえ、エリックさんがお忙しい中、細やかに診てくださったおかげです」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。でも、体調不良が病気だったのか、呪いだったのか分かっていないし、発生原因も不明だ。再発するかどうかも分からない。もし、また斑点が出てきちゃったら教えて欲しい」

「ありがとうございます!」


 お、おっと。力強く返事をし過ぎたからなのか彼女がむせてしまう。

 ホメロンが彼女の背中をさすっている間に、水を持ってきた。

 水を飲むと落ち着いた彼女がほうと息をつく。

 

「体は良くなったとはいえ、まだまだ病み上がりだから気を付けて」

「最後までご心配をおかけしました」


 そんなこんなでエリシアとホメロンは街へ帰って行った。

 これでホメロンの音楽を聞くことができなくなるかと思うと少し寂しくはあるが、彼は街から街へ旅をする楽師である。

 そのうちひょこっと廃村に姿を見せてくれることだろう。

 

「ホメロンさん、エリシアさん、お気をつけて!」


 彼らがちょうどこの場を離れようとしたところで、息を切らせたマリーが扉口にやって来て大きく手を振った。


「ありがとう、また会う日まで」

「マリーさん、ありがとうございました」


 二人も足を止め、彼女と握手を交わし今度こそ廃村を後にする。

 

 そうそう、そろそろ別れの時期かと思っていたが、先に伸びた人たちもいる。

 ジョエルたちは一ヶ月が過ぎようとしていたのだけど、更に一ヶ月滞在を延長することになった。

 俺が彼に提案したんだよね。

 彼の態度と表情からまだ帰りたくないのかなと思ってさ。

 延長しないかって提案したら、彼は俺たちの負担を気遣って渋っていたけど、マリーと共に「そんなことはない」「いてくれた方が楽しい」と押して「なら」と了承してくれた。

 この一ヶ月でジョエルも随分と変わったと思う。

 初めて会う人にはまだまだ臆病なところがあるけど、打ち解けるのが随分と早くなたんだよね。

 子供らしい一面も見られるようになり、何より笑顔が増えたとメイドのメリダから聞いた。

 もう一ヶ月あるなら、ジョエルたちともう一回お出かけしたいところだなあ。

 北の湖に行ったし、今度はどこに行こうかな?

 カブトムシトリオがいるので、遠出も平気だ。


「リーダーたちのこと任せてもいいかな?」

「もちろんです。レティシアさんもすっかり良くなって、今日にも立つとおっしゃってました」

「俺も聞いているよ。ちょっとばかし出かけて来るよ。すぐ戻る」

「はい! いってらっしゃい!」


 ドラゴン騒ぎでリーダーたちは廃村に留まってくれていたんだよね。

 それも解決したし、既にレティシアは完全に回復している。

 リーダーたちは何度も大怪我を負っても冒険者を続けていることには頭が下がるよ。

 俺だったら一度死にかけたら冒険者を続けることはなかっただろうなあ。

 そもそも大怪我するような大冒険をしたことがないという突っ込みは聞こえないぞ。

 ともあれ、平和な廃村が戻って来た。

 ドラゴン事件は俺に蜘蛛の加護があったから起こった事件かもしれない、と思うところがあってさ。

 今後も同様の事件が起こるかもしれないと戦々恐々としている。

 俺だけに影響することならば自己責任だし気に病むこともないのだが、マリーや宿泊者、数少ない住民たちにも迷惑がかかってしまう。

 対応策としてはすみよんだ。

 彼に何か感知した時にはすぐに教えてくれと頼んでいる。廃村に至る前にどうにかしようとね。

 すみよんにお願いしている時に素面だったスフィアがいて、彼女曰く今回の事件はドラゴンと遭遇したことと、オブシディアンがドラゴンを追いかけていたことが重なった結果、起こった事件なのだと。

 すみよん情報からドラゴンは低級のものだったので、ちょうど進行方向に気に障る存在(俺)がいたため目をつけられた。

 何が言いたいのかというと、そう何度も起こることではないということだ。

 よっし、到着。大した距離ではないので、ゆっくり歩いてもすぐに到着する。

 

「ポラリス、いるかな?」

「お待ちを。すぐ出ます」


 すぐの言葉通り扉が開き、包みを持ったポラリスが顔を出す。

 その場で包みを受け取り中を改める。

 中に入っていたのは小型のカンナだった。そうそうこれこれ、この小ささが良いんだよ。


「一体何に使うのですか? このサイズですと、カンナよりヤスリの方が使いやすいような」

「木を削るのに使うんじゃないんだ。良かったらポラリスにもご馳走するよ」

「ご馳走? 料理に使うんですか!?」

「そそ。大きさ的に小型のカンナじゃないとやり辛くて」

「それは楽しみです。是非ご一緒させてください」

「今日の夜、レストラン営業の後で遅くなっちゃうけど」

「私にとっても遅い時間の方がありがたいです」


 そんなやり取りをして小型のカンナを受け取った俺はホクホク顔で宿に戻る。

 最近料理ばかりなのだけど、またしても料理なんだ。

 日本的なものを増やして行こうという方針は変わっていない。今回の料理だって日本的なものだからね!

 料理に寄り過ぎている気がしなくもないが……。

 

 よし、雑務をこなしてからさっそく小型カンナを使ってみるとしよう。

 取り出したるは更に乾燥させたスピパである。サハギンのヒレに張り付いて魔力を奪ってしまうそれはかつお節そっくりな味だった。

 ならば、こいつを薄く削ってみようってね!

 さあて、どんな料理にしようかなあ。

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