第14話 道を作るびば
「ふんふんふんー」
うどんもどきを初めて作ってから早三週間。今日も今日とて川へ洗濯に……ではなく、川で素材集めだ。肉も切れて来たので、狩りもしなきゃだな。
籠には沢山のブドウと瓜が入っている。
これは俺が食べるのではなく貢物だ。
「よいしょっと」
籠からブドウと瓜を地面に転がして、昆布を集めていると来て来た。
水面が揺れ、茶色い小型の動物が姿を現す。
「びばば」
「ばばば」
変な鳴き声であるが、ご愛敬ということで。
茶色のふさふさの毛皮を持つ二本の尖った歯としゃもじのような尻尾が特徴のこの動物はビーバーもどきである。
地球のビーバーに似ているけど、鳴き声が違ったりと細かいところがいくつも異なっていた。
なのでビーバーもどきと呼んでいる。正式名称が付いているのかも知らないし、知る必要性もない。
出てきたビーバーもどきは全部で四体。
「今日もお願いするよ」
「びば!」
報酬はブドウと瓜だ。
ビーバーたちは半分ほど果物を齧った後に動き始める。
川から廃村に向けて木々が倒され、でこぼこしたところも無くなっていた。
そう。道が出来ている。廃村まで道が開通するのもあと少しと言ったところ。
ビーバーたちの後を追っていくとさっそく木々をガリガリやりつつ、大きな岩を切り出し前脚で挟んで押している。
岩を置くことででこぼこした地面を平にして行く。このようにして岩を敷き詰めた道にはならないけど、岩と土交じりの平な道が出来上がっていっていた。
恐らく今日の作業で開通まで持って行ける……と思う。
ビーバーたちは小さな体だというのに中々な力持ちで、前歯の切れ味も地球産のビーバーとは比べものにならない。
道を拓く賢さまで備えているのだから、驚きだ。
たまたま持っていた果物を与えたら、木々を切り倒し道を作り始めたので、それ以来彼らに果物を届けている。
「これで台車を使えるようになるなあ」
台車だけじゃなく、水路も作ろうと思えば作れちゃうんじゃないか。
一応廃村には井戸があるので、水には困っていない。うどんを作る時に川の水を運んでいるけど、大した量ではないし台車が使えるようになったらそれで事足りるか。
ビーバーたちにお礼を言って、鳥を三羽狩ってから宿に戻る。
「にゃーん」
「にゃーん」
「ただいまー」
宿のすぐ傍で身重だったグルーと子猫のチョコが迎えてくれた。
チョコも随分と大きくなってきたなあ。すりすりと俺の脛に頬を擦りつける姿が可愛くて仕方ない。
丁度その時、宿の入口扉が開く。
「お。帰ってきたのか」
「助かったよ。ゴンザ」
「余り役には立ってねえけどな。その分ザルマンが頑張ってくれてたんだぜ」
「マジか。ザルマンって器用だったんだな」
「俺もビックリした。テレーズとライザはお前の期待通りだったがな」
「『期待通り』か。やっぱりな」
はははと声を上げて笑うとゴンザもつられてガハハと白い歯を見せる。
テレーズは器用そうだったものな。ライザも期待通りってことは超絶不器用だったってことか。
お裁縫とか速攻投げ捨てそうだもの。ライザって。
俺も人のことを揶揄できるほど器用じゃないけどね。
「ただいま……何、この状況……」
ノームの職人ポラリスが指導してくれているのかと思いきや、黙々とイグサを織り込む作業をしている。
彼と並ぶようにマリーが一心不乱にイグサを縫い付けた芯の枠へ布を縫い付けていた。
一方でポニーテールの弓師テレーズとスキンヘッドのザルマンがポラリスとマリーのように二人一組で作業に勤しんでる。
冒険者たちには宿と食事を提供すると申し出ると二つ返事で作業を手伝ってくれることになったんだ。
ポラリスには一日分の作業料を手渡している。マリーは従業員なのでこれも仕事の一貫ってことで……。
芯にイグサを織り込み、枠に布を縫い付ける作業で何を作っているのかと言うと、畳である。
先日イグサを発見して(もしかしたら葦かもしれない)、乾燥させておいた。
民宿を目指そうとしている俺としては、畳が作ることができるとワクワクしてイグサを織る日を待っていたんだ。
うまくいくか分からなかったけど、先日ポラリスに相談して一枚だけ畳を作ってもらうとイメージ通りのものになった。
そこで今回は人員を増やし、一気に畳を作ってしまおうと計画したのだよ。
結果は上々。俺は何もしてないじゃないかというツッコミは甘んじて受けよう。ビーバーたちのこともあったから仕方ない。
ビーバーの道が完成すると、ポラリスも恩恵を享受できるので……。
あともう一つ、俺にはやらねばならぬことがある。
「お。戻ったのか。エリック」
「う、うん」
いい笑顔で声をかけてくるライザに向け、曖昧な顔で返す。
彼女の元には前衛的な何かがいくつか転がっている。彼女とゴンザが組んでいたのだろうけど、どうしようかこの芸術作品。
……よし。使用用途は決った。
「ちょっと待っててくれ。今から作るから」
俺の発言にピクリと全員の肩が揺れ、作業が一時的に停止する。
マリーは「手伝います」とパタパタと俺の元にやって来た。
「やった! 栗蒸しまんじゅうの時間だ!」
「街の冒険者ギルドでも話題になって来てるぜ」
テレーズとザルマンが喜色を浮かべる。ポラリスもぽわーんとした顔になり、ハッとすぐ元の職人の顔に戻った。
栗蒸しまんじゅうはお茶菓子として宿泊客にサービスで出している。
栗蒸しまんじゅうは栗を混ぜた蒸しパンなのだけど、まんじゅうという商品名を付け和風を装うことにしたんだ。
ともかく……ありがたいことに非常に好評で栗蒸しまんじゅうを是非とも購入したいという冒険者がチラホラといる。
暇を見ては作るようにしているのだけど、作るなりすぐに売れて品薄状態が続いていた。
専門の従業員を雇って土産物の一つとして売り出すのもアリだよな、と最近考えている。だけど、土産物一つだといずれ飽きられて立ち行かなくなるような気がしていてさ。
中々踏み切れていないんだ。廃村に来てくれる従業員を探すにも中々大変というのもある。
観光地には土産物というのが頭にあるから、せっかくなら土産物事業として立ち上げたい。商品が充実して来たら満を持して……が理想だよな。
「マリーは『栗蒸しまんじゅう』を作ってもらっていいかな?」
「はい! お任せください」
テキパキと動き始めるマリー。
俺は大きなボールに小麦粉を入れて、清水を注ぎ込む作業に入った。
こねてこねてこねて。
折りたたんで切る。
麺作りもすっかり慣れてきた。生地を伸ばす用に木の棒も作ったし、道具も万全だ。
「問題は麺じゃなく汁だった」
うどんを作ったはいいが、昆布を煮詰めて塩で味を調えた汁は冒険者たちから可もなく不可もなくという評価だった。
俺的には「おいしい!」と絶賛したのだが、思い出補正も多分にある。
そもそも、和風の料理に慣れていないこの世界の人たちにおいしく食べてもらうには、味付けに工夫が必要だ。
そこで俺は日夜研究を重ねていた。
ふ、ふふ。今日こそは唸らせてやるぜ。
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