第七の湯 ヴォラケルト
045:竜のあばら骨山脈をゆく
「ぐわー!!!ここ道か!?道なのか!?」
岩の多い裾野から、ゆるやかな登り道を進みながら迎えた山の中腹。そこは岩が隆起した辛うじて通れる幅の隙間、というのが正解のような道だった。
しかも問題がもうひとつ。
「あたたかーい」
「おい、イームルが壊れかけてるぞ。イームルおまえなんか冷やす魔法とか使えないのか?」
「おいしっかりしろイームル。とりあえず上着脱げ、それ冬服だろ?」
暑いのだ。防具を脱ぎ、夏服のような軽装でなお汗が滴り落ちるような暑さだ。
「比較的マシな道じゃぞ???」
人間、ひよわ……という顔をしてこちらを見ているカルラにツッコミを入れる元気も出ないんですよこちとら。
俺たちはセイールを出発して、カルラの案内で竜のあばら骨山脈の中ほどにある岩山を登っている。
……岩山、と言うか火山岩がごろごろしている、火山だ……。
ここの火山は元気に溶岩が噴き出しているらしく、その影響で、溶岩などカケラも見えないこの山道もだいぶ気温が高い。海沿いの街クワートの夏といい勝負なのでは?ってくらい暑い。
そんなわけで、俺たちは結構グロッキーである。温泉があるなら今すぐ入って汗を流して寝たい。
いや、こんなところで寝られるわけはないんだが。
現実逃避気味の思考になってるのは自覚してるんだが、もうそんな難しいことを考えるのもつらい、みたいな気持ちになってきた。にんげん、ひよわ……。
「この坂道を登り切ればすぐじゃぞ〜」
カルラのその言葉は嘘ではなかった。登り切った道から見渡した景色には、確かに温泉が沸いている様子が見えたのだ。
岩山に囲まれた、窪みというよりは池に近いくらいの大きさの水もといお湯らしきものと、水面に湧き立つもうもうとした湯気。
湯気?このクソ暑い岩山で???
「沸きすぎでは……?」
目の前でごぼっ、ごぼっと湧き立っているお湯の色は綺麗な翡翠色で、蒸気が沸き立って辺りを包みこみ、明らかにこれは入ってはいけない雰囲気を醸し出してる……。
「……これは無理では?」
「無理だな」
「無理だよ、オレたちか弱い人間だよ?」
「え〜〜〜無理なのかの?この程度で?」
人外目線!!!
俺たち3人はこの湯気の立つアッツアツの温泉というか熱湯風呂に入ったら間違いなくいい具合に茹で上がる。それだけは間違いない。
あっもしかしてそれが目的で……?茹だったところを美味しくいただくつもりで……?
思わずジト目になってカルラを見てしまったがそれはしょうがないだろう。
「ちなみにここには、かつて勇者も来たらしい?」
「なんで疑問系?」
唐突に話が変わったな。カルラが首をかしげながら言うが、なぜ疑問系なんだ。長生きっぽいし会ったことあるんじゃないのか。
「だって我は見たことないもの、勇者」
「寝てたって言ってたねえ。起きてからも会わなかったの?」
「まあそうじゃの、勇者がこの大陸におった時代というか、魔王が現れるずっと前からここで我は寝とった。起きたのは最近じゃ」
「へー……」
あれ?なんか引っかかったぞ?
ここの火山にはドラゴンがいるって話で……。流れからしてここで寝てたというカルラは……
「ド……っ、ドラゴン……っっっ!?」
思わず声がひっくり返ってしまうくらいにびっくりしたんだが、俺以外の3人は落ち着いたものである。
「なんじゃ、今頃気づいたのか」
「遅くない?ラッシュ」
「さすがに俺も気づいたぞ」
えっ……ほんとに?気づいてないの俺だけだったの???マジで???俺だけのけものだったの???さみしくない???
「うむ。ちょっと元の気配を出してやろうかの」
ひとり地味にショックを受けていると、カルラがそういえばみたいな雰囲気で言う。
そして次の瞬間、ぶわあっっと凄まじい圧力が放たれた。
「………………っっっ!!!!!!」
なんなんだいきなり!ていうか、これ魔力なのか?すごい量だ……!!
俺たちはのけぞったり腰が砕けそうになったりその場にうずくまったり、とにかく衝撃に耐えた。
今まで感じたことのないデカさの魔力量に頭が真っ白になりそうだったが、圧力と衝撃が落ち着いてから、改めて叫んでしまった。
「……うそー!!!みんななんで!?なんで知ってたんだ!?」
「いや、さすがにカルラ本人に聞いたからな。むしろなんでここまで聞かずにいれたんだ?」
「ラッシュ、そういう後一歩のところで踏み込まないよね……無遠慮に踏み込まないのはいいことだけどさ。たまには自分から行ってみなきゃ。だから友達から先に進めなかったりするんだよねえ」
「ぐっっっっ」
おい、なんだいきなり。別の話題で被弾したぞ?ひどくない?
「わかったかの?我はこの地に棲まうドラゴン、カルラクルラである!」
空気を読まないカルラがドヤドヤッと胸を張り、宣言してきた。
そっかあ……ドラゴンだったかあ……。
ちょっと遠い目をしてしまったのはしょうがないだろう。だってドラゴン助けた男だぞ俺は。
「えっていうか待って?どこで助けたんだ?ドラゴンってでかいんだろう?流石にこの大陸ほどじゃないけど小山くらいはあるって本に書いてあったぞ?」
そんな大物助けた覚え、ますますないんですけど……。
「しょうがないの〜、我その時は少しサイズが小さかったのじゃ」
「小さいサイズ……?」
「うむ、このくらいかの?」
両手で俺の手のひら3つ分くらいの隙間を示された。
このくらい……このくらいの……ちょっとでかいトカゲのような……あっっ!!!もしかして!!!!
「子供に追われて沼にハマってたトカゲ!!!」
「トカゲとはなんじゃ失礼な!!小さいサイズでもドラゴンじゃぞ!?」
即座に訂正が入るが、いや、小さいサイズでトカゲっぽかったじゃん……羽とかなかった気がするけど……。
「そういえば呪いのせいで飛べなくなっておったの」
「トカゲで合ってるじゃんか!」
あ〜〜、あれかあ……あれだったかあ……。
俺はようやく合点がいった。確かに助けたわ。しかもぬかるみにハマってちょっと時間が経ってたのか弱ってきてたから、この手のトカゲの好きそうな果物とかもあげた気がする。泥から抜け出したらピューっと逃げてったが。
「そっか〜……いや、なんか無事でよかったよ。あの後ちゃんと生き延びたか気になってたし」
「うむ。なんとか呪いも解いて元の姿に戻れたからの。大丈夫じゃ。その節は世話になった」
「いやいや、俺のしたことはちょびっとだし……」
あー、しかし色々な疑問が解けたのはいいが、なんか一気に疲れた。
目の前の温泉入れるもんなら入りたい。入ってゆっくりしたい。
人はそれを現実逃避という。
「あはは、ラッシュの目が遠くなってる」
「いま全部置いといてとりあえず風呂入りてえって思ってるな」
そうだよ。よくわかるな2人とも。
「む、じゃあ入るか?温度を下げればいいのであろう?あの湯は温度が高いだけでその他は人が入っても問題なかったはずじゃが」
カルラがすっと手をかざすと、温泉の横の地面がボゴボゴッと抉れていく。
あっという間に4人くらいなら入れる程度の水溜りが出来上がり、そこに沸き立った温泉から湯が少しずつ流れていく。
「これなら文句はなかろう。ほれ、温度の確認をせい。適度なところで止めるからの」
「あっちょ、ちょっと待って!」
俺は荷物を置いて駆け出した。お湯の加減を見なければ!!
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