第24話 テイマー……いたじゃないか
「お客様にテイマーは……身近なところにいたじゃないか!」
民宿「月見草」の軒下で母猫のグルーと子猫のチョコが揃って欠伸をしている姿を見てピンときた。
そうだよ。そうだったよ。
いたじゃないか。テイマー。
テイマーとは動物と心を通わせ仲良くなる能力を持った者のこと。
俺的には憧れの職業であるのだが、残念ながら後天的に能力を身に着けることができない。
テイマーとなれる資質を持った者は生まれながらに動物と何らかの共感ができる能力を持っている。
生まれながらの能力な上に、テイマーとなれる素質があるからといって誰もが冒険者として身を立てるわけじゃないのは言うまでもない。
在野でテイマーに似た能力を持っている人はもちろんいる。
が、せっかくの能力も鍛えなければマリーのように何となく猫たちがやりたいことが分かる程度になってしまうのだ。
マリーの場合はテイマーとしての素質じゃなく種族特性らしいので、鍛えても今以上に猫に対する共感力を上げることはできないとのこと。
「猫ちゃん可愛いけど、突然叫んでどうしたの?」
「猫が驚くだろ。声をあげるな」
右は疑問府を浮かべ俺を見上げ、左は両腕を組んでむすっと唇を尖らせた。
言うまでも無く、右がテレーズで左がライザである。
「いたんだよ。テイマーが」
「そうそう都合よく見つかるものでもないだろ」
呆れたように返すライザであるが、俺はしたり顔を崩さない。
俺の考えが正しければ、きっと彼ならテイマーとしての力がある。
そうと決まればすぐにでも宿に戻るぞ。
「おかえりなさいませ!」
「ただいま。ちょっと上手く行かなくてさ。戻ってきたんだよ」
「お元気そうでよかったです! わたし、みなさんが怪我をしないかと心配で」
「ここに回復術師がいる。怪我だったら心配ないさ」
「そうでした! お料理がおいしいのでつい、忘れていました!」
「はは。料理は嫌いじゃないけどね。ちょっと二階に……の前に食事を作るよ」
満面の笑みを浮かべて万歳するマリーは尻尾もピンとなって全身で喜びを表現していた。
後ろでも歓声があがっている……。
今日は俺が外出するので、宿では食事の提供を中止していた。予約の客も無かったので冒険に繰り出したのだ。
飛び込みのお客さんが一組だけいたけど、幸い食事が必要無いお客さんだったらしい。
確か珍しいものを入荷できたんだったよな。だけど、量が少なくて……この人数ならいけるか。
取り出したるは紫色で艶のあるお野菜である。
そう。こいつは茄子だ。
半分に切ってボールに水を張りしばしあく抜きタイム。
その間に他のものを準備しよう。ニンジンをピールして酢と和えてゴマを振りサラダにする。
ボーボー鳥の骨付きもも肉があったので、ポメルというレモンと柚の間のような果物を準備しておく。
ボーボー鳥のもも肉に薄く味噌を塗り、オーブンへ投入。
あくが抜けた茄子を白い部分を下にしてフライパンに蓋をしてじりじりと焼く。
こんなもんかな。
出来上がったらたっぷり味噌を塗り完成だ。
「ゴンザ。ザルマン。そこの保冷庫からビールを出してもらえるか?」
「いいねえ。話が分かる」
ウキウキで二人が保冷庫から瓶ビールを出してテーブルに運び始める。
こっちはこっちでマリーらに手伝ってもらい、食事を並べてもらった。
俺は最後の仕上げ。
フランスパンのような長いパンを切ってバケットに突っ込む。
「マリーとテレーズは水かブドウジュースな」
「え。私も飲みたいんだけど……」
「飲むなら部屋に行ってからにしてくれ」
「えー」
ぶーぶー言うテレーズをマリーが「まあまあ」と宥めてくれた。
マリーは一度だけお酒を飲んだのだけど、フラフラになってしまって、それ以来飲んでいない。
テレーズはここで脱がれたりすると困るので禁止。
料理が出そろい、みんなが座ったところで手を合わせる。
「いただきまーす」
「いただきます!」
マリーと俺の声が重なり、お待ちかねのお食事タイムとなった。
品数は少ないものの、肉体労働者ばかりなので量はたんまりとある。
腹いっぱいになるまで食べてくれ。万が一、足らない場合は追加で作るからな。
「あ。言い忘れていたけど、食事と宿代は要らないからな。今日、俺の冒険に付き合ってくれたお礼だよ」
「仲間に礼をもらう筋合いはないな……そうだ」
何かを思いついたらしいライザ。
続いて彼女はゴンザに目くばせする。すると彼も何か思いついたのか、パチンと太い指を鳴らした。
「この場はありがたく奢られておくぜ。今度またこのお礼を持ってくるから楽しみにしてくれよな」
「はは。楽しみに待ってるよ」
和やかな雰囲気だったのはここまで。
食事を口につけ始めると、みんな猛然とした勢いで口に食事を運ぶ。
「ニンジンのサラダおいしい。酸っぱいのかなと思ったけど、これはこれでいいね」
「酢って街じゃ料理に使わないからな。俺は好きなんだけどね」
ピールしたニンジンの酢漬けとでもいうのだろうか。シャリシャリしてゴマがいいアクセントになっている(自画自賛)。
「味噌ってなんにでも合うんだな。街でも味噌で味を付けたレストランがありゃいいんだが」
「あ。味噌汁を作るの忘れてた。明日の朝のお楽しみにしてくれ」
「肉にも、この茄子だったか? 茄子にも合うな。俺は肉が好きなんだが、この茄子と味噌。ビールによく合う」
「だろだろ。こいつはビールのために作ったと言っても過言ではないんだぞ」
ビールという単語が出て来たらテレーズが恨めしい目でじとーっと俺を見ていた。
しゃあないなあ。もう。
「ライザ。一杯だけだったらいいかな?」
「仕方ない。コップ半分だけだぞ」
「うんうん。半分だけ。半分だけ」
結局、俺もライザも彼女の目力に負けて許可を出してしまった。
尻尾があればフリフリと振っていそうなテレーズに微笑ましいものを……感じなかったな……。
「おいしいいいい。肉とビール。黄金コンビだよね」
「おっさんか……」
「おっさんは俺たちだな」
「んー」と拳を握りしめるテレーズに突っ込むも、ゴンザが素で返す。
さりげなく、ビールを更につごうとしたテレーズの手をむんずと掴むライザ。
あはははと大きな笑い声が響き、やりたいことがある俺は彼らを横目に二階へと上がる。
小分けにした食事を持って。
※連日は無理でしたあああ。隔日でいけるように、、なればいいな、、。
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