疑念

「これは、どういうこと? たしかに、私たちが入れない部屋がライル博士の自室以外にもひとつあるのは知っているけど……あの人って誰のことなの?」

「……ライル博士がプライベートで仲良くしてる人、いやまさか…………見た目も違うし」


 ロバートには一人だけ思い当たる人物がいた。しかし、頭がそれを拒否しようとしていた。


「ロバート、あなた、なにか思うところがあるんでしょう?私にもきちんと教えてちょうだい」

「……ルーク博士、もしかしたらあの人ってルーク博士なんじゃないか?」


 ロバートのその言葉にタカコは驚く。ルーク博士はライル博士の同期でもう一人の天才。偉人。

 人類が太陽系を飛び出すきっかけになった研究で一躍有名になった人だった。


「でも、アルビーってルーク博士とあんまり似てないじゃない? ……ルーク博士の代わりにアルビーを恋人にしたっていうのが私としてはあんまり繋がらないのだけど」

「うーん、たしかに容姿は似てないな、ルーク博士は茶髪で裸眼なのにアルビーは黒髪で眼鏡だし、……性格的なところが似ていたとか?」


 ロバートとタカコのなかでなにか腑に落ちないところがあった。まるでなにかを見落としているかのような……

 それに先に気づいたのはタカコだった。


「……容姿なんてあてにならないのは当たり前よね、たしかにライル博士やルーク博士の時代の人はオリジナルのままいる人も多いから、そう思い込んでたけど」

「なぜ気付かなかったんだろうな、アルビーが度の入った眼鏡をしていたのがそもそもおかしいんだ。なあ、タカコ、両親か、もしくはそのどちらかがオリジナル主義者だったとしても近眼を治さない親は今どのくらいいる?」

「…………ねぇ、それって」


 二人はその気付きによってある結論を導きだそうとしていた。


※※※


 二人は開かずの間へとたどり着いた。

 二人の間で共有した『ある結論』の答えは確実にここにあるだろう。しかし、部屋の主に許可もとらないままこの部屋へと立ち入ることに二人とも心理的抵抗があるのは確かだった。

 その部屋はドアからして異質だった。研究所のドアはどこもかしこも電子制御されているがこのドアだけは鍵穴がついている。アナログの鍵を差し込み鍵を回さなければならないつくりになっていた。

 それはまるで数世紀前で時を止めてしまったライル博士の心を表しているかのようだった。


「ねえ、誰か部屋にいるみたい」

「誰かって……」


 それが誰かなど言うまでもないことだが、ここにきてもまだ、二人は踏み込む勇気が持てなかった。

 覚悟を決め、タカコがドアをノックする。

 意外にもドアはすんなりと開けられた。


「待っていた。案外遅かったな」


 ライル博士はすんなりと二人を部屋に招き入れた。そのあっけなさに二人はやや拍子抜けしたが目の前の光景を見た途端、二人は顔を見合わせることになった。

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