第2話 理性崩壊

 ◇◇◇


「お待たせ。何?一人で飲んでたの?」


「ん。今日は一人なの。電車の時間まで暇つぶししようと思ったのに、動けなくなっちゃって」


 へニャリと眉を下げる優奈。大分酔っているようだ。


「お前酒弱いんだから一人で飲むなよ」


「ほんとにちょっとしか飲んでないんだよ?でも立とうとしたら立てなくって。腰が抜けちゃったみたい」


 優奈の酔って少し舌っ足らずになった口調とトロンとした顔を見てると妙にイラッとする。大方店中の男に奢られたんだろう。持ち帰られなくて良かったと言うべきなのか。だけど、


「たく、俺はお前のタクシーじゃねぇ」


 思わず愚痴が口を付いて出た。便利な男だとわかっていても、飲みにも誘ってもらえず、迎えにだけ越させるのはぶっちゃけ酷いと思う。


「深夜のタクシーなんて怖くて乗れないよ。こんな時間にごめんね。でも、迎えに来てくれる人、先輩しか思い付かなかったんだもん」


 けれども、そんな言葉にコロリと騙されてしまうのだ。


「……お前のわがままに付き合ってやるのは俺ぐらいのもんだよ」


「うん。えへへ。先輩、大好きだよ!」


 ああ閻魔様。今すぐこいつの舌を切ってください。なんでこいつ、好きでもない男に簡単に好きとか言うわけ?犬とか猫に好きっていうのと同じくらい気軽に言った好きだとしても、俺は今すぐお前のこと押し倒したいぐらい心が乱れるのに。腕を組まれて車に向かう。なんかもう、どうでも良くなる。無の境地とはこういった感じだろうか。


 家まで送る間、当然車内に二人きり。今日のワンピース丈が短すぎない?座ると太ももが見えるんですけど。さっきのバーでも太もも見せてたの?見たやつ全員殺す。


 隣でなんだか楽しそうにお喋りしてるけど、太腿に触りたいとしか思わない。大分ヤバい。先程からなんだかいい匂いがしてクラクラする。俺は飲んでないのにね。


 なけなしの理性をかき集めて必死に煩悩と闘っていたのに。


「先輩手、冷たいね」


 なんて言われて左手を握られたから。そりゃもう理性も切れるよね?


 近くの公園の駐車場に車を止めると、おもむろに彼女に抱きついた。

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