第134話 蛇やばい蛇やばい

 少し不味い事態になった。

 場合によっては宿の営業を停止しなきゃならないかもしれない。ザザから頂いた魚介については腐らせずに維持できることは幸いだ。

 マリーたちは無事脱出することができたからな。

 みんなで楽しく食事をして、帰路についた。

 そこで、俺の肩に乗っかっていたすみよんがふとのたまったんだよ。

 「エリックさーん、少し離れたところに『蛇』の群れがいますー」ってね。

 すみよんの「少し」がどれだけの距離か分からなかったけど、廃村にまで到達されると事だ。

 一旦カブトムシ軍団を停車させて、俺とすみよんは緑に騎乗し、残りは青とオレンジに乗ってもらうよう調整した。

 元々俺の乗っていたカブトムシには俺とマリーだけだったので、彼女をスフィアの騎乗するカブトムシに乗ってもらうことで事なきを得る。

 マリーに北の湖で獲れた食材を任せ、俺はすみよんと共に「蛇の群れ」とやらの調査に向かうことにしたんだ。


「すみよん、こっちでいいの?」

「いいですよお」

「思ったんだけど、すみよんに舵取りを任せて良かったんじゃ?」

「すみよんが動かしますかー?」

「頼む」

「分かりましたー」


 とすみよんが言ったとたんに緑色カブトムシが急激に加速し振り落とされそうになった。


「早いって!」


 思わず叫んでしまって口をつぐむが、時すでに遅し。

 叫んでしまった事実は変わらない。覆水盆に返らずとはまさにこのこと。

 

「どうしたんですかー? 変な顔をしてー?」

「せっかく緑の能力で俺たちの姿が見えなくなっているんだよな?」

「まだ姿が見えますよー」

「え、そうなの?」

「はいー。この辺りに危険な魔物はいませんー」

「ん、待てよ。一回速度を緩めてもらえるか?」

「いいですよー」


 急いで移動していたけど、何も急ぐ必要はないんじゃないのか?

 蛇の群れが廃村に来襲するかもしれない、という懸念は変わらない。

 だけど、ここで急いだところで状況は余り変わらないよな? むしろ、ちゃんと緑の能力をすみよんに聞き、把握しておく方がいい。

 いざ蛇の群れとやらに近寄った時に気が付かれないためにどう振舞ったらいいのか、もし蛇の群れが俺だと瞬間蒸発してしまうようなモンスターだったら緑の能力頼りになるものな。

 

「緑は姿を隠す能力があるんだよな?」

「そうですよー」

「姿を隠すってこう周囲の景色に溶け込むように色が変わるのか、それとも認識阻害の魔法のような効果があるの?」

「全部ですー。完全なる隠遁パーフェクトステルスというスキルですねえ」


 何だか凄そうな名前が出てきたぞ!

 隠遁ステルスについては俺も知っている。

 スカウト系の一部冒険者が使うことができる超便利なスキルだ。

 ステルス迷彩とかそんな生易しいものじゃない。ステルスのスキルを使うと「完全に」姿を隠してくれる。

 光を当てても素通りする透明な状態になるのだ。光は通すが誰かに触れるとステルスが解除され姿が現れてしまう。

 また、声を出したり、走ったりしてもステルスの効果は消える。

 しかしながら、透明になるだけじゃなく匂いまで消してくれるので身動きせずじっとしていればまず発見されることはない。

 モンスターに対しても効果覿面で、ゆっくり歩きながらになるがモンスターの前を素通りしても気が付かれることはないのだ。

 モンスターの不意をうって一撃で仕留めることもできるウハウハスキルじゃないか、と思ったがそうでもないらしい。

 何やら殺気を発し過ぎると効果が消えるとか、細かい条件があるんだって。世の中、そうそう上手くいかないってことだな、うん。

 また、ステルスを暴く魔法やスキルもある。

 ステルスで街の高官の家に忍び込み、聞き耳を立てて……なんてことは難しいのだ。

 スキルではなく魔法の姿隠しはどうかというと、スキルより制約が大きい。魔法の方は一歩でも動くと姿が見えてしまう。

 珍しくやたら詳しいじゃないかって?

 そら、姿を隠して移動できるスキルなんて聞いたら習得できるものなら習得したいと思うだろ。

 調べた結果、習得するに多大な労力を払う上に才能がないと習得できない、と来たものだ。俺が現在ステルスを使うことができないことからどうなったのかは察してくれ。


完全なるパーフェクトって普通のステルスと違うの?」

「違いますよー」


 「完全に」姿を消す、という意味合いを強調したのかと思ったが違うらしい。

 一体どのようなことが異なるんだろう?

 興味津々にすみよんに尋ねてみたら、すぐに答えが返ってきた。

 

完全なる隠遁パーフェクトステルスはニンジャビートルだけでなく、騎乗しているエリックさんにも効果があります」

「あ、そうか、普通のステルスは本人だけだものな」

「乗っているエリックさんまで隠すのは普通ですよね」

「ま、まあ……騎乗者を隠せなければ却って目立つよな」

「まだありまーす。ここまでは単なる隠遁ステルスですよねー」

「十分すごいけどな……」

「では質問でえす。騎乗者を隠すにはどうやってるんでしょうかあ」

「触れているから?」

「そうですねー、近いです。似たようなものですが、すみよん、頑張って解説します」


 彼の解説はとんでもない内容だったんだ!

 そもそもステルスとはどのような現象なのか?

 それは術者の体を覆う膜を作り、膜の中にいる術者を隠す……ようなものだそうだ。

 では、騎乗者まで隠してくれる緑の場合はどうなっているのかというと、体を覆うのではなく空間が対象になる。

 この空間というのが「完全なる隠遁」を形成する。

 空間自体はどこからどこまでなのか捉えることができないものの、空間の中にいると姿と匂いを消すだけじゃなくどれだけ動いてもステルスが解除されない。

 更に、空間の外に声が漏れ出ないとまで来たものだ。

 空間の中限定ではあるが、まさに「完全なる」秘匿空間ができあがる。

 すみよんが「叫んでも心配ない」と言っていたのは「完全なる隠遁パーフェクトステルス」が発動している状態なら声は外に出ない、という意味だったのだ!

 

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