第20話 俺の酒が……

「この酒うまいな!」

「確かに。ライチかと思ったが、少し違うな」


 髭もじゃと女戦士が酒を酌み交わす姿が横目に映り目をむく。

 お、おい。あの瓶はまさか。


「ゴンザ! ライザ! その酒!」


 慌ててキッチンから出てきて叫ぶ。

 既に酒瓶は半分近くまで減ってしまっている。

 「私も」と手を出す女戦士ライザの相棒である弓使いのテレーズに睨みをきかせた。

 俺の想いは虚しく、酒が彼女の杯に注がれてしまう。


「マリー。止めて。瓶を回収してくれええ」


 残念。マリーは他の宿泊客に大学いもを運んでいる最中だった。

 ええい、料理途中だが構うものか。

 ずんずんと進み、むんずと酒瓶を掴む。すでに三分の一にまで減ってしまっているじゃないか。

 

「テレーズ。酒癖が良くないんだから飲むな。俺が……」

「任せろ。エリック。テレーズのことは責任をもって私が世話をする」


 自信満々なセリフを吐くライザであったが、テレーズの杯を横からかっさらい飲んだだけじゃないかよ!

 

「そ、それは。俺が頼み込んで作ってもらった特別な酒なんだよ。やっとこさ出来たってのに」

「ほう。街の酒造所に依頼したのか?」

「その通り。グラシアーノに頼んでね。失敗作にまでお金を払ったから、お金も時間もかかってるんだよ」

「ちゃんと料金は支払うさ。ほら、残りも渡すといい」


 お、お金の問題じゃないんだああ。

 今晩飲もうと置いておいたんだよ。俺はまだ一口たりとも飲んでないってのにい。

 しかし、酒のストックの手前の方に置いていた俺が悪い。誰に対しても怒ることなんてできないさ。

 それでも、酒は惜しい。三分の一に減ってしまったが、今晩飲もう。

 

「おい。エリック。そいつはなんて酒なんだ? 街で飲むことができるなら飲みたい」

「これか。こいつは特別製なんだ。街には無い」

「いずれ量産されるかもなー。なかなかうめえ」

「お、俺はまだ味見してないってのに。こいつはな。芋焼酎って酒だ」


 サツマイモを仕入れただろ。その時にさ、大学いもとかいろんな料理を試したじゃないか。

 サツマイモ料理は好評で、特に甘いモノが大人気だ。

 宿の料理を充実させることは急務なので、お客さんが喜んでくれる料理が増えてとても嬉しい。

 しかしだな。サツマイモと聞いてまず頭に浮かんだのは大学いもなんかじゃない。

 芋焼酎だったのだ。

 サツマイモの仕入れをした時にグラシアーノに芋焼酎について尋ねてみた。

 すると、街にはサツマイモを使った酒自体が無いと来たものだ。そこから俺の戦いは始まる。

 日本で生きていた時に芋焼酎を作った経験があれば、自分でも何とか試行錯誤することができたのだろうけど、残念ながらまるで分からん。

 知っていることといえば、サツマイモのお酒は世界で稀の稀だということ。

 理由はもちろんある。サツマイモはデンプン含有量が少なくアルコールの生産効率が悪い。

 更に覚えていて幸いだったのが、サツマイモを生のままで発酵させるのは難しいということ。

 蒸してから糖化させる必要があり、焼酎なので蒸留も必要だ。

 素人が作るには難易度が高過ぎる。なので、知っていることを全て伝え、興味を持った酒造所に手伝ってもらった。

 ようやく完成した一品がゴンザとライザが飲んだ芋焼酎なのである。

 

 芋焼酎を作るのにいかに手間がかかったかぐちぐちと言っていたら、二人も分かってくれたようだった。


「分かったから。すまんかった。そんで、エリック」

「ん」

「厨房を放り出したままだがいいのか?」

「あああああああ」


 そういうことは早く言ってくれよ。ゴンザああああ。

 

 キッチンに駆け付け、ふうと安堵の息を吐く。

 うん。大丈夫だ。これが焼く料理だったら終わってた。

 ちょうど蒸し終わったところだな。

 お次は小麦粉を混ぜて捏ねる。一口大に分けて、焼く。

 

「よっし。完成。みんな。新メニューだから、今回は俺のおごりだ。食べてみてくれ!」

 

 と言ったものの、キッチンから叫んでも締まらない。きっと殆どのお客さんには聞こえていない。

 ま、まあ。俺らしくていいか。

 出来たばかりの一品を大皿に次々と運んでもらおうとマリーを呼ぶ。

 ちょうど配膳を済ませて戻ってくるところだったから丁度いい。

 その際に彼女が至極当然のことを尋ねてきた。

 

「これは何と言うお料理なんですか?」

「おっと。ジャガイモが余っていただろ。それでさ。ジャガイモを使った芋餅を作ってみたんだ」

「へえ。ジャガイモ餅ですか! 甘いハチミツか味噌かどちらかで食べるんですね」

「うん。お好みで。先に味見してもいいよ」

「ほんとですか!? エリックさんのお料理はどれも新鮮で美味しいので嬉しいです!」


 早速とばかりにマリーが芋餅もといジャガイモ餅に手を伸ばしたので、俺も味見をすることしよう。

 本物の餅のように伸びたりはしないけど、もっちもちで中々おいしい。

 個人的にはみたらし味好きだが、無いものねだりはできん。いつも立ちふさがる醤油の壁である。

 醤油と米が無いとなると結構な制約なんだよな。砂糖も豊富に入るものでもなし。日本酒もみりんもない。

 幸い大豆があるので、頑張れば醤油を作ることができるはずだ。

 ノウハウも無いので試行錯誤中なのである。豆腐にも挑戦中。こっちの方が早く日の目を見そう。

 

 さて、マリーの反応は。

 猫耳をペタンとして、目を細めている。


「もっちもちでおいしいです! これがジャガイモなんて!」

「蒸して小麦粉を混ぜて焼いただけなんだよ。蒸すのが少し手間だけど、調理自体は簡単だ」


 さあ。みんなに食べてもらうとしようか。

 俺も手が空いたので結局マリーと一緒に大皿を運ぶ。

 食べてくれ、と両手を開いた時、宿の扉が開いた。

 

 やって来たのは見慣れた顔。

 ゴンザの相棒のザルマンじゃないか。小袋を掲げウキウキな様子だけど、一体?


※お待たせいたしました。再開です。

 ですが、今しがた20話を書いたばかりで全く書き進んでません。思ったよりサボってしまい……ストーリー矛盾でないようにするためにもストック作ってから投稿をと思いましたが、お待たせし過ぎなのでアップしました!

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