第13話 川を探索

 スキンヘッドは完全に怪我が癒えたら宿に来た時の悲壮感はどこへやら、元気に相棒のゴンザと共に炭鉱ダンジョンへ意気揚々と旅立って行った。

 そして、今晩も我が宿で泊ってくれるそうだ。

 二人とも少々の擦り傷があった程度だったんだけど、温泉が気に入ってくれたみたいで治療目的じゃないとのこと。

 ライザたちと同じで治療以外のところでも気に入ってくれて常連となってくれることは、この上なく嬉しい。

 宿そのものをパワーアップさせるには、食事と宿の設備だよな。

 今はボロ宿と言われても事実だけに何も言い返せない。冒険者だけでは宿泊客にも限界がある。

 毎日満員御礼とするには、街からの宿泊客を獲得しなければならない。

 冒険者は比較的外観や部屋の設備にうるさくないけど、街の人となると話は異なる。

 想像してみてくれ。観光名所も無く、宿だけを楽しみに泊まりに来たとして、外観がボロ宿だったらそこで回れ右になるだろ?

 外観と内装、そして、部屋……と満足してもらわないとその先もない。

 治療のために街から月見草へ訪れる宿泊客も、今後出て来る。冒険者と同じできっかけは怪我の治療となるだろう。

 だけど、街で暮らしていて何度も怪我して……とは考え辛い。

 

 まあ、何が言いたいかと言うと、怪我の治療だけに胡坐をかいていては経営が行き詰まるってことさ。

 

「めえええ」

「めえええ」


 お、おっと。そっちに行ったらダメだぞ。

 トコトコと柵の外に出ようとしていたヤギを宿の方へ追い立てる。柵といってもほんの一部しか囲えてない。

 俺かマリーが見ていない時はヤギを紐で繋っぱなしにしているが、できれば日中はある程度放し飼いにしたい。

 今は草を食べさせるにも運動をさせるにもずっと見ていなきゃいけないからなあ。

 宿のパワーアップをと気持ちは焦るが、食材確保その他、今の環境を維持するにも結構な時間がかかる。

 だったら従業員を増やせば、というのも難しい。


「この調子で冒険者のファンを増やしていけば、そのうち、な」


 スキンヘッドが栗の蒸しパンが美味しかったと言ってくれた顔を思い出しにやける。

 ああ見えて、スキンヘッドは甘いモノに目が無いんだそうだ。ゴンザは酒の肴のが好みみたいだったけどね。

 

 カンカンカン。

 木なら廃屋他に豊富にあるのだ。杭を打って、横板を釘で打ち付けて……とやっていたらゴンザとスキンヘッドが挨拶しにきた。


「おかげでゆっくりと過ごせたぜ。一旦街に戻る」

「また栗のあれ食べにくるぜ」

「ありがとう! またの来店を待ってるよ」


 手を止め、二人と握手を交わす。

 時刻は日の出から二時間くらいかな。

 宿泊客がチェックアウトしたので、今日も山へ繰り出すとしよう。マリーを連れて。

 

 ◇◇◇

 

「わあ。こんなところがあったんですね!」

「結構いい小川だろ。あ。渡ろうとしない方がいい。流れが速くて足を取られる。濡れちゃうし」

「真ん中で太ももくらいの深さですか?」

「そんなもんかなー」


 川辺でしゃがみ、手の平で水をすくう。

 ゴクゴク。


「澄んだ水か……。清流沿いの食事処……お!」

「どうされたんですか?」

「これほど綺麗な水って人がいないところじゃないと飲めないじゃないか」

「地下の水は思い出したくありません」


 街には下水道と上水道がある。遠くの川から水を引き込んでいるのだ。

 特に浄水センターなんてないから、皆それぞれ家庭で炭などを使って浄水してから水を口にしている。

 ここではそのような必要はない。

 そして、清流と言えばあれだろあれ。

 

「は、はくしゅん!」

「だ、大丈夫ですか!」

「う、うん。マリーも気を付けろ」

「くしゅん」


 鼻がムズムズする。

 細かい綿毛か何かが鼻に入ったらしい。

 ふむ。確かに水辺にも水中にも様々な植物が繁茂している。

 綿毛は何だったんだろう。タンポポかな。

 水辺のは葦? 葦って確か編むことによって籠を作ったりできるんだっけ。

 一本ナイフで切って手に取ってみる。

 この香り、何だか懐かしい。

 

「イグサかもしれない。葦でもいいのだけど、これなら編むことが出来そうだ」

「茎で作る冠みたいなものですか?」

「そそ。すぐには使えないと思う。乾燥させてから加工しようか。一つ考えがあるんだ」

「楽しみです!」


 考えていたものと違うものが見つかった。これはこれでいい感じだ。

 うまく加工できるのかは別問題である。

 ポラリスに相談してみようかな。彼なら器用に作ってくれそうだけど、やり方を教えてもらうに留めた方がいいかもなあ。

 バッサバッサと葦かイグサらしき茎を刈り取っていたら、水中で足を取られる。葦だけに足ってな。寒いからこれ以上はよしておこう……。

 

 黒っぽい何かで足を滑らせたらしい。

 ん。これも何処かで見たような植物だな。でも、海にあるもので川の中になんて聞いたことが無い。

 地球では、と注釈がつくが……。

 ここは別世界であるからして、川の中にあっても何ら不思議ではない。

 似て非なる植物の可能性もある。半々くらいかなあ。これまで見た目がそっくりのものは、地球と同じようなものだった。

 果実にしても芋類にしても、だ。

 試してみる価値はあるな。

 

「こいつも持って帰ろう」

「その黒っぽいものですか。少しヌメヌメしてますね」

「俺の背負子に少しだけ積んで帰るよ」

「はい! あと、来る途中でキノコを見かけました。採取してもよいでしょうか」

「キノコは毒を持つものも結構あるからな……冒険者時代の知識で対応できそうなものだけとって帰ろうか」


 そんなわけで色々収穫して戻って来た。

 荷物が増えたので余り持って帰って来れなかったけど、清水もちゃんと採水してきたぞ。

 

 帰ったら、一通りやることを済ませてキッチンに立つ。

 準備したるは小麦粉と川の水こと清水である。

 手持ちの一番大きなボールに小麦粉を入れ、清水を注ぐ。

 後はこねるのみ! 本当はそば粉が良かったけど、残念ながら街でもそば粉を入手することができないのだ。米も同じくである。

 米を想像したら食べたくなってきたじゃないか!

 いかんいかん。無心でこねる、こねるのだ。

 

「よっし。確か伸ばして畳んで……を繰り返すんだったな」


 その後は折りたたんだ生地を切る。

 これでうどんの完成だ!

 

 出汁の方はどうかなあ……。

 ぐつぐつとゆでたお鍋に入っているのは川底でとれた黒い物体。

 さてさて。

 ちょびっと味見してみた。

 お。悪くない。ちゃんと味が出ているじゃないか。

 

「間違いなく昆布だ。もっと煮詰めるとするか」


 意気揚々と更なる黒い物体こと昆布を鍋に投入する俺なのであった。

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