アルビーの手紙
ライニールが起動して、ライル博士の記憶が抜け落ちているとわかったときの私の心の打ち震えを、暗い喜びをなんと表現したらいいか。
あなたの膨大な研究知識も、私とクラシックカーでドライブするのが好きだった昔のあなたの嗜好もあなたそのものなのに、地球での思い出は霞がかっったかのように記憶データが抜け落ちていると。
ロバートとタカコの二人にはライニールにあなたの記憶の大半がないのは事故だとあなたは説明しましたね。
ライニールはあなたのすべてをコピーしたアンドロイドになるはずでしたからね。でも、あなたほどの人がそんなミスをするようには、私にはどうしても思えないのです。
あなたは、私の愛を試したのでしょうか?
あなたはいつも、私を愛していると嘘をつきましたね。
でも、ライニールの私への愛の告白は混じりけのない愛の告白だったのです。
あなたも最初は嘘ではなく、私を愛そうと思ったのでしょう? だけど私を愛したのではなくその先にいる人を愛しているのだと気づいたのはいつだったのでしょうか?
すみません、あの人に対する気持ちは友情のはずですね。少なくともあなたはそう信じようとした。
だけど、私は気づいてしまいました。あれは、あなたと暮らして二百年がたった頃でした。いつまでたっても私がドアを開けることを頑なに許さなかった部屋がありましたね。いつもならきちんとロックをかけていた貴方は動揺してドアを開け放したまま泣いていましたね。
あの人がパートナーとの子どもを授かったという報告を数百年ぶりに受けたのがとてつもないショックだったのでしょう。もう、子孫といってもいい玄孫やその先までいらっしゃる方ですからね。さぞかし驚かれたことでしょうね。
でも、人類が限りなく不老不死に近づいたこの時代考えなかったわけではないですよね?
ただ驚いたわけではないですよね?
あの人だからですよね。わかっています。
ただ、事実として私はあの部屋を見た。それだけです。
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