第37話 ランタン

「よおし。できた!」

「わたしもできました!」


 パチリとマリーと手を合わせ、「おー」と声を出す。

 完成したのは色の違う革を織って作った籠である。いくら柔らかい革でも葦を編むようには行かないかなと思ったけど、案外何とかなるもんだな。

 作るのにそれほど力が必要無く、底から上にあがるにつれて広がっていく四角い籠となった。

 色違いの革を使っているので自然と市松模様になるという寸法だ。


「地味なものであるが、今までちゃんとしたものが無かったものな」

「小物類を作るの楽しいです!」

「小さなことからコツコツと。小物類を制する者が部屋の雰囲気を制するのだ」

「よ、よくわからないです」

「ま、まあ。あと二つ作ろう」

「は、はい」


 俺とマリーが作っていた籠は「ごみ箱」として使う予定である。

 上に行くほど間口が広くなる構造はゴミを入れやすくするためなんだ。小型のゴミ箱って色々な形状があるけど、宿のゴミ箱は毎日綺麗になるのでゴミの入れやすさ重視でいいかなって。

 立方体の箱に比べると、倒れやすいのが難点である。

 家庭で使うならゴミも溜まっていくから倒れると大惨事であるが、宿なら大したデメリットにはならないと判断した。

 見た目的にも立方体よりエレガントで良いだろ。

 和柄の小物類を揃えていくことで、和室の雰囲気を作っていく所存である。

 今でも怪しげな掛け軸とか壺を置いているが、実用的なものを追加することで更なる和の力を上げるのだ。

 革と関係ないけど、調度品で前々から欲しかったものが会ってさ。せっかくポラリスがいるので相談してみようかな。

 

「ランタンを紙で作ってみたいと思って。こういうデザインで作れそうかな?」

「中はロウソクですか? それとも光石でいきます?」

「光石を使う場合って装置が必要なんだっけ?」

「大した装置ではないですが、魔力の補充が必要です。何度も魔力を補充できるタイプの魔石なら紙も燃えないと思います」


 光石はLEDみたいなもので、魔力を込めたら光るんだ。

 他にはヒカリゴケを使うタイプもあるけど、ONOFFの切り替えができないのが難点である。

 魔石は魔力を溜めておくことができる石で、一度きりの使い切りタイプと何度も補充できるタイプがあるんだよ。

 充電式の乾電池と使い切りの乾電池のようなものだと認識してくれて構わない。

 ロウソク以外に油を燃やすこともできるけど……う、うーん。

 

「ロウソクだと火事になるかもしれないよね」

「そうですね……人の目が届くところが望ましいと思います」

「光石でこういった形状のものを作れそうかな?」

「骨組みは竹ですか? でしたら難しくないですよ。エリックさんが発見された竹は素晴らしいものです。何故今まで殆ど利用されていなかったのか不思議です」


 竹は弾性がありそれなりに頑丈だから、素人でも加工しやすい。

 拙い俺の絵を見ただけでポラリスはこういった感じにしたらどうでしょうか、と黒板に描き直してくれた。


「お。おおお。こっちは俺じゃ難しそうなんだけど、案だけでも見てくれるかな?」

「もちろんです。エリックさんの発想は面白いので是非見せて頂きたいです」

「こう、こういうの」

「なるほど。小さなものをサンプルとして作ってみましょう」

「これだけで分かるの?」

「はい。問題ありません」


 マジか。ポラリスすげえ。超尊敬する。

 染料もいくつかあるので、そいつも使おう。

 

「できたああああ! 形がよくないけど、後は慣れだな……」

「わたしもできました!」

「僕も完成しましたよ。色と柄を付けたものを後日お届けしますよ」


 どっぷりと日が暮れ、民宿にお客さんが来る頃に俺たちの作業は一旦終わりを迎えることになった。

 ポラリス作のものは一旦彼に持ち帰ってもらうことにして、俺とマリーが作ったものはさっそく使ってみるとしよう。

 と、その前に。

 

「いらっしゃいませ!」


 俺が動くより早くマリーがお客さんの元へパタパタと駆けていく。

 そんじゃあ、俺は俺でさっそく光を付けてみるとしようか。

 紙と竹で作ったランタン……時代劇とかでよく見かける提灯である。

 提灯に光を灯してみたら、暖かな光が漏れだし「お、おお」と思わず声が出た。

 

「お。新しいランタンを作ったのか」

「うん。そうなんだよ。しばらくぶりだな」


 やって来たお客さんは髭もじゃのゴンザとスキンヘッドのザルマンだったんだ。

 一時期しょっちゅう民宿に来てくれていたのだけど、他の場所で元気に冒険していたんだろ。

 傷一つ無さそうな様子を見て、思わず頬が緩む。

 一方で髭もじゃはガシガシと乱暴に頭をかきむしり豪快に笑う。


「こっち方面のクエストがあれば率先して受けていたんだが、最近人気でよ。先に取られちまってな。ガハハハハ」

「へえ。そうなのか。ダンジョン関連のクエストが多かった記憶だけど」

「まあな。ダンジョン関連は手軽な難易度のものも多い。不人気なクエストもあるにはあるんだけどな」

「それ。東だろ」


 冒険者ギルドは王国中に支部があり、所属する冒険者を管理している。

 クエストや依頼と呼ばれるものは各支部ごとに振り分けられ、冒険者たちは自由にクエストを受注することができる仕組みなんだ。

 クエストは護衛や街の警備などから採集依頼、モンスターの角を取ってこいといったものまで様々である。

 そんなクエストであるが、それぞれ難易度というものが定められており、冒険者のランクかパーティランクに応じて受注できるできないが決まっていた。

 冒険者ランクは個人のランクで、パーティランクはパーティとしての実力である。

 個人でクエストを受注する場合には相応に高いランクが求められたりするのだ。高難易度クエストだとほぼソロじゃ受注できないんじゃないのかな。

 クエスト難易度はややこしいことに冒険者ランクと同じアルファベット表記である。

 クエスト難易度は一番低いEから最高ランクのSまであり、最高ランクのSだと個人受注はほぼ不可能。

 ほぼと言ったのは個人ランクである冒険者ランクがSランク以上であればどんなクエストでもソロで受注できる仕組みがあるからだ。

 個人でSランクなんて今まで冒険者をやって来て会ったこともない。個人ランクもクエスト難易度と同じようにEからSまである。

 いやいや。最高ランクはSじゃなくて、あの酔っ払いはSSだったじゃないかって?

 確かにあの酔っ払いはSSランクだった。SSランクは例外中の例外なんだよね。

 SSには会ったが、Sランクには会ってない。なので会って無い記録は継続中である。

 Sランクの話に戻すと……Sランクは実力差が激しくてさ。Sランクの中でも抜けた存在だとSSになるんだって。正直雲の上過ぎて詳細は知らん。もう俺は冒険者じゃないし。

 ゴンザは確かBランクだったと思う。あの髭もじゃ、おっさんの癖に中々の高ランクなんだぜ。ザルマンとのコンビでパーティランクはどれくらいなんだろ。シルバーかひょっとしたらゴールドクラスなのかもしれない。

 それでも、東はダメだ。東はやばい。殆どのクエスト難易度がAランク以上だったと思う。

 魔境だよ。東の渓谷は。

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