第85話 村の昔話

 鉱山村となる前、この土地はモンスターの巣があった。

 巣は山肌に入口があって、中は大量の蟻型モンスターがひしめいていたんだって。おぞましい……。

 当時、部隊を率いていたとある騎士は後に戦場の魔術師と称えられるほどの名将となる人物だった。

 普通なら余りのモンスターの数に駆除仕切るのは難しく、できたとしても多大な労力が必要なため諦めたことだろう。

 しかし、彼は逆にこれは好機だと捉えた。

 アリが巣を作り我が物顔で蔓延ることができるのなら、周囲には大した大型モンスターはいない、と。

 そこで彼は一計と投じる。

 まずは巣穴の入口を徹底的に探すことを命じた。見えている大きな穴は一つだったが、巣穴に出口が一つだけなど考え辛いと判断したからだ。

 捜索により、複数の入口が発見されその全てに蓋をする。別部隊に土木工事を命じていて、工事が完了するまで残りの部隊に塞いだ巣穴の監視をさせた。

 そして、アリが再び開けた入口のうち一か所だけはワザと塞がずそのままにする。

 こうすることで一か所だけ苦もせず通ることができることから、その穴だけをアリが通るようになった。

 いよいよ土木工事が完了するとアリの巣穴に水を流し込み一網打尽に!

 こうして戦場の魔術師による見事な作戦で怪我人が出たものの一人たりとも死者を出すことなくアリの討伐が完了した。

 巣は後に鉱山となり、更に掘り進められる。

 村は鉱山村として発展し数少ない長期間存続した開拓村の一つとなる。

 ここから先は俺も知ることで、鉱山村として発展したことが仇となり、かなり奥まで鉱石を掘りに行かねばならなくなり効率が悪くなってきた時にダンジョンへ繋がってしまうというダブルパンチで廃坑となってしまった。

 鉱山という核を失った村は急速に寂れついには誰一人いなくなり打ち捨てられた廃村となり今に至る。

 

「結構面白い話だった。ありがとう」

「この村以外の開拓村についても記載されているから、読んでみるといい」

「夜のお供にさせてもらうよ」

「きゃー、えっちー」

 

 ちゃちゃを入れるテレーズにライザだけでなく俺も特に反応を返さなかった。

 ふふ、どうだ? 俺も成長したものだろ。

 すげなくスルーされてしまったテレーズであったが、特に拗ねた様子もなくもぐもぐと食事に手を伸ばしていた。

 彼女は食べてはいるものの、目が赤く水を飲んだ後に「ふああ」と欠伸も混じる。


「客室が空くまではもうちょっと待っててもらわなきゃ、なんだが、風呂に入るか俺の部屋で寝てもらうかどうする?」

「さっぱりしたーい」

「そうだな。風呂を用意してくれるのなら風呂に行ってからエリックの部屋で休ませてもらえるか?」

「ベッドは一つだから一緒に寝る、でもいいかな?」

「問題ない」


 風呂は一日中入ることができるようになっているので問題ない。

 魔道具万歳だぜ。

 彼女らと同じ状況としたら俺なら風呂に入っている最中に寝てしまうかもしれないので、まず寝るを選択していたと思う。

 一つのベッドじゃ狭いけど、外で寝るよりは余程快適だろうから我慢してくれ。

 

「夜は一緒に入ろうね」

「分かったからとっとと風呂に入って寝てくれ」

「ふぁあい。三人一緒だとベッドに入らないねえ」

「俺はこれから活動タイムだから、って眠くなると饒舌になるのか?」

「そんなことないよー。元から元から」

「確かに……」


 「ほら、いつまでもエリックに絡んでいると彼の仕事ができないだろ」とライザに釘を刺されたテレーズは彼女に首根っこを掴まれズルズルと引っ張られていった。

 ゴリラパワーには逆らいようがなかろう。

 さて、後片付けしてから動くとするか。今日は何をやろうかな。ストックヤードを見てから考えるとしよう。

 

 ◇◇◇

 

 ジョエルに伝え、ライザたちには書置きを残して震えるマリーを見て、やっぱりやめておこうかと迷った。

 ストックも十分でマリーの仕事も今日必須の仕事はなかったんだよね。

 二人とも今日必須が無いってのもなかなかないことなので、前々から行こうと思っていたキルハイムの街へ繰り出そうと彼女を誘ったんだ。

 即答で乗って来てくれたはいいのだけど、行くとなればカブトムシになっちゃうんだよねえ。

 一応誘う時に言ったは言ったのだが、いざカブトムシを前にすると彼女の気持ちが揺らぐってものだよね。

 本心では行きたい、だが、カブトムシが受け付けない。


「マリー。やっぱり俺一人で行くよ」

「い、いえ。わたしがエリックさんとご一緒したいんです……」

「うーん。前だと余計怖くなっちゃうか」

「う、後ろの方が……」


 だよなあ。怖がって万が一落ちちゃったらって心配したんだよ。

 前なら後ろから俺が支えておけば大丈夫だからさ。

 よっし。ならば、見栄えも快適さも損なうけど仕方ない。

 ロープを持ってきて彼女の前に立ちくるりと背を向ける。

 

「ほい、ロープを腰に回してこっちに」

「は、はい」

 

 受け取ったロープを自分の腰に回しぐぐいと引っ張った。

 マリーがペタンと俺の体に密着するが構わずさらに強く引き、ギュッと縛る。

 

「あ、あの……」

「見た目が恥ずかしいかもしれないけど、そのまま俺にしがみついて」

「は、はい」

「目を瞑って、体が浮くけど驚かないでね」


 彼女の太ももに手を当て体を伸ばすと、軽々と彼女の体が浮いた。

 軽すぎないか? 猫族だからかな。

 彼女といえば特段動くことなく、俺にされるがままになっている。

 

「マリー」

「は、はいい」


 呼びかけると耳元で彼女が即座に返答してくれた。声の様子から動揺しているような気がする。

 

「落とさないから安心してくれ」

「全く心配しておりません」

「あ、そうか。別のことを気にしているんだな」

「ぴ、ぴたっとしたら……エリックさんの」

「重いとか思ってないよ、むしろ逆だ。もっと食べなきゃな」

「そ、そこではなく……」


 何やらまだブツブツ言っているマリーだったが、彼女を背負ったままカブトムシに乗り込む。

 

※なんと、、本作の書籍化が決定いたしました! ぱちぱちー。ご支援くださいましたみなさまあってのことです。ありがとうございました!

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