第17話 水あめ
「まずはすぐにできる定番から」
リンゴとブドウに串を挿し熱して柔らかくなった水あめに浸して、くるりと巻く。
あとは水あめが冷えたら完成だ。
「冷めたら食べて。その間に次を作るよ」
お次は鍋に火をかけて湯を作りつつ、大豆を炒って粉にしたものをボールに投入する。
水を入れてこねこねしてから、水あめを混ぜ込む。
あとは一口大になるように丸めて完成。こっちも簡単に作成できる。
こっちはおいしいかどうか分からん。試しに摘まんでみたら、悪くない味だったのでマリーに運んでもらった。
ラスト。
サツマイモを一口大に切って、沸騰した鍋に入れすぐに湯切りをする。
フライパンにバターをひとかけ、サツマイモをドサーっと入れてっと。
水あめを絡めて完成。
これも思ったより簡単だった。サツマイモは少し高価だけど、ハチミツよりは安い。
砂糖はクソ高いので砂糖を使うお菓子は今のところ避けている。
「簡単料理だったけど、どうかな?」
「美味しいです! ブドウに水あめ。ぱりぱり甘さの後にじゅわっとブドウの果汁が広がって……」
目を閉じぽやあとハートを浮かべるマリー。
「りんごとブドウのものは、そのままだな。リンゴ飴にブドウ飴だよ」
「こちらは栗蒸しまんじゅうと違う食感だな。粉が違うのか?」
「うん。大豆を炒って粉にしてるんだ。どうかなと思ったけど案外大丈夫だった」
「私は栗蒸しまんじゅうよりこちらの方が好みだ。疲れた時に一つ食べたい一品だな」
ライザは大豆のお菓子が気に入った様子。
小麦だとどうしてもクッキーか蒸しパンになっちゃうから、他のもので違う食感をと苦心した結果産まれたのが大豆の粉だ。
なんて名前にしようかな。必ず日本に似たような和菓子があるはずだけど、残念ながら名前を覚えていない。
大豆まんじゅうとでもしておこうか。
最後につくったサツマイモの水あめ和えは定番の「大学いも」である。
俺も大好きだよ。大学いも。シンプルで甘くておいしい。
「サツマイモのはお腹も膨れて良いね! 芋は余り好きじゃなかったけど、これはぱりぱりもあるしおいしいー!」
テレーズもご満悦の様子で何より。
みんなで食べていたら、あっという間に作ったお菓子が全て無くなった。
「そう言えばエリック。以前作った畳とやらはどうなったんだ?」
「改装中だよ。もうすぐ完成しそうなんだ。見てみるか?」
ライザの発言にそう言えば彼女らにその後を伝えていなかったなと思い出す。
みんなに協力してもらって作ってもらった畳は全てまだ使用していない客室の改装に使わせてもらっている。
いや、全てじゃないか。
ライザの手前、黙っておいた方がいいよな。たぶん。
二階の角部屋へ彼女らを案内する。
宿の業務の合間合間だから、中々進んでいないんだけどあと少しになってきたんだよね。
「これはまた変わった部屋だな」
「草の香りが素敵ね! 次はこの部屋に泊まりたいなー」
板張りの床の上には畳を敷いて、ベッドの代わりに一段底上げしてこちらにも畳を敷いている。
底上げしたところはクッションの上に布団を乗せ寝るスペースにするつもり。
他には板の間も作っているんだ。旅館に泊まった時にさ、襖を開けると謎の板の間スペースと窓があるだろ。
あの空間を再現しようと思ってさ。後は自作の掛け軸と壺を置く場所も作った。
この部屋だけ、民宿ぽい雰囲気を醸し出せていると思う。
大事なことであるが、入口の部分を玄関にしていてそこから一段上がって畳になっている。靴箱もちゃんと置いているから、靴を脱ぐことを伝え忘れないようにしないと。
マリーが靴を脱いで部屋に入ると二人も真似をして靴を脱ぐ。
「奥だけ板になっているんだな」
「そこは間に引き戸を作ろうと思ってるんだ。後は引き戸を作ってテーブルと椅子を置けば完成」
「へえ。無くても特に支障はないんじゃないか?」
「まあ。そこは拘りって奴だよ」
謎の板の間スペース……確か名前は広縁と言ったんだっけ。
広縁の居心地の良さがあってこその民宿だろと断言する。だから、あのスペース無しで使い始めるなど考え難い。
ライザとテレーズも一度広縁の居心地の良さを味わうと分かるはずさ。
欲を言うと板のままじゃなくて絨毯を敷きたい。獣の毛皮でもいいかも。
毛皮ならなめして干しているものがそろそろ使えそうな感じになってきている。よっし。毛皮で行くか。
「畳ってこんな使い方もできるんだね。寝ころぶと気持ちいいー」
ぺたーっと畳に体を密着させ頬ずりするテレーズ。
「テレーズ。『こんな使い方』とは、他の使い方を知っていたのか?」
「ん。ライザは見なかったの? 温泉に行く途中に……ふがあ」
慌ててテレーズの口を塞ぐ。寝そべっているから彼女に馬乗りするような形になってしまった。
しかし、ライザの名誉のためにもこれ以上何も言わせるわけにはいかねえ。
俺の動きにマリーは真っ赤にして自分の手で目を塞ぎ、チラチラとこちらを窺っている。
もう一方のライザは呆れたように鼻を鳴らす。
「エリック。テレーズが同意しているのなら私からは何も言わんが、他の者がいないところの方がいいと思うぞ」
「きゃー。エリックくんのえっちー」
「待て待て。誤解だって」
しかし、この誤解を解くには言わないと仕方がないのか?
「もう一つの使い方は余り知られたくなかったんだよ。だから咄嗟にテレーズの口を塞いでしまったんだ。ごめん」
「そうだったんだ。猫ちゃんたちの爪とぎに使うのってそんな秘密のことなの?」
テレーズ! 言っちゃった! それ言っちゃってる!
「あ」
「隠すほどのことでもなかろう」
ライザが心底つまらないと首を振る。
実物を見た時の彼女の顔が楽しみだよ。是非とも観察したい。まあ、本人が気にしないのならいいか。
気が付いてないだけとも言う。
ライザとゴンザの前衛芸術は猫にバリバリとされる運命となっていたのだった。
床には使えないものであっても、放置しておくには勿体ないからね。
◇◇◇
翌朝、憮然とした顔のライザには何も触れず送り出す俺であった。
冒険者たちが旅立った後はニャオーに乗るストラディを呼ぶ。
「いつもありがとう。これ新作のお菓子なんだ。みんなで食べて」
「ありがたい。甘い菓子は中々ありつけないものだからね。小人族が食すのは花の蜜くらいのものだ。栗蒸しまんじゅうも皆気に入っている」
小人たちの働きに比べるとほんのささやかなものだけど、喜んでくれるとやはり嬉しいものだ。
彼らは今日も今日とて二階の掃除を一手に引き受けてくれた。
いつもながら、魔法で一瞬にして部屋が綺麗になる様子は見ていて爽快だなー。
すっかり綺麗になった部屋の窓を開け、んーっと伸びをする。
さてと。今日は川まで行くことにしようか。
ん? 何やら外が騒がしい。何かあったのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます