第30話 ブドウ。甘いでーす

「余計なことをしたと思ったが、喜んでくれたようで何よりだよ」

「大助かりだったよ。これ。炊き立てご飯とおかずなんだけど、みんなで食べて」

「これだけあれば全員が満腹になる。君の料理は変わっていて小人族の間でもとても好評だ」

「いつも助かってるせめてものお礼さ」

「ははは。それはお互い様さ。君とマリーを小人の里に招待したいと皆言っている。君のサイズじゃ、入口を通過できないのが残念でならない」


 思った通り、精米をしてくれたのは小人族だった。

 自室でストラディに呼び掛けるとすぐ出てきてくれて、お土産を渡したんだ。

 そう言えば、彼らって暖炉の奥から出てきていたよな。最近彼らを呼ぶ時はいつも俺の自室なのだけど、暖炉の方が良かったりする?

 

「どうしたんだい?」

「あ。いや。大したことじゃないんだけど……」


 疑問に思っていることを口にすると、ストラディは三角帽子に手を当てて気障っぽく口笛を鳴らす。

 

「入口を変えたのさ。暖炉はいつも君の客がいるだろう? 君の部屋の天井裏なら君しかいないからね」

「そう言う事だったのか。わざわざ天井裏まで来てくれているのかと思ったよ」


 疑問も晴れたところで、ストラディにもう一度お礼を言ってから、階下に向かう。

 マリーの皿洗いもちょうど終わったところらしく、腹も膨れたし今日も頑張るとしますか!

 

 ◇◇◇

 

 ポラリスの細工店に立ち寄り、台車を引っ張って川へ向かう。

 ビーバーたちの作ってくれた道のおかげで苦も無く川へ到着することができた。

 彼らが切り倒した木は積み上げて絶賛乾燥中だ。木材はあればあるだけ困らない。

 いくつかはキノコ栽培に使おうと思っている。やることが沢山で毎日が楽しい。

 

「おーい」


 瓜とニンジン、キュウリ、ブドウを持ってやってきたのだけど、ビーバーたちが姿を現さない。

 ここ二日来てなかったので、離れた場所にいるのだろうか。

 そのうち顔を出すかもな。

 俺は俺で作業を進めよう。水を樽に入れて、台車に乗せる。これを二往復してから、今度は採集だ。

 川辺の食べられる植物を拾い集め、釣竿を垂らす。

 森の中にも採集に行きたいところだが、水を運ぶことで筋肉が悲鳴をあげているので休憩の意味を込めて釣竿に魚がかかるのを待つ。

 仕掛け網に切り替えた方が良さそうだよな。魚釣りは俺の休息タイムとなっているので、そのままでもいいかも。

 こうした「待っている」時間というのも、廃村暮らしの醍醐味だろ。

 マリーにも途中途中で休憩を取るようにしてもらっている。こうして、ぼーっと空を眺める時間は何者にも代えがたい宝物のような時間なんだ。

 スローライフ万歳って奴だな。

 宿経営をしているから、丸一日何もしないってわけにはいかないけどね。

 

「ブドウ。甘いでーす」

「こら。それはすみよんのために持ってきたブドウじゃないんだ」


 いつの間に、やって来たんだ。ぼーっとしていて気が付かなかったぞ。

 台車にちょこんと腰かけたワオキツネザル……じゃなかったワオ族ののスミヨンがビーバーたちの為に持ってきたブドウの房を掴んでむしゃむしゃやっていた。


「キュウリ。しゃりしゃりしてまあす」

「だから、それはすみよんのためにじゃないってんだろ」

「瓜は死守する」

「酷いでえす。そうだ。エリックさーん。ブドウ。取りに行かないんですかー?」

「そうだな。この後、山に採集に向かうつもりだった。ブドウは庭に植え替えたのもある。桃とかどうだ? うまいぞ」

「行きましょう。行きましょう」


 俺の背中に移動するすみよん。

 べたべたの手を俺の肩に乗せてきやがった……。


「すみよんはお留守番していてくれよ。モンスターが出ることもある」

「それならすみよんに任せてくださーい。肉はエリックさーんにあげます」

「すみよんは肉を食べないの?」

「食べませーん。フルーツと野菜でえす」


 このおバカさんにモンスターをどうにかできると思えないが、突っ込まずにスルーしておく。

 まあ、ワオキツネザルだし、危なくなったら木の上に登ってもらえれば凌ぐことができる。

 このまま採集に出かけるとしようか。

 ……背負子が装備できないぞ。仕方ないので、すみよんを背負子に乗せて移動することにした。

 

「鳥でえす」

「黙ってて……」


 鳥がいるのは分かってんだよ。音を立てたから逃げちゃったじゃないか。


「エリックさーん。こっちにイノシシがいまーす」

「え?」


 繁みを確認しても動きはない。

 一度くらい騙されてみるかと思い、弓を構えて弦を引き絞る。


「まだでえす。もう少し右でえす。そう。あと少しだけ上。バッチリでえす。さん、にー、いちー」


 シュン。

 言われた通りに弓を発射してみた。

 すると繁みがガサガサと動くと同時に矢が繁みの中に飛び込んで行く。

 繁みを確認してみたら、イノシシの眉間に矢が刺さっていた。

 

「すげえ。よく見えたな」

「感知でえす。ワタシはスフィアの師匠ですからあ」

「魔法を使っているようには見えなかったけど」

「何言っているんですかあ。最新のエレガントな魔法は無詠唱ですよー」


 無詠唱で魔法を発動させる?

 そんなことが可能なのか……? ワオ族なら可能なのかもな。人間には無理だよ。

 しかし、この分だと本当にすみよんが言った通り、モンスターが出たとしても大丈夫そうだ。

 一度イノシシを運んでから、再度採集に向かう。

 すみよんと約束した桃もゲットしたし、他にもキノコ類やら山菜、木の実も沢山持って帰ることができたのだった。

 

 帰ったら、民宿の隣に小屋が建っていたんだよ!

 イノシシを運んできた時には気が付かなかった。民宿の裏口から入って何も確認せずに戻ったから注目してなかったんだ。

 裏口からだとちょうど民宿が目隠しになって見えなかったので……。

 

「びばば」

「びびびばばば」


 ビーバーたちが丸太を転がして、スフィアが手伝っている。

 内装はまだかもしれないけど、もう屋根まで完成しようとしているじゃないか。

 全て丸太で作った丸太ハウス。これはこれでおしゃれな気がする。

 

「ビーバーたちにお願いしたの?」

「師匠が頼んでくれたの。お礼にフルーツを渡すって」

「そうか。フルーツを」

「フルーツを取ってきましたー。桃でえす。甘いでーす」

「……」


 イノシシを狩るのを手伝ってもらったし、桃は渡すことにしようか。


※まさか、30話までいけるとは。みなさまの応援あってのことです。まだ続くんじゃ、、引き続きよろしくお願いします。感想へのご返信遅れており、すいません。全部目を通しております!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る