第55話 アコヤガイ?

「この貝って。海の中じゃなくてもとれるんだ?」

「さあ。私たちは貝に詳しくないから。でも、ここで貝がとれるのは知っているよ。これで三回目なのー」

「へえ。結構な稼ぎになるものなのか?」

「うんー。貝をとるだけじゃないから。いっぱい取らないと目的のものは見つからないの」


 昆布の時と似たようなものなのかも。

 いや、この湖は汽水だから育たなくもないのか?

 いずれにしろこの世界は地球とは別世界だから、海で育つものが川で育っていても何ら不思議ではない。

 問題は味が似たようなものか、安全に食べることができるのかだよな。

 

 貝をより分けていたら、小型のハンマーを持ったライザがどすんと貝を叩き割っているではないか。

 中身をナイフで突き、次の貝へハンマーを振り下ろそうとしたところで慌てて声をかける。

 

「待て。それ、どうするつもりだ?」

「外れ、は捨てる」

「え。えええ。いやいや、せっかく新鮮な貝じゃないか。海鮮は腐りやすいから中々食べられないだろ」

「食べる? これを?」

「そうだよ。街にもなかったか? 貝料理を出す店」

「それは食用だろ。こいつは違う」


 ほら、とライザがバラバラになった貝の裏側をこちらに向ける。

 貝の裏側は真珠質になっており、キラキラと輝いていた。

 これ、牡蠣の一種ではあるが、通常牡蠣とは呼ばない種だったか。

 特徴的な真珠質はアコヤガイであろう。しかし、地球のものと同じとは限らないことに注意が……何度目だよ。


「二人の目的は真珠だったんだな」

「うん。この辺りでは北の湖でしかとれないんだよー。貝の中にたまにしか入ってないからこうして網で引っかけて大量に取らなきゃ、なの」

「ライザのパワーがないと採取にも一苦労になってしまう。余り人気がない依頼と見た。報酬は良さそうだけど」

「報酬は良い感じだよー。北の湖は遠いし、ライザがいなきゃ絶対にやりたくない依頼かな」


 コロコロと笑うテレーズに対し、ぶすっとハンマーを振り上げるライザ。

 だから、叩き割るのは「待て」と言っているだろうが。

 

 ◇◇◇

 

 長々とした説得の結果、採取したアコヤガイは全てカブトムシに収納して持って帰ることになった。

 北の湖で探索もやりたかったのだけど、アコヤガイを集めていたら日が傾いて来はじめていたのであえなく帰宅することに。

 最初は特にテレーズがカブトムシに収納して持って帰ることを嫌がっていたんだよね。

 同じ空間に貝と荷物を入れたくないってさ。しかし、忘れていたんだろうか?

 カブトムシの翅下は左右二か所あるんだぞ。右に荷物を。左に貝を満載すれば問題なかろう。

 と伝えたら、すぐに了承してくれた。ついでに小型イノシシことボアホーンも解体して持って帰ることにしたのだ。

 今夜は豚肉料理だな。ふふ。

 

 そんなこんなで民宿に戻るなり、貝と肉を運び……いざキッチンへ。

 貝は300くらいはある。この中に真珠が入っている貝があればいいのだが。

 ライザたちにも手伝ってもらって、貝殻を破壊するのではなくパカンと開くようにお願いした。

 貝を開く場合は閉じた貝の隙間からまず貝柱を切ると開く。

 やり方を伝えたら、さすがナイフの扱いには慣れた二人だ。俺より速く貝を開いて行った。

 マリーにはボアホーンの肉の下処理をお願いしている。

 猫の獣人である彼女は人間に比べて筋力が低いのだそうだけど、下処理にも慣れており安心して任せることができるんだ。

 最初はうまくいかなかったけどね。俺だって冒険者時代の解体と下処理の経験があってこそ、できるうようになった。

 正直、俺よりマリーの方が上達するのが早かったんだよね。俺……できない子なのかもしれない。

 今だってライザとテレーズの方が貝を開くのが早いしさ。いいんだ。俺には俺にしかできないことがある。

 そう。貝の身をより分けるとかね。

 

 地球産のものと異なるから貝の身も試してみるつもりだけど、アコヤガイで食べるとすれば貝柱部分である。

 うまみ成分は余りない記憶で、それでも揚げたりすればおいしく食べることができるはず。

 

「エリックさん、お肉終わりましたー」

「ありがとう。俺は貝の身をやるから、マリーは貝に引っ付いた海藻を集めてもらえるかな?」

「スプーンを使っていいですか?」

「もちろん。やり方は任せるよ。かるくこするくらいで頼む」

「はい!」


 マリーが猫耳と尻尾をピンと立て元気よく返事をする。

 アコヤガイではどうなのか分からないけど、牡蠣殻を海中に埋めて……という話を聞いたことがあってさ。

 もしかしたら、この緑色の藻はアレかもしれないと思って。

 

 貝柱を黙々とより分け、飽きて来るので途中で貝の身を焼いてみた。

 味噌をつけて……何やら目線が痛い。

 

「エリックくーん」

「エリック」

「エリックさん!」


 三人とも手を止め、俺の名を呼ぶ。

 彼女らの意図は即汲み取れた。

 

「いや、おいしいかも分からないからさ。こっちの貝柱はきっと大丈夫」

「貝を開く作業はちょうど終わった。貝柱の切り分けの残りは私とテレーズがやろう」


 その代わり、と言う言葉は聞かずとも分かる。

 

「ありがとう。じゃあ。貝柱で何か作るよ。貝の身も試食用にもうちょっと焼いてみる」


 深鍋に油を注ぎ、火はまだ入れない。

 貝柱を軽く水でゆすいでから、塩を振り揉む。

 そして、深鍋に火を付け衣をつけた指先を突っ込む。うん。これくらいでいいかな。

 天ぷらにすべく貝柱に衣をつけて深鍋に放り込んだ。

 と同時に貝の身をフライパンで軽く炒め、味噌を絡める。

 

「どんどん揚げていくから、もう少し待ってくれ」


 ちょうど彼女らの作業が終わる頃に完成しそうだ。何とも言えない香ばしい匂いがたまらんな。

 先に摘まみ食いしたい衝動を抑えつつ、貝柱を揚げて行く俺であった。


※本年もお世話になりましたーー。良いお年をーー。

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