第35話 チャーハン
水あめはパリパリしない。割りばしに水あめがくっついたお菓子は混ぜたら固くなった気がする。
ん。待てよ。リンゴ飴って水あめじゃなくて「飴」って書く。
てことは、原料は水あめじゃなくて砂糖? または、砂糖と水あめを混ぜたものなのかも。
じゃあ。何で俺が使った水あめは大学いもにしろリンゴ飴にしろ固まるんだ?
その答えはこの変態……じゃなかった錬金術師が持っていた。
「私がグラシアーノくんに託した水あめは、特別製なのだよ。だから、ぱりぱりするのだ」
「水あめに何か混ぜたんですか?」
「そうだとも。よくわかったね。ほ。ほほほほ。これぞ錬金術。錬金術なのだよ。天才の手にかかれば、ぱりぱりなど造作もないこと」
「パリパリになる水あめなんですけど、もう少しで在庫がきれそうなんです。追加で売ってもらえますか?」
「そうだね。そうだとも。もちろんさ。もっとぱりぱりさせたいかね?」
「はい。もっとパリパリさせたいです」
「ならば仕方ない。この村に天才の工房を作ることにしよう。すぐに工事にかかる。心配には及ばない。大工を呼ぶ」
「あ。いや。別に。水あめを売ってくれれば……」
聞いちゃいねえ。
水あめが手に入るのだったら、過程は何でもいいや。
この人に頼めば、ひょっとすると砂糖を生成することだってできるかもしれない。
彼と喋ることは疲れるけど、砂糖のためなら頑張れるかも……。
「すぐに手配しようじゃないか。うむ。リンゴと特製水あめの相性は抜群だね」
「もう夜ですけど……」
「そうだった。そうだった。ここは街から遠く離れた場所だった。馬車を走らせねばならないね」
「あ。はあい」
「そうだ。腹にたまるものを作ってもらえないか? 持ち帰りたい」
「手軽に食べられるもので?」
「そうだとも。そうだとも。さすがグラシアーノが特製水あめを託した人物だよ。ほ。ほほほ」
意味が分からない。しかし、突っ込む気にはなれなかった。
なんかこう会話がチグハグだし、同じ言語で喋っているのに伝わらない感が酷い。
すみよんでもここまでじゃないぞ。
残りの食材で手軽にとなると、焼きおにぎりでいいか。
これだけだと少し寂しいな。そうだ。
そろそろ丁度いい具合かな。キッチンに並べている甕の一つを手に取り蓋を開ける。
「お。いい感じじゃないかな。失礼して。お。うん。これなら大丈夫だ」
摘まんだのは先日グラシアーノが来た時に仕入れた野菜の一つ「大根」だった。
大根を切って、川で取れた昆布と塩を混ぜて一晩放置。
完成したのは大根の浅漬け風の一品である。
漬物代わりにこいつを添えるとしよう。本当はたくあんを作りたかったのだけど、米ぬかが無くてさ。
米ぬかが無いことよりも精米してくれたことの方が比べ物にならないくらいありがたいので、不満は一切無い。
あとはおからとか豆腐があるけど、焼きおにぎりセットには合わないかな。キュウリなら付けていいかも。
「お待たせしました。焼きおにぎりセットです」
「ほおおお。ほおお。見たことも無い料理だ。こいつは錬金術師心をくすぐるね」
「そんなものですか」
「そうだとも。そうだとも。未知への探求こそ錬金術師の原動力だよ」
俺にとってはあんたが未知だよ、と口から出そうになってグッと堪える。一応お客さんだしさ。
そんなわけでグレゴールが帰り、今度こそ一息つくことが出来たのだった。
どっと疲れたよ……。
「すごい方でしたね」
「同じ人間だよな。あの人」
「猫耳はありませんでした」
「世の中にはまだまだ俺の知らない世界があったってことだ。ご飯にしようか」
「わああ。楽しみです!」
「残っているものの中からだけど。米メインでいいかな?」
「はい!」
焼きおにぎり……は何となく食べる気にならずにご飯メインで別のものをと考えた結果、俺にとっては定番な料理となった。
この世界で作るのは初めてだけどね。
米と卵があれば形になるあの料理だ。
鍋に油をひいて、卵を流し込み、ささっとご飯を入れる。
続いて鹿肉の切れ端の余りとネギに味噌だまりと塩コショウをパラパラと。
あとは火力任せで焼き上げ完成だ。
野菜スープが鍋に残っていたので、スープを二人分用意したら丁度無くなった。
サラダも欲しいところだが、ダイコンの浅漬け風とキュウリで我慢してくれ。
「美味しそうです!」
「チャーハンという料理だよ。和風じゃないけど、米を美味しく食べることができる料理の一つだと俺は思ってる」
「もう待ちきれませんー。いただきます!」
「いただきますー」
熱っ。チャーハンはやはり出来立ての熱々に限る。料理の腕が悪くても、出来立てならそれなりに美味しく食べられるものなのだ。
味付けが心配だったけど、まあまあ行ける。もう少し研究すれば店で出すこともできそうだな。
和物を中心に考えているので、チャーハンを出すかどうかは検討の余地あり。
「はふ。おいしいいです! お米を使った料理って色々あるんですね! おにぎりも好きですが、こちらもボリュームがあってお肉とネギがたまりません」
「味噌だまりも、あと少しかあ。味噌だまりはちょこっとしか作れないからなー」
「お味噌の壺の液体が味噌だまりなんですよね? でしたら、それをすくえばいいのでは?」
「味噌だまりは味噌をカビなどから保護してくれる役目があるって聞いたことがあってさ。でも、スフィアに協力してもらって味噌だまりの代わりになるものを開発しているんだ。楽しみに待っててくれ」
「はい! 楽しみです!」
俺も大豆から作ろうと試行錯誤していたんだよね。だけど、発酵させて味を確かめるまでに一週間はかかるから、中々使えるものになるように調整するためには時間だけが過ぎちゃってさ。味噌のように一発で成功したら良かったのだけど、中々甘くない。
何かって? それは醤油だよ。
醤油、味噌、ミリン、日本酒、塩、昆布……までは目途が立ちそうだ。
他には高価だけどコショウは既にある。
和物の出汁と言えば、代表的なものでかつお節が残っているが、作れる気がしない。
もう一つは砂糖。こちらはあの変な錬金術師の活躍次第では手に入るかも。
普通に砂糖を購入していてはバカ高いから調味料として使うとお客さんに出すお値段がとんでもないことになってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます