第111話 ダンジョンロマン
ダンジョン。それは冒険者にとって切っても切り離せないものである。
全て探索されつくしているダンジョンもいくつかあるが、そんなダンジョンであっても今もまだ探索が続けられていた。
ダンジョンに棲息するモンスターには素材として役に立つものが獲れるものが多いのが一番の理由だろう。
モンスターの素材は日常生活の様々なところで使われている。俺の場合は少し意味がいが異なるけど、亀の背中に生える稲だってモンスター素材と言えばモンスター素材だものな。
廃村にあるダンジョンは冒険者が日常的に来ているのかと思ったらそうでもないということが分かった。
ダンジョン目的で来る冒険者も、もちろんいる。だけど、廃村の場合はメインになるのはフィールドなんだって。
モンスターか採集依頼にちょうど廃村が良いキャンプ地になっているのだと。そういや俺も冒険者時代にはダンジョンに入ったことがなかったかもしれない。
廃坑とダンジョンの切れ目がどこか、は難しいけど廃坑をチラ見だけはしたようなしなかったような……と言ったところだ。廃坑の入口部分だけだから、ダンジョンではないよな、うん。
「じゃじゃーん」
「何それ?」
「マップだよー。この前来た時に作ったのさ」
「お、見せて」
探索をしようと決めたら、テレーズが胸元から丸めた羊皮紙を取り出した。
そこには彼女の言葉通りダンジョンのマップが記されている。完成はしておらず、所々、通路が途切れていた。
「結構探索しているんだな」
「まだまだ広そうだよ。分かれ道も多くて、でもせっかく進むならまだマップを埋めていないところがいいな」
「俺も同意見だ。みんなはどう?」
「任せるぜ」
とゴンザの言葉に続きザルマンも頷く。ライザも否はなかったのでテレーズの先導の元、地図を埋めつつ痕跡を探すことに決める。
「そうそう、前々から疑問だったことがあるんだよな」
「ん? 俺に家族がいたことか?」
「それも激しく疑問だけど、残念ながら別のことだ」
「そうか、別のことならゴンザにでも聞けばいいんじゃねえか」
いや、敢えて冒険者歴が長く物知りそうなザルマンに声をかけたのだが、どうもポンコツなような気がするぞ……。髭とコンビを組んでいるだけに持っている情報量は変わらないのかもしれない。それならお喋りのゴンザに尋ねた方が良いかもな。ザルマンは寡黙な方だし。
んじゃゴンザにと思ったら、もう一人のお喋りがストンとカブトムシのカブトンから降り右手を上げる。
「はいはいー、何かなー? 私の下着の色?」
「至極どうでもいいわ!」
この程度の突っ込みで怯むテレーズではない。今度はちょうど隣にいたライザのおっきな胸元をチラリとする。
「そうなの? ライザは何色?」
「テレーズは黙っとけ」
「痛い痛い」
「全く……それで、どんな疑問なんだ? エリック」
うわあ。ライザのアイアンクローは痛そう。何しろ大人四人でやっとの網の引き上げを一人で軽々とこなしてしまうからな。
本気でやればテレーズの頭蓋骨が破壊されることは必然である。流石に加減をしているだろうけど。
「ここに限らずダンジョンてさ。既知のエリアなんてほんの僅かだろ。単に情報が出回ってないことも多いんじゃないかって」
「そうだな。エリックは地図作成依頼を受けたことはないか?」
「いや、生憎。そういう依頼もあるんだな」
「数は少ないが、あるにはある。あったとしても冒険者ギルドからの直接依頼が殆どで掲示板に貼り出されることは……あったか……」
「一応あるぜ。ちなみに俺の下着は赤のふんどしだ」
曖昧な記憶を語るライザを補足するゴンザ。
補足してくれるのはありがたいけど、髭の下着の色は聞いてない。
「それ、嫌がられるからやめとけよ」
「問題ない。特に思うところはないから気にしなくていい」
「私もー」
ゴンザに苦言を呈すると、女子二人がすかさずフォローしてくれた。
んー、彼らに聞いてみたけど地図については俺の予想通りだったな。
ちゃんと冒険者ギルドで冒険者から吸い上げた情報を共有したら無駄も省けるし、危険も減らすことができると思う。いや、効率が良くなるかもしれないけど、却って危険度が上がるかもしれない。
既知が増え、モンスターやら採取の情報が共有されてくると既知のものについては報酬が安くなり、依頼数も減る。素材の需要が変わらずとも、依頼での必要量が増えて報酬額が変わらないとかそんなところだ。
するとだな、既知の依頼を受けることができる冒険者が少なくなり、結果、未踏の危険なものに行かざるを得なくなる。「それこそ冒険者の本分だ」と喜ぶ者もいるが、そうじゃない者も多いんだ。
ゴンザらは後者だろう。俺もそうだった。
生活の手段として冒険者を選んでいるのだから、なるべく安全を確保したいものだろ。実入りが悪くなるかもしれない情報提供は依頼でもなきゃやらないか。
「それでエリックはどうなんだ?」
「どうって……マップを埋めるんだろ」
「……いや、その、だな」
「何か忘れてたっけ……?」
何故か口ごもるライザに首を傾げる。
「じゃあ行こうかー。あ、エリックくんは青だよ、ライザ」
「こら、突然引っ張るんじゃない。伸びるだろ」
「まあいいじゃないー。減るもんじゃ無し」
「だから伸びるって言ってるだろうに」
全くもう、油断も隙もない。
コロコロと笑うテレーズはゴンザの前に出て今度こそ道案内を始め出した。
「ぎゃははは」
「こら、髭。笑ってないで行くぞ」
「悪い、悪い。後ろからでよかったな」
「見ても誰の得にもならんだろうに」
ゴンザの背中をパシンと叩き、苦笑いする。
そんな俺の横でライザがボソッと「悪かった」と耳打ちしてきた。
「気にするな」と返し、「はいこれで終わり」とばかりに両手を打つ。本当に愉快な仲間たちだよ。
そんなこんなで締まらない俺たちの探索が始まったのだった。
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