第150話 大正義パスタ

「エリックさん!」

「ただいま。手伝わせて」


 帰るとちょうどレストランの営業が終わったところだったようで、マリーがテーブルの片付けをしている最中だった。

 お盆に乗せることができる限界まで皿やらを乗せキッチンの洗い場まで運ぶ。

 そこではレイシャがテキパキと洗い物をこなしていた。

 長い髪を後ろでくくって腕をまくった彼女を見て誰も回復術師とは思わないだろう。

 ここまで真剣に洗い物をこなしてくれている彼女の横に立ち笑顔で彼女に感謝を伝える。

 

「ありがとう」

「いえ、エリックさんに謝らないといけないことがあります」

「俺に?」

「はい、お皿を一枚、コップを一つ割ってしまいました」

「そんなの、気にしなくたっていいよ。怪我はなかった?」

「今はありません」

「自分でヒールをかけたのかあ。慣れない仕事を手伝ってくれて助かったよ」


 彼女と並んで皿を取りゴシゴシとこすり綺麗にしていく。

 その間にもマリーが残りの食器をどんどん運んできて、キッチンに並べて行った。

 

「マリー、これ」

「ありがとうございます!」


 絞ったダスターを手渡すと、彼女はテーブルを拭きに向かう。

 三人いるとこんなにも作業が早くなるのか。少し感動だ。

 部屋数を増やし、従業員を増やすことができれば全体の仕事量が増えても自由になる時間が増えるじゃないかな?

 部屋の掃除は小人族にお任せだし、準備する食事量もそう変わらない。今でも宿泊客以外のお客さんもレストランに迎え入れているからさ。


「終わりました! レイシャさん、ありがとうございます!」

「ありがとう、レイシャ」

「いえ……私がお手伝いできたことはほんの少しだけです。こちらこそ、治療をしていただきありがとうございました」


 三者揃って頭を下げる。

 なんだか日本にいる時みたいでくすっと来た。

 この世界でも握手をしたり、頭を下げる習慣がある。頭を下げるのは日本ほどじゃない。逆に握手は自己紹介の時に必ずするくらい頻度が高いかな。


「よっし、レイシャは好きな食べ物とかある? 苦手なものでも」

「特には……ですが、お鍋以外ですと嬉しいです」

「冒険中は鍋確率が高いものな。そうだ。久しぶりにアレつくるか」

「楽しみです。エリックさんのお料理はどれも美味しいですから」

「簡単なものだから、余り期待しないでくれると」


 そんじゃま、作り始めるとしますか!

 レイシャはしばらく街に帰ってないだろうから、鍋以外で定番料理にしようと思ってさ。

 腕まくりをすると珍しくキッチンから離れずにこちらの様子を見ていたマリーに気が付く。

 いつもは水の準備をしたり、俺が調理中に何かと動いてくれているのだけど何かあったのかな?

 

「マリー?」

「エリックさん、お疲れじゃないですか?」

「顔に出てたかな?」

「はい、レストランの営業が終わった後はいつも疲れてらっしゃいますが、いつもと違ったお疲れの感じがします」


 体力的にはそうでもないのだけど、気疲れが激しい。

 そらまあ、ドラゴンと大運動会をしたのだから仕方ないよな。


「料理くらいは問題ないよ。あとでゆっくり温泉に浸かることにするよ」

「ご無理なさらないでくださいね」

 

 そう言い残すとマリーはいつものように動き始めた。

 レイシャには席に座ってもらって、調理を始めることにする。

 さて、鍋以外の街での定番と言えば、パスタじゃないだろうか。人によって違うことはもちろん承知の上だ。

 パンと何かの組み合わせは多いが、単独でとなるとやっぱりパスタじゃないか?

 独断と偏見でパスタを選定した。

 しかし、月見草で出す料理となれば懐かしの日本風パスタを選ぶ。

 一部の調味料がないので少し味は違うが似たようなものになっているはず。

 パスタを茹でつつ、フライパンにオリーブオイルを敷く。

 そこへ縦に切ったタマネギを入れしなっとなるまで炒め、ピーマン、ソーセージ、アリアドネから頂いたマッシュルームぽいキノコを投入。

 ジュワアアアといい音がしてきて、これだけで口内に唾液が溜まる。

 腹が減っているのでこの音と匂いの攻撃はなかなか辛い。

 だが、まだ我慢なのである。つまみ食いをするといざ食べる時のおいしさが半減するだろ?

 お次はトマトソースに醤油を少々、そしてニンニクをすりおろしたものを混ぜ込みぐつぐつしてきたところで、先ほど炒めた具材を絡める。


「そろそろかな」


 パスタの様子を確かめ、頃合いだと判断した。

 茹で上がったパスタをソースと共にフライパンで炒めるのがポイントだ。


「よっし、完成」


 後は皿に盛ってテーブルまで運ぶのみ。

 

「わああ。いい匂いです!」

「変わったパスタですね。とても美味しそうです」

「パスタだけじゃお腹が膨れないかもだけど、まずは食べよう」


 両手を合わせぱああと笑顔を浮かべるマリーとレイシャの仕草がシンクロしていた。

 

「何というパスタなんですか?」

「こいつはナポリタンと呼んでいる。月見草でしか出してないと思う」

「月見草はオリジナル料理が多くて、楽しいです」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」


 などとレイシャと会話を交わしつつ、両手を合わせて「いただきます」をする。

 これこれ、これだよ。

 本当はウィスターソースを使いたかったのだけど、残念ながらまだ研究中だ。

 醤油でもなかなかいけるもんなのだよね。

 醤油が手に入る前は少しコクが足りない感じだったのだけど、塩コショウで調整して出してた。

 ちょっと濃いめの味付けなのがナポリタンだと思っている。じゅわっとするソーセージとタマネギ、ピーマンの組み合わせが絶妙なんだよな。

 タマネギは敢えて食感を残すのがポイントだ。

 

「トマトソースとソーセージの組み合わせは正義ですね!」

「パンと一緒に食べても美味しそうです」

「お、確かに。パンに挟んでも美味しいかもしれない」


 二人の感想を聞きつつ、俺も意見を述べる。

 あっという間に完食し、ふうと息をつく。

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