第22話 ソードブレイカー
「いらっしゃいませ。エリックさん、調理器具の修理ですか?」
「あ、いや。武器を見繕いたくて」
翌朝早速やってきたのはポラリスのお店だった。
入るなり他のお客さんに断ってからパタパタと俺の元に来てくれたんだ。
彼の質問に応じたものの、先にお客さんの相手をして欲しいと促す。
朝早くはこれから冒険に出かける冒険者たちに修理済みの武器を渡したり、矢などの消耗品を売ったりと忙しい。
冒険者の旅立ちが終ると、途端に客足が無くなるのだって。
夕方になると彼らが戻って来るのでまた忙しくなるのだそう。この辺はうちの宿と同じだな。
最近は某濃ゆい貴族の来訪からか、興味本位で月見草に泊まりに来たお客さんも立ち寄ると聞いている。
そんなお客さんたちは昼前くらいにやって来て、小物(土産物)を買ってくれるそうな。
ポラリスが接客している間に彼のお店を見て回る。
おお。一通りの武器が揃っているじゃないか。なるほど。よく考えられている。
冒険者の得物は様々だ。廃村で武器を買うとなると応急措置的な重要が多く占めるだろう。少なくとも最初のうちは。
刃が折れてしまったとか一日の修理でどうにもならないような場合には、予備の武器を使う。
その場合、予備の武器が無くなってしまうだろ。冒険者にとって武器が無いということは致命的なことなのだ。
そんな時求められる武器は高価な一品ものではなく、安価でなるべく頑丈なもの。
冒険者の数が多くなく、応急措置用にとなれば、なるべく多くの種類を一つか二つ準備すること。
どこにでもある量産品クラスの武器であっても、不得手な武器種を使うより余程頼りになる。
「ふむふむ」
「矢の補充でもするのかと思ってたが違うのか?」
「弓は持ってるだろ」
「矢筒にはもう入らねえぞ」
髭もじゃが武器を物色している俺の横に入ってくる。
武器から目を離さず矢筒を彼に掲げて見せたら、彼の疑問が増したようだった。
「エリックくんは弓を使うんだ。私と同じー。仲良しさん」
「ま、まあ。使うけどさ」
「予備の弓だったら、私も持ってるから買わなくてもいいんじゃない?」
「炭鉱の中だと狭くて弓が使えない場面もあるだろ」
しな垂れかかってこようとしたテレーズを巧みに回避する。
彼女が弓を使う姿を見たことはないけど、ヒーラーが本職の俺より腕が立つはず。
弓関連のスキルやらも使うのかもしれない。
俺はヒール以外に特殊能力と言えるものはないのだ。夜目も利かないし、軽業師のように身軽なわけでもない。
そもそも、ヒール以外に秀でた能力があれば冒険者としてその能力で今も活躍出来ている……やばい。虚しくなってきた。
俺の求める武器は扱いやすく、頑丈で、攻めることより守りに向いた武器。
「お。これがいいんじゃないか」
「ほお。ソードブレイカーか。珍しい武器を選んだんだな」
ライザが手に取った武器について名前を教えてくれた。
へえ。ソードブレイカーと言うのか。なかなかカッコいい名前じゃないか。変わった形をしているのも独特で悪くない。
持った感じ俺でも振り回すに支障が無さそうだ。
「刃の反対側のギザギザも好みのデザインだ。厚みもあるから攻撃を受け止めても壊れそうにない。ダガーより長さがあるし、剣よりは短くて扱い易そうだろ」
「考えられた武器であることは確かだな。背側で剣を受け止めて捻ることで剣を弾き飛ばすことができる。うまくいけば剣が折れる」
「あ。ああ。珍しいと言った意味が分かったよ。武器を使うモンスターなんて稀だもんな」
「爪や牙も形状によっては挟んで折ることができる。しかし、ダガーにしては重く嵩張る。軽めの長剣に近い重さがある。なら、ダガーや長剣を持つ、となるわけだ」
「不遇武器じゃないか……。益々気にいった」
「不遇というわけでもないさ。街の衛兵なんかがダガーの代わりに持っていることも多いぞ」
冒険者が持つには中途半端ってことかな?
剣を折る目的でも使う武器なら頑丈さは折り紙付きだと思う。冒険をしていて何より重宝するのは壊れないこととメンテナンスがし易いことだと思うのだけどなあ。
異論は認める。俺は近接戦闘をするタイプじゃないので、素人考えなところがあるからね。
「お待たせしました。エリックさん、そちらを購入されるのですか?」
「うん。あと……」
接客を終えてこちらに来てくれたポラリスを横目にテレーズの方へ視線を送る。
「ちょ。ちょっとどこ見てるの。エリックくん。そういうことは他の人がいないところでするものだよ」
テレーズがパンツが見えそうなスカートの裾を抑え、よくわからないことをのたまった。
いや別にむらむらしたとかそういうことじゃないんだ。至極真面目な理由でさ。
「タイツみたいなのってあるかな? 服は置いてないとは思うけど、もしあったら」
「細工屋兼鍛冶屋ですので、服飾は専門外です。すいません」
やっぱしなかったか。
時間も無いし、テレーズはいつもあの格好で冒険しているわけだから問題ないか。
「おいおい。お前さんにはマリーがいるんじゃなかったのか」
「そう言う意味じゃないって! ちゃんと理由があってのことなんだ」
全く。この髭もじゃも変な勘ぐりをしているのか。
……ハゲもライザも似たような感じだった。
せめて一人くらい俺の真意に気が付いてくれていいものを。
呆れて首を振ると、テレーズがつま先立ちになって俺の耳元で囁く。
「見せるだけなら、みんながいないところで見せてあげるよ。もちろん、マリーちゃんには内緒にしてあげるよ」
「だああああ。違う。違うって! 皆まで言わなきゃ分からないのか……」
大袈裟にため息をつき、「はああ」と脱力する。
「いいか。俺は回復術師としてはまるで使えない。かすり傷程度なら治療はできるが、回復術師が必要な場面で十分な治療を施すことができない。言ってて悲しくなってきた……」
「案ずるな。お前の価値は回復術師としてだけじゃないさ」
ライザが慰めてくれた。そんな彼女に俺は内心嬉しくなる。
彼女がへこむ俺に対して慰めてくれたことにではなく、彼女が俺を使えない回復術師だと分かっても態度が変わらず、一緒に冒険をしようと思ってくれることにだ。
冒険者時代はゴンザくらいだったものな。使えない俺に対して普通の態度で接してくれたのは。
……ともかく、続きを伝えねば。
※今回もスピード重視で、、。
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