第21話 小袋の中身は

 小袋をアピールしているザルマンであったが、誰も彼に注目していない。

 彼も彼で漂うかおりにフラフラと惹かれ、ジャガイモ餅を貪る集団に参加してしまった。

 小袋は気になるけど、まずは腹を満たしてもらおうか。

 

「ザルマン。ゴンザのところにまだまだ食事があるから、追加注文も大丈夫だぞ」

「ありがてえ。まずはいただくとするよ。あとであんたに話がある」


 スキンヘッドをきらりと光らせ、白い歯を見せるザルマン。

 せめて口の中のものが無くなってからにしたらいいのに。

 でもこれが冒険者の良さでもある。マナーなんて気にしない連中が多いが、気さくで朗らかで気風がいい。

 かしこまった人よりこういう人の方が個人的には接しやすく、好みかな。

 元々俺が冒険者だったってひいき目もあると思う。

 

「ジャガイモ餅って言うのか。酒の肴にも悪くねえ」

「保存がきくなら持って行きたいな」

「私は甘い方が好き。エリックの宿は甘いモノが多くていつも楽しみなの」


 などと、冒険者の感想を聞きながらニヤニヤする。

 エリックの宿じゃなくて「月見草」という名前なんだけどな。

 俺の名前を記憶してもらうのも必要なことだし、重要なことは名前じゃなく宿が繁盛することだ。

 廃村の宿でも何でも覚えてもらって、来店してくれれば何だっていい。

 格式ばった宿じゃないからね。

 一応、宿のテーマはある。ご存知の通り「民宿」なんだけど、中々和風のモノを揃えるのって難しいんだよね。

 竹は見つけたんでシシオドシでも作ってみるか。全部屋を畳の部屋に改装する方が先かな。

 大工を呼んで工事をしてもらうのも難しいから、食と異なり中々進まないんだよな。

 民宿をオープンさせる前はまだ作業時間が取れたのだけど、基本自給自足だから宿の運営に加えて自分達の生活もとなると中々時間が取れないんだよ。

 これでも当初よりは生活そのものにかかる時間は短くなっている。

 グラシアーノからの仕入れもあるからね。

 

 ジャガイモ餅の試食会が終わり、満腹になった冒険者たちは次々と自室に向かうか温泉に浸かりに行った。

 残ったのは親しい四人のみ。

 民宿オープン初期からの付き合いであるライザとテレーズコンビと髭もじゃとスキンヘッドのおっさんコンビである。

 スキンヘッドも腹が膨れたらしく、満腹、満腹と自分の頭を撫でていた。それ、突っ込んで欲しいのかと思い、マリーへ目をやったが彼女は特に気にした様子がない。

 気になるのは俺だけなのか?

 と思い、グルリと見渡していたらテレーズと目が合った。

 彼女はチラリとスキンヘッドのザルマンへ目をやり、何かを訴えかけている。いや、笑いを堪えていると言った方が正確か。

 だよな。だよな。と彼女に向け俺もだよ、とアピールする。

 それが面白かったのかついに彼女は吹き出してしまった。


「エリックくん。それ卑怯だよ」

「え。いや。そんなつもりは」


 しかし、面白かったのは俺と彼女だけらしく、他は何が起こったか分からないとキョトンとしているではないか。

 

「すまん。待たせたな。こいつを見てくれよ。エリック」


 何事も無かったかのようにザルマンが小袋を差し出す。

 んじゃさっそく、開封してみようじゃないか。

 暑苦しい髭もじゃが後ろから覗き込んできたので、テーブルの上に小袋を乗せ皿の上に中身を出すことにした。

 これなら全員見えるだろ。

 出てきたのは茶色いつぶつぶだった。


「ほ、ほほお。こいつは」

「粒状の果実なり植物があれば持ってこいって言ってただろ」

「これは、俺の想像するものだったとしたら、大当たりだ!」

「へえ。こいつがねえ」


 髭もじゃが粒を一つつまんでしげしげと見つめる。

 他の人も同じように粒を手に取っているが、首を捻るばかり。

 真っ先に口を開いたのは尻尾をフリフリさせたマリーだった。

 

「食べ物なのですか?」

「恐らく……だけど。茶色いところはもみといって、殻のようになっているんだ。こいつを剥がすと、お」


 粒の茶色を剥がしたら黄色味がかった白が出てくる。

 見た目だけなら、こいつは米で間違いない。

 一粒そのまま食べてみる。炊いてみなきゃハッキリと分からないかなと思ったけど、こいつは確かに米だ!


「来たああああ! ザルマン。これをどこで?」

「エリック。さっき口に含んでいたけど食べられるのかそれ?」

「もちろんだ。こいつは『米』だ。炊いて食べるとおいしい。酒も造ることができるし、色んな用途に使うことができる」

「お、おお。そいつはこのレストランも益々メニューが増えるな!」

「レストランじゃなくて、宿な。ここは怪我が全快する宿、月見草だ」

「そうだった。回復宿泊施設でもあった。食べに行くのが楽しみですっかりな。すまんすまん」


 ペチンとスキンヘッドを叩くザルマン。


「エリックさーん。これ、本当においしくなるんですか……」

「生だとおいしくないかな」


 自分も試食してみようと米を口に含んだマリーが口をへの字にして訴えかけてきた。

 俺も生で米を食べたくはないな……。

 

「ザルマン。これはどこで見つけたんだ? 街で?」

「いや。他の冒険者が拾ったものを貰って来た。前々からあんたが粒状の植物を見つけたら教えて欲しいって言ってたろ。ゴンザも俺もここの常連たちも機会があれば聞いて回っていたりしたんだよ」

「ありがたい。一体どこでこれが?」

「聞いて驚け。この近くだ。だいたいの場所は分かるが、米……だったか? そいつは落ちていたものを拾っただけと聞いた。周囲を探せば米の群生地があるんじゃねえのか」

「確かに。案内して欲しい」

「お。エリック自ら行くのか。マリーちゃんはお留守番の方がいいと思うぜ」

「え……?」

「ザルマンが行くとなれば俺も付き合うぜ」


 え。ちょっと待って。マリーを連れて行くことができない危険地帯ってこと?

 それなら、彼らにお願いして、報酬を支払った方がいい。

 ポンとライザから肩を叩かれる。 

 とってもいい笑顔で彼女は言った。

 

「私も付き合うさ。いつも世話になっているからな」

「えー。ライザ。私が先に言おうと思ったのにー。エリックくんとの冒険、初めてだよね。楽しみ! 護衛じゃなくて仲間としてで、いいよね?」

「あ、うん」


 なし崩し的に俺も行くことになってしまったじゃないか。


「……行き先は?」

「ダンジョンだ。元廃坑のな」

「やっぱりそこなのか……」

「頼んだぜ。ヒーラー」


 ゴンザがガハハハハと豪快に笑う。対する俺は乾いた笑いしか出ない。

 し、仕方ない。米のためなら行くしかあるまい。


※もう一話書けましたのでアップしました!

 相変わらずのストック無しです、、。感想はきっちり読ませて頂いておりますが、返信滞っております。更新の方を優先いたしました!

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