第123話 すみよんは素っ裸
「う、うーん、釣れない」
「こうして竿を垂らしているだけでも楽しいよ! 釣りやピクニックって一度やってみたかったんだ」
釣り糸を垂らしてから30分くらい経過しただろうか。
全員の浮がピクリともしない。岸辺だけに水深が浅すぎるのかも。
投げ網をして引っ張ったら結構な魚が獲れるんだけどなあ。底生魚ばかりなのかもしれない。
底生魚だって釣りでもちろん釣れる。だけど、仕掛けが合わなかったのだろう。
どうすっかなあ。
釣りは短時間で成果が出るものじゃないと分かっている。なので、このまま夕方まで釣りをしたら多少は引っかかると思う。
こう釣り糸を垂らしてのんびりとした時間を過ごすのも良いものだ。
ジョエルは浮に動きがなくとも、俺やメリダ、ランバードらに話しかけて楽しそうにしている。
メリダとランバードは主人が楽しそうにしている姿に目を細めているし、問題なさそう。
ゲストである彼らが満足しているのだったらそれで良いよな?
いやいや!
そんなんじゃいかああああん。
ダメだ。ぼーっと釣り糸を垂らしていて変なテンションになってきた。
ジョエルが気軽に出かけることができるのは廃村に来ている間だけなんだ。俺は俺で中々こういった時間が取れないもので、毎日彼と出かけるわけにもいかない。
ならば、欲張りツアーにしたいところだろ?
「よおっし! すみよん、ビーバーに少しだけお手伝いを頼めないか?」
「分かりましたー」
すみよんが長い尻尾をフリフリさせると水の中に潜っていたビーバーたちがゾロゾロとあがってきた。
全員じゃなくてもよかったんだけど……。
「丸太を手ごろなサイズに成型して欲しいんだ。筏を作ろうかなってさ」
「それなら筏を作ればいいんじゃないですかー?」
「最後の組み立てはやりたいなと思って」
「分かりましたー」
「びば」
「びばばばばばば」
ビーバーたちが一斉に木にかじりつき、みるみるうちにドシーンと木が倒れた。
その大きな音にジョエルらも集まる。
あっという間に木が整形されて行き、ちょうどいい感じの大きさの丸太の束となった。
「すごい!」
「ビーバーさんたち、歯だけで!」
ジョエルら三人とマリーが揃って歓声をあげる。
「お、釣竿は……まあいいか」
「立てかけてあります!」
ちゃんとマリーがフォローしてくれていたようだ。さすが、抜け目ない。
「ジョエル、この蔓で丸太を縛って筏を作ろう」
「おもしろそう」
「ランバードとメリダも手伝ってくれよお」
「二人とも頼むね」
ジョエルがそう言うと、うんうんと即座に首を縦に振るメリダとランバード。
表情を出すまいと意識しているランバードがもう抑えきれないといった様子だ。
彼はこういう物つくりが好きなのかもしれない。
丸太を横に並べて支え、ランバードとジョエルに蔓で結んでもらい、と作業を始める。
マリー、メリダ、そしてスフィアも一緒になってワイワイと筏作りを進めていった。
人数が多いだけに、いや、ビーバーの材料作成が優れていてそれほど時間がかからず筏が完成する。
「よっし、みんなで持ち上げて岸まで運ぶぞお」
「楽しみだね!」
「ちゃんと浮かぶのでしょうか……」
なんてみんな思い思いのことを口にしながら筏を岸辺まで運ぶ。
筏を浮かべてみたら、ちゃんと沈まずに浮かんだ!
「おおお、うまくいった!」
「これ、乗っても大丈夫なの?」
「うん」と答えようとしたところで、後ろから腕を引っ張られ肘に柔らかい感触が。
「エリックさん、ちょっと……」
「うん?」
俺の腕を抱きかかえるようにして引いたのはスフィアだった。
彼女はそのまま俺の耳元に口を寄せる。
当たってるけどいいんだろうか、何て突っ込むと大変なことになるので何も言わないでおく。
彼女は人に触れるのが苦手なところがあったのだけど、真剣なことになるとその辺気にならなくなるのは元冒険者ぽいよな。
「落ちたらどうするの? 手作りだし途中でバラバラになっちゃうかも?」
「確かに……まあ、その時は泳いで戻れば」
「泳ぐのはいいけど、泳いだ後に服が濡れちゃうじゃない」
「乾かせば……あ、そうだな。どうしよう、俺とランバードとジョエルだけで筏に乗ろうか」
と言ったものの、マリーとメリダの楽し気な顔を見ていると心が痛む。
「素っ裸でいいんじゃないですかー?」
「俺はいいけど……」
ひそひそ話ににゅうと割り込んでくるすみよん。
入って来るのはいいのだが、俺とスフィアの顔の間に無理やり体を入れてきたので鼻に彼の毛が入って鼻がむずむずしてきた。
服を着る習慣のないワオ族ならともかく、女性陣はまずいってば。
「師匠、人間は服を着るの」
「スフィアも着てますねえ」
「そうなの、だから裸はダメなの」
「スフィアもダメなんですかー? 裸の時が多いですよお」
「っつ、師匠と二人ならいいのだけど……」
まあペットと一緒の時は気にならんわな。
耳まで真っ赤にするスフィアであったが、既に酒を飲んだ時のグダグダぶりを知っているので家の中でめんどくさくなって裸で寝ていたりしても今更のことである。
知られたからといって特段誰も何も思わないだろ。
「どうするか、そう言えば前に来た時も全員素っ裸になってたんだった」
「え……いくらなんでもえっち過ぎない?」
「スフィアが想像するような展開にはなってないよ。全員男だったからね」
「それならそうと先に言ってよ! 私をからかおうとしたのね」
「別にからかおうとはしていないけど、服のまま入るとだな、汽水だから服がよろしくない状態になっちゃうんだよね。すっかり忘れていたよ」
どうしたものかと困る俺とスフィアに対し、思わぬところからしっかり者の助け船が入る。
「どうされたんですか? 水着をお忘れになられたとか?」
しっかり者とはメイドのメリダだった。
まさか、持ってきているとか?
「そうなんだ。このまま筏に乗ったら濡れると思ってさ」
「念のために予備を持ってきております。スフィア様とマリーさんは私の予備でもよろしければ。エリックさんはランバードさんのを」
「予備を二着も持って来てくれていたのか、助かる」
「そ、その。迷っていて、それで三着持って来ていたんです」
急に頬を赤らめうつむくメリダである。
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