第113話 被害甚大のため、、
「戻ろうか」
「そうだな。風呂はもう使えそうか?」
「使える使える。俺も入ろうかな」
「早風呂最高だよな」
探索を始めたばかりではあるが、来た道を戻ろうと提案する。
するとゴンザも乗って来て、「うひひ」と笑いながら頷き合った。
日の出ているうちに入る風呂っていつもと違うからだけなのかもしれないけど、疲れがより取れるんだよな。
宿業務は休む予定だからお盆に清酒を乗せて……とかしようかなあ。
夢が広がりまくっている俺の肩をテレーズが掴む。
「ま、待って。私なら平気だから!」
「いやいや。ライザと二人きりなら好きにしてくれと言うけど、俺たちがいるから仕方ないだろ」
「そんなことないもん。エリックくんが上着を貸してくれたし」
「そんな上着、この先を進むにあってないようなものだぞ。いや、俺の上着などいつ燃えて灰になってもいいんだけどさ」
上半身だけじゃなくスカートもエロスライムに溶かされてしまったテレーズはちょっと目のやり場に困る格好になってしまった。
上はまあ革鎧でビキニぽくなっているだけなのだけど、下がさあ。
覚えているだろうか? 剣道の防具から考案した革の腰巻のことを。
あの時彼女は「スカスカだから下にスカートを着なきゃ」みたいなことを言っていた。
革の腰巻はその名の通り「革」なのでエロスライムに溶かされることはない。しかし、下に着ているスカートは別だ。
そしてスカートの下に……敢えて触れないでおこう。
そんなわけで俺の上着を貸すことでギリギリ見えない丈で彼女の貞操は保たれた。
「で、でも。ここまで来て……じゃない?」
「テレーズがいいならいいけど、と言いたいところだが、俺たちも目のやり場に困るし、それにほらこの先」
指し示すとさすがのテレーズも「う」と身を竦める。
なんかさ、前方20メートルほど先に鍾乳洞があって、つららみたいなのが伸びている下はテーブル状になってるのだけど……そこにステルススライムがこんもりと積み重なっていたのだよ。いやいやスライムなんて他の種類もいるだろ? と疑問に思うだろ。
確かにスライムは洞窟に入ると見かけることがチラホラある。
しかしだな、ステルススライムを見間違えることってまずないんだ。あいつは透明で光に当たると蛍光色を発する。
表現しがたいのだが、ムーンストーンという石を光に当てた時の反応に近い……と言えなくはないか。
透明な身体にムーンストーンで言うところのシラーと呼ばれる別の指し色が入るのだ。それが蛍光ブルーをしている。
そこにいるのが分かっているし、姿も見えているのなら張り付かれて服を溶かされる心配はないだろうって? いやいや、無理だよ。
多分スフィアほどの身体能力があっても回避することは難しい。倒そうにも魔法でさえ回避してしまう。
唯一討伐する方法は服を溶かされている間にコアを潰すしかない。
いっそもう、本人が良いと言っているのだからあのステルススライムの群れに近寄ってもらって彼女が服を溶かされている間に討伐してしまうか?
「すっぽんぽんになる覚悟はあるか?」
「そ、それは……恥ずかしいかも」
「じゃあ、戻ろうぜ」
「革は溶けないから」
「俺の上着があるからいいものの、それが無くなったらもう服がないぞ」
「だよね。ごめんね、せっかくここまで来たのに」
やっとテレーズが納得してくれたので、いよいよ帰るかとなったのだがここでライザがとんと自分の胸を叩く。
「任せろ。せめてあのステルススライムを殲滅してからにしようじゃないか」
「いや、俺とテレーズの話を聞いてた?」
「もちろんだとも。私も一応女だ。ステルススライムの気を引くことはできる」
「知ってるけど……テレーズ以上にライザがすっぽんぽんになるのは……」
「何を破廉恥な。見ろ、私の装備を」
ほ、ほう。言われてみれば確かに。
ライザの場合、上半身はガッチリ金属鎧に覆われていてお腹さえ見えない。
下も膝上から太ももにかけてだけ布の部分はあるが、他は全て金属だな。
「インナーウェアは溶けるけど、いいのか?」
「帰るだけなら問題ない」
んじゃ一丁ライザに任せるか。彼女なら素手でステルススライムの核を握りつぶすことなど容易いこと。
ズンズン進むライザに対し一斉にステルススライムがまとわりついた。
シュウシュウと彼女から煙があがっているが、想定通り金属鎧が溶かされることはない。
掴んで核を潰し、を繰り返してステルススライムは見事殲滅されたのだった。
「何をしているんだ?」
「いや、せっかくだからステルススライム素材を集めて持って帰ろうかなって、ひょっとしたらおいしいかもしれないし?」
「食べるのか……」
「食べられるかは分からないけどね」
スライムの素材といえばゼリー状の身体である。
ライザの握り潰す手の下に袋を構えて集めたのだ。ステルススライムは男には寄ってこないし、攻撃をしようにも躱されるからどうしようもないんだよね。
お互いに不干渉を貫くしかない。男のみのパーティならステルススライムに気が付くこともなく進んでいたことだろう。
「そんじゃ、撤収するか」
「そ、そうだな」
「どうした? スライムが身体を溶かすことはないはずだけど……」
「いや、想定通りだ。しかし、鎧が直接あたると擦れてだな」
「ああ、確かに。んじゃ俺のシャツでも着るか? 肌着とこれ、どっちがいい?」
「悪いな、エリック。私はどちらでも構わない。カブトンの後ろをかりるぞ」
「うん」
まあ、そらそうだろうな。
最初はひんやりして気持ちいかもしれないけど、鎧と鎧の継ぎ目から身体を守るためにインナーウェアを着こむのだもの。
下は渡せるものがないから我慢してもらうしかないな。
そんなこんなで、俺たちの冒険はここで終わり風呂コースが確定したのだった。
「私も擦れる……」
「なら、革鎧を脱いで俺の上着だけにすればどうだ?」
「そうするー。後ろかりるね」
「俺の後ろじゃなくてだな、ジャイアントビートルの、だろ」
「冗談だってばー」
舌を出したテレーズもライザに続く。
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