第76話 こいつはすごいびば

 翌朝、朝日と共に目覚め厩舎の外に出る。

 ん、宿の向こうに建物の一部が見えるぞ!

 ビーバーたちが夜通しで頑張ってくれたのかな?

 昨日はすみよんが突然俺の頭の上に現れただけで、ビーバーたちの姿を見ていない。すみよんもあれから姿を見せなかったし。

 実は夜に活動する生態だった? ビーバーって。

 俺が最初に川でビーバーと出会った時は昼間だった。整地するための作業をしてもらうのも昼間だったのだよな。

 あの時、テキパキと作業をしていたビーバーたちだったけど、実は眠たかったとか? それなら悪いことをしたなあ。

 うーん。といっても、昼間にリンゴやニンジンを咥えて運んでいたりするし、実際のところどっちなのか分からない。

 なんて考えながら、民宿を横切ると思わず声が出る。

 

「うお。マジかよ」


 そこには立派なログハウス調の家が建っていたのだ!

 夜の間にここまで作業を終えたというのか……凄まじいなビーバーたちは。

 スフィアの家が僅か一日で建ったことは記憶に新しい。なので、ビーバーたちにお願いしたらすぐに家が準備できると思っていた。

 しかし、しかしだぞ。新築は俺の想像の上をいっていたんだよ!

 ジョエルの仮宿として使ってもらうつもりの新築はスフィアの家より一回り以上大きい。しかも二階建てである。

 部屋数を増やすようにビーバーたちにお願いしたものの、スフィアの家と同じくらいのサイズを想定していた。というのは、酒蔵スペースの代わりに部屋にすれば部屋数が収まると思っていたんだ。

 民宿の半分近くのサイズがあるこの家の中が全て部屋割りされていたとしたら、一体何部屋になるんだろ。

 これだけの規模の家を僅か一晩で完成させるとは、恐るべしビーバーたちとすみよん。

 俺の気配に気が付いたのか、たまたまなのか分からないけど、二階の窓からワオキツネザルが顔を出す。

 

「エリックさーーん。できましたよー」

「夜通し作業をしてくれたのかな?」

「いえー。朝まではかかってませんよー」

「マジかよ。完成ってことは中も?」

「もちろんですー。見ますかー?」


 窓からジャンプして落下してきたすみよんが俺の首に長い縞々尻尾を絡めて俺の肩に乗る。

 それにしても外観からして凄い。

 丸太作りの家はテラスがあって、木の椅子とテーブルが置かれているんだよ!

 椅子は丸太を切った切り株風で、テーブルは一枚板でてきている。テーブルに触れてみると、ささくれなどもなくするりと指触りが良い。

 ニスとか塗っていたりするのかな? これなら木くずで怪我をすることもなさそうだ。

 テラスには屋根があって、その奥に入口扉がある。扉前は一段高くなっていて、登りやすいように一段の階段もちゃんとあった。


「広い! 吹き抜けになってるのか」

「二階に三つ部屋がありますよー」


 一階は間仕切りがなく、奥にキッチン、右手壁沿いには暖炉がある。

 暖炉周りだけ石造りになっていて、ちゃんと使う時にことも考えられていた。

 暖炉前にロッキングチェアが置かれているのも憎い演出だ。俺もここでうつらううつらしたいよ。

 動物の毛皮とかを暖炉前に敷いたらいい感じになりそうだな。

 一階の入り口窓上は吹き抜けになっていて解放感も抜群だ。二階にあがる階段は光が入るようにとのことなのか、横板のみの階段になっていた。

 床はフローリング調で、暖かな木のぬくもりを感じさせる雰囲気を醸し出している。

 壁もちゃんと板が張られていて、外観は丸太のログハウス調だったのだけど雨風が入らぬように、との配慮かな。

 丸太はともかく、板とか石ってどうやって作っているんだろ。

 やはり、ビーバーの鋭い歯でかじかじしているのだろうか? 

 

「こいつはすごい。おしゃれ過ぎるだろ!」

「部屋は全部同じ作りでーす」


 部屋もまた素敵だった。

 出窓があって、小さな机と椅子にクローゼット、そしてセミダブルサイズのベッドが設置されたシンプルなものだ。

 ここに布団と服を運び込んだらすぐにでも住むことができるぞ。

 トイレ用の空間まで準備されていて恐れ入った。

 もちろん、ビーバーたちにトイレで用を足す習慣なんてないよな? あったらあったで見て見たい気がする。

 

「どうですかー」

「もう何から何まで想像の上過ぎて、言葉も出ないよ。ありがとう」

「すみよんも頑張りましたー」

「ビーバーたちに沢山お礼をしなきゃだな。リンゴとニンジン、それに葉物も追加しよう」

「ワタシも欲しいでえす」

「もちろんさ。すみよんはどんなことを手伝ってくれたの?」


 ふと疑問に思って聞いてみたが、聞かなきゃよかった……。


「いろいろですよー」

「ほほお。たとえばどんなことを?」

「丸太を運んだり、ビーバーたちでもできることを手伝ったりー」

「すみよんにしかできないこともあるの?」

「ありますよー。ビーバーたちはモノが作れても、どのようなモノを作ればいいのか伝えないとなのですよー」

「おお。すみよんがデザインした家だったんだな」

「すみよんはすこーしだけです。多くはそこにありました」


 そこってどこだよ。

 肩に乗ったまま俺の頭を長い縞々尻尾でぺしぺしやるすみよん。

 ぞっとした俺はこれ以上彼に聞くことをやめた。


「あ、まあ、いい家ができたから良しだ」

「そうですねー。好きそうなものを選びましたからー」

「も、もうその話はいいって。選ぶって」

「選ぶは選ぶですよー。ワタシの腕の見せ所でえす」


 怖い、マジ怖いから。

 つぶらなすみよんの黒い瞳が光ったような気がした。

 

「そ、そろそろみんな起きて来ると思うから、家の完成を伝えに行くよ」

「ワタシも行きまーす。リンゴくださーい」


 すみよんを肩に乗せたまま民宿に移動する。

 家の完成を伝えると、マリーまでもが開いた口が塞がらない様子だった。

 朝食を終えたらすぐに寝具などの運び込み作業をすることになったのだけど、生憎俺は不参加だ。

 というのは、ちょうど暇そうにしている宿泊者を捕まえてさ。

 彼らと一丁お出かけする予定にしたんだよ。俺一人だとやれることにも限界がある。

 本当は引っ越しのお手伝いをしたいところなのだけど、機会が限られているもので失礼したというわけなんだ。

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