第23話 隊長。米を発見しました

「現場で即治療することには向いていないが、ヒールの持続時間が長い。それで宿経営を始めたわけなのだけど、何も冒険中はヒールが使えないというわけじゃないんだ」

「それでパンツを見ようとしていたってわけか?」

「違うってば! 全くこの髭もじゃめ。その考えから離れろ。俺たちが着ている服にヒールをかけたらどうだ? 疲労回復に良いだろ?」

「それならそうと最初から言えってんだよ。包帯でグルグル巻きにすりゃいいんじゃねえのか」

「それも悪くないな。動き辛くないか……」


 靴と服にヒールをかけて肌に触れていればヒールの効果が持続する。

 ヒールは単に傷を癒すだけじゃなく、体力回復にもいいからな。

 他にもただの水であっても飲むと体内で反応して疲労回復効果がある。この辺りは宿で実際にみんなが体験していることだ。


「それじゃあ。順番にヒールをかけるから並んでくれ」

「ねね。下着にもヒールをかけてくれた方がいいんじゃない? 直接肌に触れているし」

「それはそうだけど、ここで脱ぐわけにもいかないだろ。服の上からヒールをかけたらたぶん下着にもかかる」

「言わなきゃ。下着姿を見れたのにねえ。もう少し機転をきかさなきゃ、ラッキースケベはできないぞ」

「……そう言うのはいいから。またさっきみたいになるだろ!」

「あはは。ムキになっちゃって」


 あはは。じゃないんだってばよ。全く、テレーズめ。遊んでやがる。

 

 ◇◇◇

 

 炭鉱に入り、ヒールの効果もあってまるで疲れず、休憩を取ることなく突き進む。

 幸い、モンスターにエンカウントすることもなく炭鉱部分から自然にできたダンジョン部分へ入った。

 四人が行ったことのない方向を選んで進んで行ったら、天井が抜けて光が差し込む美しい場所が遠目に映る。


「へえ。こんな場所があったのか」

「先に探知するね」


 テレーズが前に出て両目を瞑る。

 弓戦士だと思っていた彼女だったが、本職はスカウトだった。

 スカウトはパーティの「目」となる。優れた感覚か探知系の魔法を使いこなし、パーティの誰よりも先に危険を感知し、備える役目だ。

 罠の発見、解除も担う。パーティに一人いると生存率が高まる人気のある職業の一つである。

 彼女の場合は魔法を使わず、優れた知覚で探るタイプとのこと。

 

「……奥にいる。だけど、敵意はないみたい。それと、水の匂いがする。泉に集まった小動物かも?」

「他に何か変わったものはないかな?」

「米だよね。そこ、いっぱい落ちてるよ」

「真っ暗闇なのによくわかるな。人間の目って暗くても見えるんだっけ……」

「あはは。私は見た目こそ人間と同じだけど、獣人の血筋も引いているんだよ」

 

 要約すると、テレーズは真っ暗闇でも昼間のように見えるってことか。

 他にも人間にはない嗅覚や聴力を持っているのかもしれない。

 米粒を見つけながら辿っていくのが良かったのだけど、米粒は小さすぎてテレーズでも一粒一粒を発見することは困難だ。

 床がフローリングのようにツルツルだったらまだしも、地面はゴツゴツとした岩肌だから米粒がどこかに挟まっていても気が付くわけがない。

 

 ランタンで照らしながら、テレーズが発見したという米粒を確認してみる。

 お、おおおお。積み上がるほどに米粒が落ちているじゃないか。ザルマンに米粒を届けてくれた冒険者もここでゲットしたのかな?

 早速落ちている米粒を回収できるだけ回収する。

 

「ここに大量に米粒が落ちているってことは近くに群生地があるのかも?」

「いや、それだとこの場所だけに積み上げるというのは不可解だ。何者かがここへ置いて行ったのではないか?」


 ライザの言うことも最もだ。

 この場所だけに米粒が積み上がっていたのんだものな。風に吹かれて自然に集まったのだったら、岩壁の隅に溜まっている方が自然だ。


「奥に行ってみよう」

「先頭は任せて」


 テレーズが先頭で他の三人がすぐ後ろを固める。俺は彼らの間で護られる形である。

 今回のメンバーさ。テレーズ以外は全員前衛なんだよね。

 ライザが大剣。ゴンザが両手斧。そして、スキンヘッドのザルマンは両手用のハンマーだ。

 メジャーな片手剣と盾の組み合わせの者もおらず、威力こそ正義の脳筋パーティ……。魔法使いは数少ないものな、仕方ない。

 ゴンザとザルマンのコンビは戦士二人組でよく今までうまく冒険をしてきたよな。そう言えば、ゴンザが手強い依頼の場合はメンバーを増やしているとか言ってた気がする。 


「お、おおおおおお」


 つい叫び声が出てしまった。

 だってさ。だってさ。

 泉の上にさ一面に稲が茂っていたんだもの。泉が田に引いた水みたいになって稲が育ったのかな?

 ちょうど天井がぽっかりと開いていて陽射しも十分だし。

 

「こんなところに群生地があったんだね」

「早速刈り取ろう」

「おう。手伝うぜ」


 ザルマンがじゃぽんと水に足を入れ、ナイフを稲の茎にあてがう――。

 すると、稲が動き、連鎖するように他の稲も一斉に動き始めたんだ!


「やばい! ザルマン!」

「何だこれ! 亀?」


 ゴンザとザルマンが叫んでいる間にも動き始めた稲が水辺から出て来る。

 そいつは稲を甲羅につけた亀の一団だったのだ!

 亀は甲羅の長さが一メートルから二メートルの範囲で、それぞれの亀が鋭い牙と爪を備えていた。


「お客様の中にテイマーの方はいらっしゃいませんかー?」

「いるわけねえだろ。一旦逃げるぞ! エリック!」


 首根っこを掴まれ、米粒が積み重なっていた場所より離れると亀たちは泉へ戻って行く。

 落ち着いたところでライザが口を開いた。

 

「倒せないことは無いと思うが、どうする? エリック」

「いや、一旦引き返そう。あの亀の甲羅の上でしか稲が育たないのかもしれないからさ」

「分かった。一応言っておくが、私はテイマーではないぞ」

「さっきは気が動転して変なことを口走ってしまったよ。ごめん」


 亀の気持ちが分からぬ俺たちでは、どうしようもない。

 せっかくゴンザたちに付き合ってもらったけど、今回の冒険はここまでとなった。

 求む。テイマー。切実に。

 余談であるが、ソードブレイカーは一度も鞘から出すことが無かったとさ。

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