027:風呂場で騒がない
ちなみに宿はやはり4人ひと部屋になった。満場一致で風呂のある宿にしたので、各自荷解きをして準備を終えたら久々の入浴です!!
ここの宿屋の風呂はなんと男湯と女湯と分かれている。定期的に女湯と男湯が入れ替わるらしい。
結構でかい宿屋なのだが、部屋のランクは高いのから安いのまであって、俺たちは安めのグループ用の部屋である。
まあ、ベッドが4つぎゅうぎゅうに詰まってる感じだが、基本は寝るだけなのでいいのだ。
「さて風呂じゃの」
「あー。じゃあ俺たちはこっちなので……」
ウキウキしているカルラに、俺たちはそっと男湯を指差す。
こういうとき1人だけ別行動というのはさみしい気もするが、しょうがない。
「ん?なんじゃ?なぜ我はそっちではないのだ?」
カルラが小首をかしげながら聞いてくるが、一応あなた女性……ですよね……?
胸は平らだが、男の身体よりも曲線が多いからそうだと思ってたんだが……え、違うの?
「えっカルラは女湯じゃないの?」
「え、女性、だよな?」
イームルとクレッグも女性判定!ヨシ!!
じゃない!
いや、ここまで本人に確かめてこなかったんだけど、まさか……違うのか!?
「ふむ……男と女で分けられておるのか……ならば」
一呼吸考え込んだカルラは、そのまます、と目を閉じた。
ゆらゆらと身体が霞み、再びカルラの目が開くと、そこには美青年がいた。
はっきり男だとわかる輪郭に、見惚れるくらいほどよく筋肉のついた身体。すらりと長い手足。赤い髪や翠の目はそのまま、きらりと光っている。
口唇の端を吊り上げてニヤリと笑う笑顔は、女性の身体だったときと同じいたずら。
「これでよかろう?さ、入るぞ?」
「えっ」
「ええええ!?」
「ええええええ!?!?」
「おぬしらうるさいぞ。静かに風呂に入れ」
幸い男湯にはまだ誰も入っていないようだった。怒られなかったけどとりあえず反省した俺たちは黙々と洗い場で旅の汚れを落とした。
そしてようやくつかった湯船の中。湯煙の合間にぽつぽつ雑談をしている。
「や、やっぱりこの世のものでは……ない……?」
「何をいうとるのじゃ、我はここにおるんじゃから、この世のものじゃ」
「……なるほどたしかに。身体もあるもんな……」
俺は、明らかに男の身体になったカルラに恐る恐るどういうことかと尋ねていた。
ビビリというなかれ。クワートで会った時のアレは結構トラウマになったんだぞ!
クレッグとイームルは久々の風呂を堪能しているらしく、ゆったり湯につかっている。身体を洗ったタオルを絞って頭に乗せたイームルなんかはのんきに鼻歌を歌ってるが、疑問に思ってるの俺だけなの!?
ちなみにカルラは両腕を浴槽のふちに置き、湯から上半身が出ている半身浴状態だ。こちらもくつろいでいるのがよくわかる。
「身体はあるとして、女から男になったりするのはなんでなんだ?そんなに自由に行き来できるものなの???」
「それはまあアレじゃ、我に性別は元々ないのでな」
「性別が……ない……?」
「そうじゃ。だからどっちでもいい」
「…………」
どっちでもいいの、か……。
魚とかにはオスからメスになったりするのがいると聞いたことはあるけど、それは元々はオスだな……またちょっと違うか……。
俺は遠い目をしながらそれ以上考えるのをやめた……。
本人が問題ないならもう……いいや……。
ずるずると湯に顎くらいまで沈む。あったかいなあ、風呂。
「自分で変えられるなら便利だよねえ」
「おぬしたちに警戒心はないのか?」
「いやー、正直格が違いすぎて反抗する気にならんというか」
「なんか危害加えられるなら、もうやられてるかなって」
俺が沈黙していると、残り3人でぽつぽつと話していた。
旅の闖入者は本当に謎だ。
だが、その存在に馴染んできている俺たちも大概である。
◇◇◇
スーの宿屋(の風呂)で英気を養った俺たちは、意気揚々と王都を目指す。
……のだが、街道は結構混み合っていた。さすが王都近辺。人が多い。
街道近くの狩場もちょっと混み合っているので、少し離れたところを進みながら狩りをしつつ王都を目指していくことにした。
季節的に真夏はとっくに過ぎ、そろそろ秋も深まってくる頃合だ。
山や森は木の実や果実をつけ、獣たちは冬に備えて肉を蓄える。そう、狩りの時期なのだ。そのためちょいちょい他の狩人の気配を感じる。
姿が見える位置で何かしていると、お互い獲物を逃すので、気配を感じるとそっとその場を離れる。流れ矢に当たったりしたら悲惨だし。
ウサギやキツネなどをそこそこ狩りつつ進む。
カルラは少し姿を消したと思ったら獲物を持って戻って来たりする。解体は苦手らしいので、俺がやっています。
俺は罠を仕掛けるタイプなので、今回はやることがあんまりないからいいんだが。
ほれ、と仕留めたらしきウサギを3羽まとめて渡される。
少し進んだところに川を見つけたので、俺がウサギを解体していると、めんどくさそうな顔で寄って来た。
「細かい作業は苦手じゃ。こんなもの丸っと齧ってしまえばいいのに」
「俺たちの歯と顎はそこまで丈夫じゃないのでぇ……」
たまに人外っぽいこと言うのやめてもらえますう!?
一応そっとしてるんですが!
いや、特に隠してないので聞けば教えてもらえると思うんだけど、なんとなく聞いたらヤバいものが出て来そうなので俺は知らぬふりを貫いている。
小市民たるもの、目の前にあるキラキラの財宝に飛びついたらそのまま罠にかかって即死というパターンを心に描いて己を制すものである。
俺たちは昼までに狩りをし、少し進んで野営場所を探して夜を越す。夜の間に肉を燻製にしたり毛皮をきれいになめしたりして売るための加工をするのだ。
そんな感じで10日ほど歩くと、西に行けばリッツェル、北東に進めば王都という街道の分かれ道にたどり着いた。ようやく目印的なものが出て来てホッとした俺たちは、たまにすれ違う旅人や馬車を軽く避けながら、王都側に進んでいく。
大きい街道にはある程度の間隔で魔物避けの効果のある碑が埋められているらしく、害意があるものを近寄らせない。
それは普通の動物や人にも効くらしく、森や山ほど警戒する必要がないので俺たちは少しだけ気を抜いて歩いていた。
「そういえばカルラはあんまり騒がれないな。だいぶ目立つ容姿だと思うんだが」
「ああ、我を認識できぬよう阻害魔法をかけておる」
「えっすごい魔法じゃん!!」
「あー、なるほど、それでか。俺とイームルは最初わからなかったからな」
確かに、ウノで会った時とかは2人とも普通だったな……俺はあまりの美しさに文字通り目が潰れそうになってたのに。いや、今もあまり気にしないようにはしているが、たまにウッとなりそうになる。
街道の分かれ道を過ぎるともうあとは王都まで一直線だ。
どんどん街道の道幅が広くなり、敷かれたレンガもしっかりしたものになっていく。
「すごいねえ、真っ白なお城だ」
「ここからでも見えるもんな……アレが王城かあ」
「相当でかいな。街壁も本当に3層くらいあるみたいだし」
だんだんと近づいて来た街壁と、それらの向こうにあるお城を見ながら俺たちは歩いていった。
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