042:セイール到着


 レイノルドさんたちと別れ、その晩は宿屋の風呂に入ってゆっくり温まってから、即ベッドに入ってそのまま眠ってと、最高だった。

 無事気力も体力も回復した翌日、コッポ村から出発し、数日かけてセイールに到着した。


 ここら辺にくるとはほぼ雪が溶けていて、残っているのは日陰の隅とかにちょっと残ってるくらいだ。 

 心なしか吹き付ける風もやわらいでいて、春の予感だな〜。


 セイールの街の街壁はわりと厚く、岩山に接するように街が広がっている。

 あの岩山のどこかに洞窟温泉があるのか。早く入ってみたいなとそわそわしてしまう。



 俺たちは到着早々、冒険者ギルドを探している。道中で雪の中にだけ芽を出す山草や薬草を摘んできたので換金するためだ。

 一応この街には冒険者ギルドがあると聞いてきたんだが……。あんまり小さい村や町とかだとなかったりするので、主要なギルドの所在地リストも確認してきた。ので大丈夫なはず。


「あっ、あれかな?でも看板いっぱいかかってるな……?」

「商業ギルドも冒険者ギルドもあるのう?」


 大通りを1つ入ったところでようやくそれらしき建物を見つけたのだが、看板が複数あるが入り口はひとつ。煉瓦造りの3階建て、この街の中では高い方の建物に入る。俺たちの背より1.5倍くらいでかい入り口の扉は閉めてられているが、鍵はかかってないみたいなので入れるんだろう。


「これは……ここに入っていけば中で別れてるのか?」

「多分……入ってみないとわからないよな……とりあえず入るか……」

「そうだね〜こういのは行ってみるほうが早いよ!こんにちはー」


 そう言ってイームルが早々に扉の取手に手をかけた。

 ガタン、と大きめの音を立てて扉が開く。


 中は吹き抜けのあるホールになっており、左右に廊下が伸びてその手前にそれぞれ受付カウンターが設置されている。

 天井近くに採光窓があるのか、中は意外にも明るい雰囲気だ。しかも暖かい。


「あ、扉が閉まってたのは隙間風防止か」

「しまった、じゃあ扉閉めて来る」


 慌てて最後尾の俺が扉を閉めに戻る。

 残ったみんなは冒険者ギルドの受付らしきカウンター前に移動していた。


「冒険者ギルドへようこそ……?おや、この街は初めて?それにしては顔を見たことがある気がするんだけど……」

「あ、えーと。紹介状があります」


 受付に座った40歳前後の男性職員が首をかしげている。これは多分親がらみでは?と、俺は旅の間しまい込んでいた両親の紹介状を出す。


「おや、これは……ラルグさんとリリアさんとこの?あ、君はティオさんの?」

「あっ、やっぱりご存じなんですか?」

「えっ、うちも!?」


 俺とイームルが思わず受付の人を見る、とニカッと笑ってうなずいた。


「俺、駆け出しの頃めちゃくちゃお世話になったんだよ〜お元気かい?」

「はい、2人とも元気に宿屋やってます」

「うちも元気に魔法屋です!相変わらず仲良いから戻ったらしれっと2人目できてたりするんじゃないかなって」


 アハハ相変わらずだな〜と受付の人もといオルゴさんは笑いながら聞いていたが、そういえばとごそごそと受付のカウンターの下に潜って書類を出してきた。


「あ、そうだ。着いて早々悪いんだが、ちょっとした依頼があるんだ、受けてくれないかなあ」

「?俺たち戦闘はからっきしですよ?」

「ああ、うん大丈夫大丈夫そういうのじゃないから……。トレッサの街からの依頼でさ、薬草を取ってきてほしいんだよ」

「トレッサ?もしかして依頼主はニコラ・シュニット研究所ですか?」

「そうそう、そこだよ〜知ってるの?」


 なんだか聞いたことのある依頼だな……と思ったらそのまんま、ニコラ所長のとこからの依頼だった。

 こんなところまで手を広げてるのか〜やり手だな、所長……。


 ギルド間は特殊な魔法を使った魔道具があるので、手紙くらいのものはやりとりできると聞いているが、そういうので連絡しているんだそうな。

 そういう魔道具はもちろんものすごく値が張るので、一般市民である俺たちはほとんど見たことがない。だいたいどんな魔法を使ったら手紙を瞬時に別の地域に送れるんだ?まったくわからん。

 その辺は勇者がいた時代に、勇者パーティにいた賢者と呼ばれる人がゴリっゴリに開発していったらしい。その魔道具もある程度解析されたものや、まったく構造がわからんというものまで色々らしい。

 は〜、すごいな……戻ってきてくれないかな、賢者様。そして馬車より安全な移動手段を開発してほしい……。


 思考が逸れたが、薬草、薬草だ。


「トレッサに寄った時に薬草採取の依頼受けてました」

「それなら話が早いね!この辺の雪が降ると生えて来る薬草がほしいんだって」


 オルゴさんと顔を突き合わせ、依頼書類をあらためて読みながら確認すると、道中で採取したのと同じ種類がいくつかあった。


「あー。それならいくつか途中で採ってきてます」

「お、そうなの?結構採取方法が細かく指定されてるんだけど大丈夫?」


 はっはっは、それに関しては研究所で直に仕込まれてるから多分クリアしてるぜ!!


「採取方法見せてもらってもいいですか?えーと、これとこれは今出せます。数は5束。魔法鞄マジックバッグに入れてるので劣化はほとんどないと思うけど……」


 魔法鞄から、採取して束にした薬草を取り出していく。

 知ってる薬草からちょっと形が変わってるけど、多分これ薬草だよな?と皆で確認しながら摘んできたやつだ。


「えっすごい、ほとんど埋まったね!?」

「残り2つはこの辺で取れるのか?それなら宿を決めて午後から行くか」

「ああ、この辺の半刻くらいのとこに点在してるはずだよ。えーと、じゃあ揃ってから納品してもらったほうがややこしくなくていいかな。そうしてくれる?」

「はーい。じゃあちょっと行ってこよっか……あ、そうだ、この辺で安くて美味しい食事どころってどこかないですか?」

「そうだな〜俺のオススメはこことここかな……」


 薬草の束を確認し終えたオルゴさんが、カウンターの下から街の地図を出して教えてくれた。街の地図常備してるんだな、ここ。


「ここは商業ギルドも同じ建物に入ってるから、わりと連絡が密でさ〜こういうのも最新版をちゃんと回してくれるから便利なんだよな」

「へえ〜〜」


 おすすめの店の場所をメモした紙をもらい、宿屋を探しに冒険者ギルドを後にした。





「えーと、洞窟温泉は公共の温泉らしいな……露天風呂だし、ずっと開いてるみたいだし、宿取ってから入りに行くかあ」

「む、この肉のピリ辛タレ美味いの」

「そうだな、肉も漬け込んだ味が染みてる」

「こっちの小魚のフライも美味しいよ〜、これ岩塩かな?こっちのソースつけても美味しい」


 俺がまじめにメモを見ながら温泉の下調べをしているというのに、おまえたちときたら!!

 まあ、俺も肉をもぐもぐしながらですが。横からカルラが面白がって口に突っ込んでくるのだ。もぐもぐ。確かに美味しいな、このピリ辛タレ。


「そこの屋根のついた通路通っていけば着くんだって」


 イームルがもぐもぐしながらも、ちょっと離れたところに見える屋根らしきものを指して言う。

 あー、通路?確かにどこかに続いてるな……。


「あれか?わりと街の奥の方に行くんだな」

「山裾の洞窟って言ってたからなあ……宿屋決めたらちょっと覗いてみるか?」

「どうせなら入っていくのじゃ。肉を食ったが冷えておるからちょうどよかろう」


 俺たちは露店が集まっているエリアに設置されたベンチに座って、食べながら相談していた。

 確かに風にさらされて冷えていたので、満場一致で温泉に行くことに決定した。


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