懺悔

 壁一面に飾られたライル博士とある男性の写真の数々……その男性の姿形はロバートとタカコのよく知るルーク博士だった。

 茶髪で裸眼、二重で大きな瞳、自身が宇宙工学の権威であるという誇りを含んだ堂々とした雰囲気。

 だが、写真に写るルーク博士は奥の方に飾られたものになるにしたがってロバートたちの知らないが知っている容姿になっていく。

 二重の大きな瞳は奥二重に、茶髪は黒髪に、そして裸眼はメガネに。こころなしか雰囲気もどこか素朴で自信なさげに見えた。


「アルビーは……彼はルーク博士のコピーアンドロイドですね?」


 ロバートはタカコと導きだした『答え』をライル博士に投げかけた。なるべく冷静に……と彼は意識したはずだったがその声色は震えていた。

 アルビーの活動期間を考えれば、当時のアンドロイドは何かしらのエネルギーをわかりやすく充電や供給しなければいけなかったはずである。AI人格をどこまで人間として扱うか? といった問題はあったにせよ、AI部分はほぼ完成していたが動力部分に関してはわかりやすく『器械』だった。

 しかし、アルビーは普通に食事をとっていた。充電と並行して人間のように食物をエネルギーに変換できるハイブリットアンドロイドは比較的歴史が浅い……そのはずだった。


「二人とも、アルビーがアンドロイドだなんて信じられないって顔をしているね」

「それはそうですよ、普通に食事をエネルギー源に変換するアンドロイドなんて最近の話じゃないですか……それにその機能だって人間と過ごすのに一緒に食事をするセラピーとしての補助機能のはずで食事だけで動いているなんて」


 今度はタカコが口を開いた。タカコの疑問に、ライル博士は二人が研究所にきてから一度も見たこともない表情で大笑いをした。


「ははは、何を言うかと思えば、簡単な話さ、アルビーこそが彼らのプロトタイプというだけのことだよ。彼らは私の情念の産物だということさ」


 ロバートとタカコは顔を見合わせた。目の前いる博士にこんな一面があっただなんて、二人は考えたこともなかったのである。


「……これでアルビーとライニールは地球に行った理由がわかっただろう? 連れ戻すのもそのまま監視するのも好きにしたらいい。私はもう疲れたんだ。」

「どうして、ライニールの記憶をあやふやにしたんですか?」

「そんなの、哀れな男の思考実験の後始末にすぎないさ、ルークが……ルークが彼女、今のパートナーにで出会わなければ私の思いに応えてくれる未来があったのか知りたかった」


 ライル博士の長いまつげが伏せられ影を作る。


「……ルーク博士のアンドロイドであるアルビーはあなたを愛していましたよ」


 ロバートが告げる。


「ああ、だけど私は結局アルビーの奥に見えるルークを愛することしかできなかった。だからアルビーを開放したんだ。ライニールを作って」


 それは、静かに、だけど心の奥底から絞り出した懺悔だった。

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